第26話 ある目撃者による中継(とある配信者SIDE)

 それはいつも通りの配信だった。

 9階層でオークを何体が討伐してはみたものの、今一つ反応は薄い。


【普通過ぎる】

【代り映えしないよ】

【また来るね。お疲れ】(退出しました)


 今日の配信も今一つか。スパチャも貰えないし同接も最初は100人くらいだったが、今は40人まで減った。

 見ているうちにまたパラパラと減っていく。数字が減るのをリアルタイムで見るのは気が滅入るな


 代り映えがしないのは分かってるんだが……これより深い階層に行くのは危険だ。

 一度12階まで降りてトロールと遭遇して事故配信になりかけたのを思い出す。


 皮肉にも一番視聴者がきてくれてフォロワーも増えたのもあの時だ。

 結局、ヤバい橋を渡らないと視聴者は増えない……だが、一歩間違えば死ぬ。


 平日朝のこの時間は、配信者は少ないが、通勤途中とかの視聴者はそこそこいる穴場だ。

 だが、これ以上続けてもダメか……そう思ったところでバイザーにコメントが流れた。


【って、ちょっと今走ってったのニンジャマスターじゃね?】

【マジでそれっぽい】


 言われて目線を上げたら、少し向こうの広めの回廊を走っていく黒づくめの人影の背中が見えた

 あれが最近噂になっているニンジャマスターか?

 

【これは……追え!】

【超レアキャラ!】

【なんとか話を聞くんだ。気合で追いつけ!】

【正体を探ってくれ!】

【注目!このアカウントがニンジャマスターを見つけたらしいぞ】

【拡散しろ!拡散!】


 コメントがバイザーに流れていく。

 同時に猛スピードで同接数が伸びていった。瞬く間に10000人を超える。


【追うんだ!】

【はよはよ】

【俺たちがついてるぞ】

【見失うな!いけいけ】


 コメントに促されるように走って追いかけてみるが……とにかく足が速い。

 そして立ちふさがるモンスターをたちまち切り伏せていく。焔が吹きあがったと思ったら、空中に何かが飛んでモンスターが喉から血が噴き出して倒れる。


【なんじゃありゃ】

【強すぎて草生える】

【チートじゃねえか。あれ、どういう能力持ちなんだよ】


【ありゃ、ダンテじゃ勝てん】

【つーか勝てる奴いねえよ】

【あいつそのものがダンジョンのモンスターじゃねえか】


 コメントが流れていく。

 モンスターに邪魔されないおかげでどうにかついていけるが、ペースが全然落ちない。

 こっちが振り切られそうだ。

 

 ニンジャマスターの黒装束が階段の下に消えていった。

 穴のような暗い階段をのぞき込む。この先は15階層だ。


「なんかまだ深くまで行くっぽいんだが」


【行くしか無いぞ】

【今更降りるなんて言わないでくれ】

【お前だけが唯一の希望だ】

【頑張ってください!お願いします】


 コメントが流れては行くが……俺の記録は13階層だぞ

 全く戦ってないとはいえ、すでに自己最深記録になっている。周りの壁は見たこともない暗い青だ。


 ここでモンスターに襲われたら……勝てるかは分からない。

 そもそも15階層より下の情報なんて皆無だ。何があるのか想像もつかない


【だが……お前しかいない。そうお前だけ】

【世界の秘密を暴くんだ】


 150人程度だったチャンネル登録者だが、今は3000人を超えた。

 これは……危険だが千載一遇のチャンスなのは間違いない。


「ああ、くそっ!チャンネル登録お願いします!」


【投げ銭しとくわ(50,000円)】

【君の勇気に敬意を表するッ(10,000円)】

【ショボくてごめんな……(5,000円)】


 スパチャを貰った時のコインのエフェクトとSEが絶え間なく流れる。

 チャンネル登録数の増え方も勢いを増した。

 

