第49話 深層へ

「じゃあ行ってくる」

「あの……師匠」


 八王子ダンジョンの外れの入り口の前でいつも通り蘭城さんと長壁さんに言うが。

 ……二人が不安げに俺を見上げた。


 今日は火竜の火種を捕りに行くと言ってある。

 今更俺がレッドドラゴンに負ける……とは思ってはいないだろうが、何となく普段と違う雰囲気は感じるんだろう。

 隠してはいるつもりではあるが、隠しきれてないらしい。


「まだお傍においてはもらえないでしょうか」

「レッドドラゴンが出るのは25階層より下だ。まだ20階層以降は行けないだろ」


 そういうと長壁さんと蘭城さんが何か言いたげに沈黙した。


「せめてドローンは連れて行ってもらえないでしょうか」

「師匠の戦いを……見たいです」


「今回はドローンは無しだ。悪いが」


 今回の目的にドローンは二つの意味で邪魔になる。 

 蘭城さんが俺の手を取った。力が込められた指からいろんな感情が伝わってくる。


「どうか……ご無事で」

「師匠には思いがあってのことでしょう……でも連れて行って貰えないのは、とても悔しいです」


 長壁さんが俯いたままで言う。


「必ず、次はお供できるように……一緒に来いと言ってもらえるようにします」



 いつも通りに八王子ダンジョンに入った。

 人の気配をなんとなく感じる10階層を抜けると、周りは静かになる。

 10階層より下は遠くからたまに戦闘音がモンスターの足音が聞こえるだけだ。


 少しづつ10階層より下で戦う討伐者アタッカーも増えているらしい

 師匠の影響ですよ、とは長壁さんの弁だがどんなもんだろうか。

 とはいえ、壁を誰かが越えて見せることは大きな影響があることは分かってきた。


 割と人がいる八王子ダンジョンだが、流石に15階層を超えると全く人の気配は無くなる。

 蒼黒い周りの景色も相まって深海を潜るとこんな感じなんだろうといつも思う。


 普段ならモンスターに遭遇するんだが、今日は嵐の前の静けさのように何も現れない。

 足音だけが回廊に響く。


 25階層まで来た。ここでも周りにはモンスターの気配はない。

 この辺りで良いか。


 丁度あった広間のようなで足を止めて待つ。

 しばらくすると今辿ってきた通路の方から足音が聞こえてきた。


 モンスターの重たい足音じゃない、人間の足音だ

 早足の足音が緩んで歩調が遅くなる。


 こっちが待っているのが分かっていたらしい……というか、この階層まで来れるなら当然か

 待っていると入口の方から黒い軍服のような衣装を着た男がゆっくりと入ってきた。

 

 誰かと思ったが

 ……オールバックのように後ろに髪を撫でつけて髪型が変わっているうえに、服装も違うから一瞬分らなかったが……鈴木か。



「私が来るのが分かっていたのか?」


 俺を見た鈴木が口を開く。

 俺の部屋で会った時よりも何となく背が高く、体格も良く見える。口調も違うな。


 背中には一本の剣を背負っていた。 

 俺と同じ能力だろうか。


「まあ、下々の者にあれだけ言われれば黙ってはいないだろうと思ってね。まさかご本人が来るとは思ってなかったが」


 金で抱き込めなければあきらめるという感じじゃなかった。

 となると、次は物理的に排除しようとしてくるだろうとは思ったが、予想通りになったな。


 今回、早速来るかはせいぜいで五分五分程度だと思っていたが

 ……余程癪に障ったのか。


「それに、俺を消したければダンジョンの中が一番いいだろ。だから来ると思った。

俺はなまじ名前が売れてるからな。ニンジャマスターを消すなら、深層でモンスターと戦って戻ってこなかった……が一番自然だよな」


 こうなると思ったから二人を連れてこれなかったというのもある。

 色んな意味であの二人を巻き込みたくはない。


 しかし、鈴木が来るとは思わなかった。 

 自分で剣を取るタイプには見えなかったから、そこは意外だ。

 

「そこまで分かっていて……お前はバカなのか?」


 鈴木が言う。


「しかもドローンを連れていないとは」

「連れていたらお前は来なかっただろ」


 下手すれば全世界にリアルタイム中継される状況ならこいつは現れなかっただろう。

 そう言うと、鈴木が馬鹿にしたように鼻で笑った。

 

「それは考えすぎだよ。これは我々の電波妨害装置ジャマーだ。これがあればドローンの電波は完全に阻害される」


 ポケットから黒い器具のようなものを取り出して鈴木が言った。

 そんなものがあるのか……まあ、あっても不思議じゃないか


「お前も採掘者ブルーカラーか?」


 そう聞くが鈴木が呆れたように首を振った。


「一緒にしてもらっては困るな。

私は君のような何も知らずに地の底で這いずり回りものとは違う」


 鈴木が剣を抜いた。


「私をおびき出したつもりなら全くとんだ思い上がりだ。

お前の戦闘の動画は見たが、たかがあの程度の力で強いつもりかね」


 鈴木の剣は中華風の柄と飾りがついた1メートルほどの両刃の直剣だ。

 長い刀身から黒いオーラのようなものが湧き上がる。


「世界にはお前が知らなくてもいい領域があると言っただろう。

私の黯蔭ヘイインで頭から喰らってやろう」


 刀身から吹き出したオーラが長く伸びる。

 どうやらこれも意思を持つ武器か。


『蛇の精が宿っています……ただ』


 俺が言うまでもなく鴉が教えてくれた。

 どんな能力かまではわからないようだが、それは仕方ないか。


「お前の刀は私が使ってやろう」

『後れを取るでないぞ。妾はあのようなものに使われる気はない』

『そのとおりです、主様!』



 続きは明日に更新します。

 頑張って、4章の最後までは毎日投稿するぞ!……と自分を鼓舞する


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