第53話 新しい剣・下
今日は時間通り投稿。
◆
『少し待て』
20階層の階段を上がったところで、不意に声が聞こえた。
誰かと思ったが、さっきの鈴木の剣に宿っていた奴の声だな。
ここまでこればさほど強力なモンスターも出てこない。
かなり息が上がってきたし、幸いにも周りに敵の気配もない。一息入れよう。
足を止めて待っていたら、もう一度さっきの奴の姿が目の前に浮かんだ。
そいつが両手を左の腰に当てるようにして会釈するように膝を曲げる。
「どうかしたのか?」
『使い手よ、お前の名は何だ』
「草ヶ部耀」
『私はお前に従うことにした。我が名は
「……えらく唐突だな」
さっきは折ってくれとか言っていたが……さすがに意思を持つ剣を折るのは気が引ける。
何処かのしかるべき寺院とかにでも奉納しようかと思っていたんだが。
どういう心境の変化なのか、色々と状況が把握できない。
『但し、条件がある』
「なんだ?」
『我が主を殺したものと対峙するのなら、私はお前に従う。どうだ?』
要するにかたき討ちなら協力するってことか。
正直言って鈴木の上がどこの誰だかは知らないし、俺達の事なんて放っておいてほしいとは思うが……残念ながらそうもいかなそうではある。
となると戦力は多い方がいいのか。
恐らくこの会話は聞こえているはずだが、
「そういうことなら分かったよ」
『私は強い。必ずやお前の役に立つ』
そう言って
「なら、こっちからも聞きたいことがあるがいいか?」
『答えられることなら答えよう』
「まずあいつの主は誰だ?」
『それは知らん。私は戦うのみだからな』
あっさりと
とはいえ、天目とかも人間の社会とか事情にはあまり興味はなさそうなので、そういうものなのかもしれない。
「じゃあ次だ。お前は……というか、鈴木は人間を斬ったことがあるか?」
『ある』
これは鈴木も言っていたことだから答え合わせみたいなもんだな。
『だが、人と戦ったのはかなり久しぶりで、ここ二年ほどではお前が二人目だ。
私が食らったのはそれより前、我が主が言うところの敵対勢力とやらだ……名は思い出したら話す』
「いつからあいつに従った?」
『人間の暦ではおそらく5年ほど前だ』
ダンジョンが現れてそろそろ3年経つ。やっぱりその前から少なくともダンジョン的な存在はあったということか。
「とりあえず今はこれだけだ。また何かあったら聞くと思う」
『
そう言って
今のところ分かったことは、ダンジョンは昔からあってそれをめぐって対立する勢力があること。
そして、今回俺たちに絡んできたのはその片方ということか。
リュドミラに聞けばもう少し答え合わせができるかもしれない。
「しかし、一体……どういう心境の変化なんだ?」
『あたしが説得したんだよ』
独り言を言ったところで天目の声が聞こえた。
「何を言ったんだ?」
『あんたの主は、それより上の奴らに捨て駒にされた。
そいつをそのままのさばらせたまま、折れて朽ち果てて、そんなのでアンタは無念じゃないのか、思い残すことはないのかってね』
「……なるほどな」
鈴木の主からすればあいつを尻尾切りしてめでたしめでたしのつもりだったかもしれないが。
まさかその剣がこんな風に話すとは想定外だろうな。
誰かを雑に切り捨てたり軽んじれば報いがあるということなんだろう。
◆
「師匠、お帰りなさい!」
「草ヶ部様……ご無事で本当に良かった」
重い足を引き摺ってどうにか八王子の入り口まで戻ったら、すぐに二人が駆け寄ってきた。
蘭城さんが抱き着いてくるが……今はそれを受け止めるのも結構しんどいぞ。
「やっぱりニンジャマスターだ!」
「見てください、ついに生ニンジャマスターを撮れました!」
「やったぜ!」
「インタビューさせて!1分で良いから!」
その後ろからドローンを連れた配信者が10人ほどゾロゾロとついてくる。
10階層で一人に見つかったが、思ったより疲れていたのか今日は走って振り切る元気が無かった。
「皆さん、師匠は今はとても消耗されてます」
「あとから私たちのチャンネルでお話ししますわ。今は控えてもらえませんか」
「ニンジャマスターをあれだけ消耗させるってどんなバトルだったんだよ」
「セーラちゃん、俺のチャンネルとコラボを頼みます!」
「俺も!」
「私もお願いします!」
周りからいろんな声が上がるが
「済まないが、ちょっと休ませてくれるか?」
「そちらに車がいますわ。すぐに休める場所を手配します」
「師匠、これを!」
長壁さんがポーションを差し出してくれる。
レッドドラゴンのドロップアイテムどころか、新しく一本の剣を持って戻ってきた俺であるが……特に二人は何も言わなかった。
今は色々と聞かれるのは億劫だから助かった。
木林の車に4本の剣を載せて、座席に座ってポーションを飲むとようやく疲れが引いて気分が落ち着いた。
◆
続きは明日に更新します。
4章の最後まではあと3~4話ほどの予定です。
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