第46話 長壁さんとの訓練と約束 

 昨日の土曜は蘭城さんと二人きりだったが、今日は長壁さんと二人きりだ。

 蘭城さんだけ二人きりなのはダメ、ということらしい。


 俺の都合はなんか無視されているような気もするが、特に急いでやることがあるわけでもない。

 どうせ何もなければ三人でダンジョンにいたわけだしな。


 そんなわけで待ち合わせの八王子駅前に来たが。


「おはようございます、師匠!」

「此処で師匠はやめてくれ」


 今日は普段着で来ているが、やっぱり特に周囲の注目を集めなかった。

 あくまで俺の顔を知りたがるのはダンジョン関係者とか配信者のファンとかなんだろう。


 ただ、街中で師匠なんて呼ばれると奇異の目で見られるわけで、一斉に周りの通行人の視線が集まった。

 

「あれ……配信者ってやつかな?」

「なに、有名人?」

「オッサンと女の子って……どうなの?」


「親子じゃないよな」

「ヤバくない?通報しようか?」


 周りからひそひそ話が聞こえてきたから、とりあえずその場を離れた



「すみません、師匠」


 とりあえず近くのファミレスに逃げ込んだ。

 神妙な顔で長壁さんが言うが……まあ大事にならなかったから良しとしよう。


「で、今日はどうする?」


「一番弟子として、マンツーマンで特訓をして頂きたいです」

「なるほど、そういうことならいいぞ」


 正直言って二人きりでまた昨日みたいなことをするよりは戦ってる方がいい。


 何処に行こうかと思ったが、淵野辺のダンジョンに行くことにした。

 鑓水ダンジョンは人目につかず、ある程度安全も確保されていて練習場所としては理想的だったんだが、ダンジョンウォーカーズだかが騒いだお陰でたまに人を見かけるようになった。


 奴らのチャンネル自体はBANされて、その後どうなったかは知らないが。

 流れてしまった分の迷惑については、動画のように消すことは出来ない。


 移動は社用車という名目で使わせてもらっている国産のハッチバックを使った。

 配信者は一般的にはなっているが、それでも刀を持ってそこらをうろうろするわけにはいかない。普通に警察に捕まる。


 なんでも、ダンジョン以外のところで一般の人に迷惑をかけるな、というのは配信者の仁義マナーらしい。

 ダンジョンのなかは色んな意味でグレーゾーンだがこの辺は結構きちんとしているな。


 淵野辺も割と昔からあるダンジョンで住宅地のど真ん中の交差点に現れたダンジョンだ。

 周りは全部引っ越して空き家になっている。こんなものが突然現れて引っ越しせざるを得なくなるのも災難だな。割と新しい家もある。

 

 淵野辺ダンジョンの一階層に入ったが、今日も人の気配はなかった。

 ただ、この奥にもリュドミラのような奴がいるんだろうか、等と思うと昔のように気楽に潜れないな。


「そういえば……なんでチルタは俺には全然従ってくれなかったんだろうな……何か聞いてるかい?」

「あー、えっと……あの」


 長壁さんが口ごもる……どうやら聞いてはいるらしい。


「チルちゃん……言っていいの?」


 長壁さんが声を潜めてつぶやく。

 武器に宿る意思は基本的に姿を見せないが、俺が天目や鴉、燁蔵かぐらと話せるように、持ち主なら普通に意思疎通は出来る。


「……師匠は昔好きだった人に似てるんだそうで」

「ああ、そうなのか」


「でも、その人がなんというか、浮気性の方だったそうで……最初はいいなと思ったけど、なんか後から腹立ってきたって言ってました」


 長壁さんが言い難そうに言う


「それは俺にどうしろっていうんだ」


 非常に理不尽を感じるが

 ……とはいえ、チルタを長壁さんという使い手に渡せたんだから良しとしようか



 3時間ほど、淵野辺の10階層で出てきたモンスターと戦ったり、長壁さんの動きを見た。

 蘭城さんには言えないが、今の時点では恐らく長壁さんの方が強いな。


 前に見た時よりもさらにチルタを使う練度が上がっている。

 空中に作った氷を足場にして二段ジャンプのようなことまでできたのは恐れ入った


 俺が使っているときは性能は高いが、とにかく効果が安定しないっていうイメージだったが、使いこなせばここまで正確になるのか。

 攻防兼備と言う意味では天目に近いが、より攻撃的だ。


「如何でしょうか、師匠!」

「本当に強くなったな」


「ありがとうございます……師匠に恥じないように精進しますが……師匠、あたしが20階層を越えて行けたら一つ御褒美を頂きたいです」


 長壁さんが遠慮がちに言った。

 なんかこれは蘭城さんにも言われたな。


「なんだ?」

「師匠が本気で戦う姿を見てみたいです。本当の全力を……一番弟子のあたしだけに」


 昨日の蘭城さんに劣らない位の真剣さで長壁さんが言う。


「人間はどのくらいまで強くなれるのか……あたしはどのくらいまで強くなれるのか知りたいんです。やる以上はトップを目指したいので」


 長壁さんが言う。


「ドラゴンを倒す時も多分全力じゃなかったですよね」

「まあな」


 良く見てるというか……分かってるな。


「手を抜いてるわけじゃない。採掘者ブルーカラー仕事は生きて帰ること……ドロップアイテムを持ち帰るまでが仕事だ。

帰り道の余力を残さないと万が一に対応できない。だから全力ではなかなか戦えないんだよ」


 採掘者ブルーカラーは配信者と違ってギャラリーはいないから無意味に力を使う必要はない。

 そんなことより帰り道で万が一に備えるべきだ。深層からの帰り道は行きと同じ長さだ。危険はある。


 俺に限らず採掘者ブルーカラーは目的があって深層で戦っている。

 その目的がなんであれ、生き延びてこそだ。


「だけど、そういう希望があるなら見せるのはいいよ」

「有難うございます!必ずや20階層を抜けてみせますから」


 長壁さんが元気いっぱいって感じで言う。

 この二人の成長度を考えれば……20階層突破は多分そんなに遠い話じゃなさそうだな。



 続きは明日に更新します。

 4章の最後までは毎日投稿するぞ……と自分に圧を掛ける。


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