第48話 今後の行方

 水曜日は普通ならダンジョンに潜ってドロップアイテムを集める日だが、予定変更して昼前にアカデミアに顔を出した。


「草ヶ部部長、おはようございます」

「おはようございます」


 すれ違った社員たちが挨拶してくれる。

 一応肩書は取締役とかなんとかついているが、いまだにこの呼ばれ方は慣れないな。

 

 会社は例の冬夜商事の薬が出るまでの明るく活気がある雰囲気とは少し違っていた。

 建物の中に不安感と言うかそう言う空気を感じる。


「小津枝は?」

「社長室におられますよ、ご案内しましょうか?」

「いや、大丈夫だ。そっちの仕事をしててくれ」 

 


 社長室、といってもオフィスの隅の小さな部屋だ。

 会議室と同じように簡素な机と応接セットが置かれた部屋には難しい顔をした小津枝が居た。


「どうした?」

「昨日、こういう奴が来た」


 とりあえず昨日起きたことを説明すると、小津枝がため息をついた。


「そっちの方の交渉とやらはどうなった?」

「まあ、似たようなもんだよ」


 小津枝が淡々とした口調で言う。


「お前にはオファーはなかったのか?」

「あったよ。これ以上跳ねまわるな、20億出すからアカデミアを畳んですべて忘れろ……だそうだ」


「俺は30億だったぞ……あいつらがどこの誰だか知らんが、俺の方が評価が高いな」

「まあ、お前が抜ければどの道アカデミアはおしまいだからな。そうだろうさ」


 小津枝が苦笑いしながら言う。


「で、どうしたんだ。一応聞くが」

「アカデミアがどうなろうが、お前は娘の恩人だし俺はお前に借りがある。何があっても2度裏切ることはない」


「そうか」

 

 そりゃ金で転んでいたら、もうこいつはここにいて、机の前でしかめ面はしてないだろう。


「コーヒー飲むか?」

「今は酒の方がいいな。何かあるか?」

「まだ昼前だぞ……まあいいけどな」


 そう言って小津枝が机の一番下の引き出しからウイスキーのボトルとグラスを取り出した。

 自分で言っておいてなんだが……なぜそんなところに酒を隠し持っているのだ。



 小津枝が注いでくれたウイスキーを一口飲む。

 苦みがある味だが匂いが良い。多分高いんだろう……水車の絵が描かれたラベルを見てもその辺は分からんが。


「冬夜商事そのものか、それとも後ろに何らかの組織があるのか分からないが……まず間違いなくあいつらはダンジョンのことを知っている。俺達よりはるかに」


 ポーションが自分たちの商売の邪魔、というだけならここまではやらないだろう。

 俺達、下々の者が知る必要がない世界。


 ダンジョンに深層があるようにこの世界にも見えない深層があるってことか。

 余程の秘密なんだろう。


「冬夜商事は以前にも画期的な技術を持つ企業の商品を世に出している。

その内のいくつかは、もしかしたらドロップアイテムを使ったものだったのかもな」


 小津枝が言う。


「ダンジョンのことを昔から知っていたってことか?」

「其処までは分からない」


「お前みたいに手紙をもらった奴がいるとか?」

「どうだろうな……」


 小津枝が考え込む。

 この辺は推測でしかないから結論は出ようがないか。


「しかし、30億なんてポンと出せるのは半端じゃないぞ」

「少なくともアカデミアには無理だ」

 

 小津枝が言う。

 それにアカデミアは蘭城財閥と組んでいる。にもかかわらずここまで圧力を掛けてくるんだから相当のもんだろうな。


 冬夜商事は大企業でCMとかもよく見るが……知名度は高いもののよく考えると何をやっているかは具体的にはさっぱり分からない。

 改めて考えると得体のしれない相手だ。


「……断ったのは早計だったかもな」

「二人で口裏合わせて大金せしめる方が良かったか?」


 小津枝が性格悪そうな笑みを浮かべつつ言う。


「それも良かったかもしれないな」

「だが、芝居とは言えあの偉そうな連中の言いなりになるのは腹が立つ」

「それは確かにそうだ」

 

 小津枝が言って、グラスに残っていたウイスキーを飲み干した。

 俺も残りを呑む。強いアルコールが熱い塊のように喉を抜けていった。



「これからどうする?」

「あいつらの態度を見ればもう一つしかないだろ」


 そう言うと、小津枝が憂鬱そうな顔でウイスキーを飲んだ。


 金で説得して俺達のどちらかが転べばアカデミアは終わりだったが。

 転ばなければ資本力で潰すと言っていたわけだから、どの道アカデミアを潰すつもりだろう。


 金のオファーは俺も小津枝も蹴った。

 気が変わった、は通じないと言っていたから、もう立ち向かって火の粉を払うか、潰されるかのどちらかしかない。


「ただ、これからどうなるにしても……どこかで一発カウンターを食らわせておかないとダメだ。できれば早急に」


 これはダンジョンの中での経験だ

 これはモンスターとの戦いにも他の事にも共通すると思っているが、相手がどれだけ強くても……いや強いからこそ、前に出て噛みつき返さないといけない。


 逃げるときは背中を向けて真っ直ぐ逃げる方がいいように思えるが、そんなことをすればまず確実に食い殺される。

 やられっぱなしでいては舐められて踏みつぶされるだけだ。


「だが、どうやって?」

「……一つ、アイディアがあるんだが」


 鈴木の帰り際に浮かんだ表情を思い出す。

 あれだけ明確にアイツらのオファーを蹴っ飛ばした以上、黙ってはいないだろう。



 続きは明日に更新します。

 頑張って、4章の最後までは毎日投稿するぞ!……と自分を鼓舞する


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