第25話 ドロップアイテムの秘密
転がっているドロップアイテムを道しるべにしてダンジョンを駆け戻る。
幸いにも大した敵との遭遇も無く帰ることができた。
ダンジョンを出ると、出口の公園のすぐそばに待ちかねたように小津枝が一人で立っていた。
「これだ」
「ありがとう、感謝する」
「で、どうするんだ?」
ドロップアイテムは光はいつものように赤く綺麗だが、前より少しサイズが小さい。倒したドラゴンのサイズが小さかったからだろう
小津枝がドロップアイテムをじっくり眺めた
「今すぐ加工する」
そう言って小津枝がレッドドラゴンのドロップアイテムを持ったまま八王子ダンジョンに戻るように入って行った。
ダンジョンに入ってそこらを暫く歩き回って、入り口からすぐの行き止まりの回廊の奥で小津枝が足を止める。
周りに人気は無い。
この辺りならモンスターもまずでないだろう。
「すまない……本当に感謝する。これが終わったら必ず金は払う」
「これから、お前の能力でそれを加工するのか?」
「ああ」
「せっかくだから目の前で見てもいいか?」
そう言うと小津枝が怪訝そうに首を傾げた。
「ああ、もちろん……だが暇なだけだと思うぞ」
「興味があるのさ、いいだろ?モンスターが着たら俺が守ってやるよ」
「それは助かるな……」
赤い球に手を触れて小津枝が口の中で何かをつぶやく。
球の中の赤い色が波打つように動いて強い光を放った。
小津枝の周りに奇妙な文字のような模様のようなものが浮かぶ。
何となく魔法陣っぽいものの中心に立ったまま小津枝が目をつぶった。
◆
暇なだけ、というのは確かだった。
魔法陣を思わせる丸い文様の中心に立ったまま小津枝は動かず、赤いドロップアイテムが時々脈打つように光を放つ。
「師匠」
「草ヶ部様」
1時間ほど過ぎたところで、蘭城さんと長壁さんがやってきた。
「あの……とても素晴らしかったですわ」
「さすが師匠です」
小津枝のただならない雰囲気を感じたのか、二人が小声で言う。
ドロップアイテムは今はまるでアメーバのように分裂を繰り返している。かなり硬い代物なんだが……初めて見る光景だ。
「師匠、これを」
「お、ありがとう」
長壁さんがサンドイッチを差し出してくれた。
レトロな籐のバスケットに入っている。どうやら手作りらしい。
柔らかいパンとシャキッとしたレタスとハム、それと少し辛みの有るマヨネーズソースが刺激的だ。
「あの……お口に会いますか?」
「美味しいよ。ありがとう」
答えると、長壁さんが嬉しそうに笑った。
なんだかんだで結構疲れていたようで、サンドイッチを食べて蘭城さんが持ってきてくれたお茶を飲むとかなり気分が楽になった。
◆
それから小津枝のドロップアイテムの加工は続いた。
二~三時間くらいで終わると思っていたんだが、どうやらそれどころじゃないらしい。
二人はいったん帰らせて俺だけで留まるが……全然終わりそうにない。
最初は興味深かったんだが、途中から代り映えがしなさ過ぎて暇になってきた。
配信者のものらしき声が通路を反響するように聞こえてくる。
とはいえ、この辺は小さめの入り口な上に、1階層だから特に近づいてくる気配もなかった。
ダンジョンの中は昼も夜も無いから時間感覚が全くなくなる。
開始から半日近く過ぎて、スマホの時計が夜の9時近くなり、次の食事でも買いに行こうかと思ったところで不意に魔法陣が消えた。
赤い光が消えて、いつもの青いダンジョンの中の景色に戻る。
ドロップアイテムの球体が黒くなって砕け散る。
ガラスのように散らばったドロップアイテムの残骸が溶けるように消えた。
小津枝が疲れたようにため息をつく。
顔色は真っ白でかなりの負担がかかったことは分かった。
「これで終わりだ」
手の中にはドロップアイテムから分裂した赤いサプリメントのような球体が10粒光を放っていた。
「……意外に大変なんだな」
「これで娘が助かるんだ。俺の苦労なんてなんてことはない」
消耗しきった顔で小津枝が赤い粒を握る。
「すまない、すぐにいかないといけない。ありがとう、また連絡する」
そう言って小津枝がダンジョンを駆けだしていった。
◆
続きは昼に更新します。
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