【というかニンジャマスターがドローン連れてたよな】

【配信してないのか】

【探せ探せ!】

【とっくに探したけど全く見当たらん】

【ということは、やはり君だけが頼りだぞ】


 同時接続が70万人を超えた。

 これに成功すれば一躍有名配信者インフルエンサーの仲間入りだ。

 行く価値はある。


 ニンジャマスターの姿は見失ってはしまったが、何処へ行ったのかは分かった。薄暗いダンジョンの通路にまるで道しるべのように白く輝くドロップアイテムが転がってる。

 そして、なぜかモンスターには遭遇しないが、雰囲気のヤバさは感じられた


【ヤバい感じだわ】

【わかる】

【画面越しでも分かる】

【背筋がゾクゾクする】

【この階層まで行くとこんなに周りが青くなるんだな】


 というか、ニンジャマスターはなんでこんなところに来ているんだろう。

 ドロップアイテムも拾う気配は無くて放置したままだ。


 何を倒したのか分からないが、どれもアタッカーが戦利品として持ってるどれよりも美しい。

 一つ持ち帰りたいが……


【拾ってけば?】


「いや……これは俺の戦利品じゃない」


 そういうのはフェアじゃない気がする。

 それにここで持って行っても自分で倒してないのがバレバレだから自慢にならない。

 

【これは男】

【むしろサムライ】

【その分、俺達が課金するぞ(30,000円)】


 どっちにいくか迷ったところで回廊の奥から吠え声が聞こえた。

 心臓を握りつぶされるような……つまるところヤベェ敵がいることが分かる声。


「逃げていいか?」


【そんなこと言わないでくれ】

【俺たちがついてる】

【応援してます!】

【ここまで来たんだ!最後までいこうぜ】


 勝手なコメントがズラズラと流れていく。

 こっちは命懸けだっていうのに。


 ていうか、ほんの30分ほど前には、いつも通り常連のフォロワー相手に配信をしていて代り映えがしないとか言われていたのに、今は25階層だ。

 ここはなんだ……魔境か?


 声の方に行くと広い空間で巨大な竜が居た。

 鱗が赤く光っていて深海のような青い壁を照らしている。それと向かい合うようにニンジャマスターが刀を構えて立っていた


【レッドドラゴン?】

【初めて見たぞ】

【……ていうか世界初だろ】

【八王子の地下にこんなのいるとか、怖すぎる】


 ダンジョンの奥にこんなのがいるのか。

 黒装束のニンジャマスターとドラゴンが対峙して睨み合う。

 助太刀します!とか言えれば恰好いいが……ぱっと見でそんなことすれば命がないのは分かる


 ドラゴンが胸を張るように体を後ろにそらした。

 ゲームとかでもよく見るような、炎を吐く時の予備動作っぽいが……ニンジャマスターは逃げる気配がない。


「ちょっと!」 


 思わず声が出たのと同時に、ドラゴンが焔を吐いた。

 熱風がここまで吹き付けてきて、焔がニンジャマスターを包み込む。


【ぎゃあああああああああ!】

【ニンジャマスター死す?】

【事故配信!!!!】

【おいおいおい、死ぬわあいつ】


 死んだと思ったが、焔が突然曲がった。赤い焔が吹き散らされて、全く無傷のニンジャマスターの姿が見える。

 同時にドラゴンの前足から血が噴き出して前のめりに倒れた。もう一本の短い刀がドラゴンの顔に突き刺さって地面に縫い付ける。


 黒装束のニンジャマスターが宙を飛ぶようにドラゴンの胴体に飛び乗って長い刀で首を切り払った。

 

【焔が曲がった】

【ドラゴン秒殺とか。そりゃヘルハウンドぐらい楽勝だな】


【ニンジャはドラゴンの首を一太刀で撥ねるもんだ】

【いつのゲームの話だそれ】

【しかし、リアルタイムで見ても信じられん】


 コメントがずらずらと流れていく。

 信じられないのは俺も同感だ。目の前で起きているこれは現実なのか。

 ドラゴンの姿がモンスターと同じように崩れて行った。


「ところで、そろそろ戻っていいか?」


 ニンジャマスターにインタビューしたい気もするが……今のところ周りにモンスターの気配はない。

 冷静になってみるとここは危険地帯のど真ん中だ。一刻も早く離れたい。


【ナイス配信!】

【お前はいい仕事をしたぞ】

【無事を祈る】

【世界初の映像だ】

【よくやってくれた】

【帰るまで見守ってるからな】



 バズるのは人のチャンネルばかりなり。


 続きは明日の朝と昼に更新します。


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