第51話 決闘
いつもの時間よりちょっと遅れました。
◆
「本気とは何だ、笑わせてくれるな」
鈴木が言って剣を振ろうとしたが、風きり音を立てて鴉が空中から斜めに突っ込んできた
『その首、頂戴いたす!』
危険を察したのか鈴木が身を反らして避ける
「その防具がどれだけ硬くても急所全部はカバーできないだろ」
今のはまっすぐに喉を狙った軌道だ。
胴や足、腕は軍服のような防護服に覆われているが、喉や手首、顔は無防備だ。
スライムのドロップアイテムの効果とやらがどんなものはかわからないが、当たればダメージはあるはず。
鴉は元がくのいちだからのなのか、急所の狙い撃ちはお手の物だ。
鴉がまた風のように飛んで青い壁に溶け込むように消える。
鈴木が舌打ちして周りを警戒するように見た。
致命傷にはならなくても意識させるだけで十分に圧力になる。これは人間もモンスターも同じだ。
「ただ、本命はこっちだ」
焔が陽炎のように揺らいだ。
「炎など通じはしないといっただろうが」
鈴木が言って鈴木の周りを影から伸びがった塊が守るように覆った。
黒い塊に口がいくつも開く。炎をさっきみたいに飲み込むつもりなんだろう。
「死ぬがいい」
「天目、焼き尽くせ!」
『任せときな!』
鈴木を守る影から何本もの黒い触手が伸びてくる。先端にはそれぞれ牙の生えた口が開いているが……こっちのほうが速い
俺の周りを風が巻いて青い炎を吹き上げた。炎が渦を巻いて青い竜巻のように一気に広がる。
「なんだ?」
青い炎が伸びてきた触手を薙ぎ払った。触手が削り取られたように消える。
影に開いた口が焔を飲み込もうとするが、押し寄せる焔の塊がそのまま影と鈴木を飲み込んだ。
焔の燃える音の向こうから悲鳴が上がる。
焔が消えた時には黒焦げになった鈴木が転がっていた。
◆
軍服のような衣装は黒焦げになっていたが……完全に消し炭にはなっていなかった。
焼け焦げた全身に火傷が見えるが……しばらく見ていたら、焦げた部分がはがれていって火傷が治っていった。
これがスライムのドロップアイテムとやらか……大した効果だな。
しばらく見ていると、うめき声をあげて鈴木の目が開いた。
とりあえず剣は手放しているから戦闘能力はもうないだろうが。
「鴉」
『もはや戦力はありません』
|見(ケン)を頼むまでもなく、鴉の声が聞こえた。
鈴木が体を起こして俺を見る。目には怯えの色が見えた。確かにもう戦意も無さそうだな。
「なんなんだ……これは」
「これが俺の全力だ」
天目と
やっていることは我ながら単純だが、高火力の面制圧攻撃は単純であるが故に強力だ。
ただ、それこそ周りをモンスターに囲まれるとか、途轍もなく動きが速いモンスターを倒すとか、そういう状況じゃない限りあまり使いでがない。
その上に大規模攻撃だから俺の方も結構消耗する。使ったのは久々だが、前と同じくずっしりと重い疲労感がある。
……それを悟られないように気を強く持つ。
「なぜこんな力を隠していたんだ」
「使う必要が無い時は使わないってだけだ。隠してはいない」
どんな仕事でもことでも、熟練すればその動作は最適化され効率的になる。
無駄を削ぎ落とされて最適化された行動は地味に見えるが、地味に見えることに本質は宿ると思う。
「|採掘者(ブルーカラー)にはパフォーマンスも威圧も必要ない。そもそもそれを見せる相手もいないしな。
釘を打つ時にパフォーマンスする大工がいるか?俺たちはただ、目的を果たすために最適の行動をとるだけだ」
そういうと鈴木が項垂れた
「それに戦いには下々もなにも関係ない。俺を下に見て侮った時点でお前の負けだ」
こいつが俺を甘く見ずに最初から殺しに来ていたら……勿論それも想定して心構えはしていたが、別の展開もあったかもしれない。
能力の上下ならさほど差は無かったかもしれない。
敵を見下すことには何の意味もない。
ただ負けの確率を増やすだけの愚行だ。
◆
「じゃあさっきの質問に答えてもらう。
お前らは何者だ。そしてダンジョンとはなんだ。知らないとは言わせん」
冬夜商事とは何なのか、どういう組織なのか。
それにダンジョンとはいったい何なのか。
世界の深層、なんてものを今まであまり考えたことは無かったが、その存在を知った以上は知らないふりは出来ない。
それに今後どうなるにしても情報は多い方がいい。
「この場に置いていかれたくなかったら話せ」
人死にが出たら相手もメンツをかけて潰しに来るだろうから、できればこいつは殺さずにおきたい。
それに大事なのは情報を得ることであって殺すことじゃない。
重要なのは目的を達することだ。
「無意味に殺すつもりは無いが、必要なら躊躇はしない」
鈴木が怯えたように周りを見た。
この剣がなければ治癒能力があってもこの階層から戻ることは出来まい。
ここに置いていくというのは、それこそ装備無しの裸で深海や高山に放り出されるようなもんだ。
どうなるかは分かるだろう。
鈴木が考え込むように俯いた時に、赤いものが床に滴った。
鈴木が顔を上げて俺を見る。赤い血が涙のように流れていた。
血をぬぐった鈴木が愕然とした表情を浮かべる
「おい……どうした?」
「そんな……なぜ」
鈴木が小さくつぶやいて、糸が切れたように体が床に崩れた。
◆
続きは明日に更新します。
4章の最後まではあと3話ほどの予定です。毎日投稿するぞ!……と自分を鼓舞する
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