第31話 新生アカデミアの日常・上

 お待たせしました。新章、続けていきます。

 読んでくれている方に百万の感謝を!

 


「戻ったよ」


「お疲れ様です!」

「お帰りなさい」

「草ヶ部さん、お戻りです!」

「お疲れさんでーす!」


 一声かけてアカデミアの広々とした倉庫に入ると、中で作業をしていた社員の人たちが大きな声であいさつを返してくれた。

 真新しい倉庫の広い天井に声が響く。


「追加で発送する分、入り口に回しといて!」

「了解です」

「ポーションNO2、在庫はあと30箱ですよ!」

「マジかよ!もうすぐ品切れになんぞ」


 倉庫にはアカデミアのロゴが入った段ボールが積み上げられていて、人と車がひっきりなしに出入りしていた。

 リフトの動く音や電話の音とかが絶え間なく聞こえて騒がしいが、活気があっていい。


 心機一転ということで、アカデミアは都心の豪華なオフィスを引き払って八王子の郊外に移転した。

 今までの超高額な薬を少量扱うんじゃなくて、それなりの数の商品を扱うにはこっちのほうが便利、ということらしい。


「お帰り。無事で何よりだ、草ヶ部」

「そっちもな」


 声をかけてきたのはポロシャツ姿の柴田だった。

 今日の狩りはもう終わったからか、リラックスした顔だ。


「戦果は?」

「今日はスフィア・アイのドロップアイテム、10個だ」


「さすがだな」

「片目が見えなくても中層ならまあ何とかなるな」


 柴田が言う。

 片目はまだ白く濁っていて見えないらしい。これは小津枝の薬を使っても駄目だった。魔法的なものだからだろう。

 とはいえそれでも少しは回復しているらしいが。


 スフィア・アイは静岡ダンジョンの中階層から下に現れる、人間サイズの目のモンスターだ。

 視神経のような触手を持ち中々に見た目がエグイ。


 目のモンスターだから倒せば目に良いドロップアイテムを落とすのでは?という安直な発想でドロップアイテムを取ってみたが、あたりだったようで視力回復の薬になった。


 少量売ってみたらあっという間に売り切れたとは小津枝の弁だ。

 新たなヒット商品になりそうだな。

 

 ちなみに、静岡ダンジョンの深層にはそれの親玉のようなモノアイなる巨大な目のモンスターがいる。

 こいつのドロップアイテムは失った視力を完ぺきに回復させるだけでなく、人間離れした視力を与える効果があるらしいが。


 ……一度だけ戦ったが、視線による不可視の攻撃が凶悪なのでできれば戦いたくない相手だ。

 あれは天都の風でも燁蔵かぐらの焔でも止められない。

 麻痺系の視線を食らってあの時は死を覚悟した。 


「感謝するよ、草ヶ部。正直言って……引退したが、何をしていいのかって感じだったからな」

「こっちこそ手伝ってくれて助かる」


 俺と蘭城さんと長壁さんだけでは取れる数には限りがあるが、一方で需要は増すばかり。

 手が足りないから柴田に声を掛けたが、来てくれたおかげでようやくドロップアイテムの数がそろい始めた。

 今は精製する小津枝の方が大変そうだ。


「ついでにあの二人の稽古をつけてくれないか?」

「俺のスタイル的に無理なのは分かってるだろ」


 柴田はエストックという突刺剣を作り出す能力持ちだが、それより強力なのは姿を隠す能力、完全隠形コンシール・セルフだ。

 モンスターの鋭い感覚をも欺く能力で、真横に居ても気づかれない。


 姿を隠して急所を突きさして一撃で仕留める、というスタイルだが、同行者がいるとその強みは失われる。

 俺よりよっぽどニンジャっぽい。


「それに、師匠はお前だろ。お前に稽古をつけてもらいたいはずだぜ」 

「まあな」


 それは分かってはいるんだが、年齢とかに色々と壁を感じてしまう俺だ。



 今日中にあと一話更新します。


 引き続き頑張って書きますので、応援いただけると幸い。

 よろしくお願いします。

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