第32話 新生アカデミアの日常・下
「草ヶ部様!」
「師匠!」
装備を解いて倉庫で一息入れていたら、倉庫の入り口から蘭城さんと長壁さんが入ってきた。
今日は3人で八王子ダンジョンドロップアイテム回収をしてきた。勿論実践訓練も兼ねている。
「今日の私はいかがでしたでしょうか、草ヶ部様」
「ああ……本当に強くなったよ」
今日も安定した戦いぶりだった。二人でなら15階層あたりならもう問題ないだろうとは思う。
ただ、ダンジョンでの敗北は死につながる。
自分一人で失敗して死ぬなら仕方ないと割り切れるが……この二人にはそう言う風にはなってもらいたくない。
「ありがとうございます」
蘭城さんは攻防の判断が的確になった。
もともと防御系と遠距離攻撃という便利な能力持ちなんだから、場数を踏んで使いこなせば強くなるにきまっている。
高い能力も使いこなすのは結局使い手だ。使いこなせなければ宝の持ち腐れになる。
逆に弱い能力でも、使い方次第で強い能力を上回れる。
「私は直すところはありますか、師匠!」
「そうだな……今のところは特にない」
そう言うと長壁さんが不満そうに頬を膨らませた。
チルタを使い始めて4か月ほどだが……長壁さんはほぼ完ぺきに使いこなしている。
氷による斬撃強化に吹雪による範囲攻撃に加えて冷気で相手の動きを鈍らせたりも出来ている。
チルタに関して言えば、俺よりはるかに能力を引き出せている。
相性がなんでこんなにいいのかと思ったが。
長壁さんによれば、長壁さんはチルタの昔のそそっかしい妹に似ているらしく、放っておけない、ということなんだそうだ。
「チルタを使いこなしてるからな……あとは自分なりに行くしかないんだよ」
俺もだが、武器を使う能力は、その武器に自分を馴染ませその能力を引き出していくしかない。
武器にはそれぞれ癖や特徴、相性があるから教えられるものじゃない。
こればかりはセオリーは無くて、自分の試行錯誤が全てだ。
ていうか、俺としては褒めてるつもりなんだが。
「そうなんですけど……なんかね、セラちゃん」
「強くなれたのはとても嬉しいのですが……草ヶ部様があまり構って下さらないのは寂しいです」
強くなればなるほど口を出す部分は減っていく。
とはいえ、もう少しコミュニケーションを取った方がいいんだろうか
◆
「ところでたまには師匠も配信に出て頂きたいんですけど」
「まあ、それはまたいずれな」
二人の戦いを見守りつつ必要な時はサポートしていたからその時にはたまに映っていたが、戦い方が安定しているからサポートすることも無くなった。
今は二人の戦いを見つつ、離れすぎない程度の場所でドロップアイテムを集めている感じだ。
「でも、ほら……これですよ」
長壁さんがタブレットを見せてくれる。
今日は
サラマンダーの炎を蘭城さんの盾が阻み、チルタから噴き出した吹雪がサラマンダーを凍らせて仕留めていく。
さっき後ろから見ていた戦いだな。
【二人ともマジで強くなったよな】
【サラマンダーってあんなにカンタンに倒せないだろ普通】
【新衣装も似合ってる】
【かわいい】
【忍者と袴の和風ペアは尊い】
【長壁さんはもう少し太ももを出してほしい】
【いや、今の清楚さがいいんだろ、わかってないなお前】
【分かってないのはお前だ。あの脚線美が分からないとは】
コメ欄で話題になっているのは、最近二人が着始めたコスチュームだ。
長壁さんは今までのゲームとかの忍者風の衣装をデザインはそのままに白と青の模様入りに変えた。
カラーはチルタを意識したんだろう。
ミニスカ風だったスカートは露出は控えめになっているが、この辺は賛否あるらしい。
それに合わせて蘭城さんも白黒の袴姿だったのを、上着を薄水色にしている。
【ていうか、ニンジャマスターもいるんでしょ】
【少しくらいは顔を見たい。ドラゴンスレイヤー】
【最近、全然姿見せないじゃん】
【ニンジャだから仕方ない】
……俺に関するコメントも結構あるな。
すっかり俺はニンジャで定着しているが、全然そうじゃないんだよな。
とはいえ、これはもはや訂正不能なので諦めた。
しかし、俺みたいなオッサンが出張るより、可愛い二人の方を見ていた方が良いと思うんだが。
「そういえば、長壁さん」
「なに、セラちゃん」
ちょっと咎めるような口調で蘭城さんが口を開いた。
「……今日の稽古の時に、草ヶ部様に手を取っていただいてましたね?」
「それは、ほら……チルタの握り方を教えてもらうためだよ。あたしは師匠の一番弟子だし、その位は当然かなって」
長壁さんが言う。
蘭城さんが俺の方を向いてちょっと怖い顔で笑みを浮かべた。
「……草ヶ部様、次は私にも手取り足取りのお稽古をお願いいたしますね」
◆
続きは書け次第なる早でいきます。
多分明日に一話。
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