第34話 休暇を過ごしに熱海に行こう

「なんなんですか、これは」


 俺の横で蘭城さんが言う。

 静かな口調だが、怒りが伝わってきた。


 ここはアカデミアの会議室だ。機能的な感じの会議用の椅子と机だけが置かている。

 実用一点張りの部屋だが俺はこのシンプルさが結構気に入っている。


 目の机には大き目のタブレットが置かれていて、その画面には大きな足形のエンブレムとダンジョンウォーカーズというロゴが映されていた。

 動画タイトルは「ニンジャマスターの真実に迫る・1」だ

 

「まあ、こんな感じだ」


 後ろから覗いていた小津枝が深くため息をついて言う。


「なんなんですか、これ……一から十までデタラメですよ」

「師匠をこんな風に言うなんて……赦せません!」

 

 鑓水ダンジョンでは今もたまにトレーニングをしているが、その時に撮られた映像らしい。

 後でもつけられていたんだろうか……どうやってわかったんだ。

 

 鑓水はモンスターもあまりいないし、目立たないダンジョンだから人目にもつきにくいし、家から近くてトレーニングには便利だったんだが

 ……動画の再生数は100万回を超えている。コメント数もかなり多い。

 ここまで大々的にやられるとあそこには近寄らない方が良いのかもな


「これであいつらには何か稼ぎになるのか?」

「再生数に応じて収益金が入ります」


 長壁さんが教えてくれた。

 人のチャンネルがバズるのは俺には関係ないが、こういうのはなんか腹立つぞ。


「ていうか、なんなんだ、こいつら?」

「いわゆる有名配信者インフルエンサーだな。本人たちは真実追及系とか言っているが、真偽不明な噂やデマをばら撒く……まあ暴露系とか迷惑系とか、そういうカテゴリーの連中だ。

面倒な奴に捕まったな」


「これは俺が反論する方がいいのか?」

「いや、止めておいた方がいい」


 小津枝が言う。

 俺の横では蘭城さんが不満げに何かを呟いていた。


「話が盛り上がってしまうと、何か言っても嘘だとか誤魔化しとか煽られて面倒になる。

こう言う連中はそう言う風に話を煽るのが上手い。

こっちでも手を打つよ……アカデミアにも触れてるからな。これは俺の仕事だ。いまはあまり会社の内情を知られたくない」


 当たり前だが、俺が集めたダンジョン内のドロップアイテムを使って小津枝が薬を精製している……なんてことは公にできるはずがない。

 この辺りは外部にはそれっぽい情報を出しているが、本当のところは秘密になっている。


「いい機会だし、しばらく骨休めしてきたらどうだ、草ヶ部」


 小津枝が少し間を置いてから言った。


「今のところドロップアイテムの在庫は足りてるからな。精製の方に手が回ってないくらいだし、しばらく休んでもらっても問題ない」

「まあそうかもな……ていうか、お前が死にそうな顔してるぞ」


 小津枝の顔には露骨な疲れが見える。

 ドロップアイテムから薬を精製するはあいつにしかできないわけだが……商売繁盛なこともあって精製の方が遅れている。


 案外戦ってるより、ワンオペで精製をしているこいつの方が今は大変かもしれない。

 他にも社長業もしているわけだしな。


「俺は大丈夫だ……ポーションを飲んでるからな」


 小津枝が苦笑いして言った。


「さすがわが社の製品だ。よく効くぞ」

「自分の薬を飲みながら薬を作ってどうする……だが、そういうことなら少し休暇を取っていいか?」


 蘭城さんを助けてからここ数か月。

 色んな事が起きて環境も変わった。変わっていないのは住まい位な気がする。

 少し骨休めするのもいいかもしれない。



「ここですわ、草ヶ部様」

「すっごい豪華」


 ちょっと自慢気に蘭城さんが言って、長壁さんが半ば呆れたように高い天井を見上げる。


 あのあと、ほとぼりを冷ますために一度東京を離れようという蘭城さんの提案で、熱海の蘭城財閥系のリゾートホテルに来ることにした。

 リゾートホテルなんてものには縁がない生活だったが……とてつもなく豪華だ


 吹き抜けのガラス張りの天井からは明るい太陽の光が差し込んできていた。

 白い壁のあちこちに木目調のパネルが埋め込まれているのが、何とも高級感がある。

 

「お嬢様、いらっしゃいませ」

「お世話になります」


 そう言ってロビーの入り口で黒のスーツをきちんと着こなした50歳くらいの男が恭しく頭を下げてくれた。 

 鷹揚な感じで蘭城さんが言葉を返す。

 こう言うのを見ると当たり前だが蘭城財閥のお嬢様だな、と思う。


「お嬢様とお客様をお迎えできて光栄です。お部屋はそれぞれ個室をご用意しております」

「えっ……」


 蘭城さんが言ってその男が首を傾げた。


「お友達とは御同室の方が良かったでしょうか?今からでも切り替えられますが」

「いえ……なんでもありません。大丈夫です。ありがとう」


 蘭城さんが言ってその男が安心したようにもう一度頭を下げる。


「温泉はいつでもご利用いただけますので……ではご案内いたします」


 その男が合図すると、後ろに控えていたスタッフの人が俺達の荷物を持ってくれた。

 何が言いたかったかはなんとなく察しがつくんだが……正直言って個室で助かった。


 

 続きは書け次第なる早でいきます。

 多分明日に一話。プロットは出来てるので……まあ。


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