第27話 今後について
数日後、小津枝から連絡があって新宿で会うことになった。
チェーン系の喫茶店の明るい店内で会ったが、前に会った時のような疲れ切った感じでは無い。
簡素なジャケット姿で身なりも整っていた。
「どうだった?」
「助かったよ。ありがとう」
小津枝が何かを思い出すかのように言う。
顔を見た時点でまあ上手く行ったんだろうというのは分かったが、改めて聞くと安心するな。
「代金はもう振り込んでおいた」
「ああ、確認したよ」
昨日口座を見てみたら入金があったからそれは分かっていた。
なんとなく話題が途切れて、小津枝がテーブルの上のコーヒーを一口飲んだ。
「アカデミアはこれからどうするんだ?」
「社員に退職金を払って解散する……他にレッドドラゴンを狩れるような
小津枝が言う。
アカデミアの製品は製造工程は非公開で色々と憶測を呼んでいたが……原料はダンジョンの俺が取ってきたドロップアイテム、製造は社長の能力なんて誰も想像もしないだろう。
「中階層のドロップアイテムは加工できないのか?」
「できる。やったこともある。
ただ、低階層のものは大した価値が無いし、中階層のも便利なものはいくつかあったが……かなりの量がないとまともな稼ぎにはならない」
小津枝が少し周りを警戒するように声を潜めて言う。
とはいえ、周りの客は思い思いの話をしていて、単なるオッサン二人に注目する奴はいなさそうだが。
「そもそも、ダンジョンの中階層まで行ける奴は少ないしな……お前なら平気かもしれないが、
深層で取れるドロップアイテムから作るものは……金に糸目をつけないやつにどれだけ高くても売れる」
小津枝が淀みなく言う。
隠すつもりは無いというのは本当らしい。
「例えば、中階層のドロップアイテムを商品にしよう、と言ったらどうする?」
「不可能じゃないが……知らないものも多いから商売になるかは分からないぞ。それに誰が中階層に潜るんだ?」
小津枝が言う。
自分の中で心を決めて、苦いコーヒーを一気に飲み干した。
「俺がやってやるよ」
◆
小津枝が怪訝そうに首を傾げた。
「だが……」
「借金背負わされて見下されて戦わされるのは気が滅入るが、自分の意思で戦うのは別にいい。
それにやっていること自体には誇りはある。俺の能力にもな」
同じことをするとしても自分の意思で選ぶかどうかは大きく違う。
それと、八王子ダンジョンからの帰途に天目たちに言われたことを思い出す。
レッドドラゴンを倒した帰り道に、なぜ俺に従うのか、と聞いてみた。
今まではそんなことを考えている余裕もなかったが……改めて考えれば謎だ。
それぞれにかなり由緒のある武器のはずだ。
それに
『そうさね……あんたはまったくお人よしだよ、草ヶ部。
弟妹のために戦って、ようやく借銭が無くなったと思ったら、あんな小娘の世話を焼いてる。
でもね、そんなだからこそ、あたしたちはあんたのために戦ってるのさ』
『そうです、主様。お仕えするのは我らの意思ですから!』
『我利のためのみに生きるは人の
我らとて主を択んでおる……今更こんなことを言わせるでないわ』
そう言われた。
なら、借金は無くなったからもう
それに……目的もなくただ生きるのは、恐らく退屈だ。
長い沈黙の末に小津枝が口を開いた。
「許して……くれるのか」
「いや、許すというのは違うな……あえて言うなら最初に戻る、だな。
多分俺たちは最初はそうだっただろ?」
小津枝に初めて会ったときのことを思い出す。
「俺はお前に投資した。誰も知らないが、ダンジョンの中は金の鉱脈だ。俺とお前でガッポリ稼いで成り上がろうぜ!……そう言ってただろ、忘れたのか?」
「そうだった……そうだったな」
小津枝が気まずそうに言う。
「すまない……あの時のことをすっかり忘れていたよ。どこでこうなっちまったのか」
小津枝が言うが……
「一応言っておくが、さすがに次はないぞ」
「勿論分かってる。本当に……すまなかった」
◆
続きは昼に更新します。
面白いと思っていただけましたら、ブックマークや、♡、下の【☆☆☆☆☆】から☆のポイント評価をしてくださると創作の励みになります。
感想とか頂けるととても喜びます。
応援よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます