第28話 祝賀会にて
「本日、アカデミアは新製品の発表を正式に行います。そして、この製品化には蘭城製薬の多大な協力がありました。感謝いたします」
「新進気鋭の製薬ベンチャーと有益な関係を作れたことは我が社としても誠に喜ばしい。小津枝CEO、今後ともよろしく頼む」
きらびやかにライトで照らされたステージ上で小津枝と蘭城氏が握手して、周りから大きく拍手が上がった。
新宿の高級らしいホテルの広いホールは人でいっぱいだ。
あの日から3か月がたった。
結局色々と紆余曲折があったが……あのあと俺がいくつか取ってきた中階層のドロップアイテムのうち、ヘルハウンドのはスタミナ増強と言うか疲労回復、
それが今回アカデミアの新作サプリだかなんだかという触れ込みで販売された。
そして、正式な販売前から評判は上々らしい。
というか、副作用無しで効果があるわけだから、そりゃそうだろうな。
文字通りゲームの回復アイテムとかのようなものだ。
とはいえ、モンスターが無限に湧いて出るわけではないから数には限度がある。それに今のところ、俺しかドロップアイテムを集められない。
そんな事情もあって、当面は品薄になるだろうな。
◆
挨拶が一通り終わって会食の時間になった。
立食形式で会場内にはいい匂いが漂っている。あちこちで高そうなスーツを着た男女が思い思いに話していた。
多分、蘭城さんの会社の偉い人とか、何処かの有名人とかなんだろうが、俺にはさっぱり分からない。
「お前は本当に社長じゃなくていいのか?」
ステージから降りてきた小津枝が声をかけてきたが。
「ああ」
スーツ姿でステージの上でスポットライトを浴びる自分の姿は全然想像がつかない。
それに小難しい挨拶だのなんだのをやってるくらいなら、ダンジョンで戦ってる方がいい
「目立つのは面倒だ」
「……いや、それはもう遅くないか?」
小津枝が苦笑いをしながら言う。
どうやらドラゴンとの戦いを配信者に撮られていたらしく、小津枝が火竜の息吹を精製した翌日には動画がネット中に出回っていた……というのは蘭城さんから教えてもらった。
俺も動画は見たんだが……戦うのに集中してて全く気付かなかった。
深層に潜っている時は自分の事しか考える余裕はない。というか、あの階層まで追いかけてくるとはいい度胸をしているな。
うっかり歩き回ると人目を惹きますわ、という蘭城さんに着慣れないスーツを着せられて髪型も変えさせられている。
しかし面倒なことこの上ない。
「まあそれはさておいても、これ以上悪目立ちするのはごめんだ。俺は戦うから、面倒な事務仕事はお前に任せる」
「そう言うことなら任せてくれ」
「小津枝さん、言っておきますが草ヶ部様の信頼を裏切ったら……」
「そんなことはありません。俺も今の立場は大事ですし、恩を忘れる気は無い。でも、もしその時はいつでも解雇してください、お嬢様」
蘭城さんが念を押すように言って、小津枝が礼儀正しく言う。
株の所有のナントカで俺はいつでも小津枝の首を切れるんだそうだ。
とはいえ、あの時の高慢な感じはもう全くない。今は一分の隙も無いビジネスマンって感じだ。
人は変わる……というか元に戻ったというべきか。
「ところで、あのネーミングはどうなんだ?」
今回の製品の名前はなんと「ポーション」だ。
いくらなんでもそれはどうなのか……というか、いいのかそれは。
「親しみやすくていいだろ。ごちゃごちゃした成分名とか書くよりもさ」
小津枝が笑って言うが……何もないことを祈ろう。
◆
「師匠、ごはん美味しいですよ」
長壁さんが料理の皿を机に置いてくれた。
普段はジャージかニンジャコスプレっぽい姿だが、今日はフォーマルな場だからか、珍しく黒のパンツスーツ姿だ。髪も後ろで結っていて中性的な感じになっている。
スリムで背が高いから似合ってるな。
「なんですか、師匠?」
「いや、イメージ違うなってね」
「久しぶりに着たんでちょっと不安だったんですけど、師匠にそう言ってもらえると嬉しいです」
嬉しそうに長壁さんが言った。
「草ヶ部様、私は如何でしょうか?」
蘭城さんは今日は華やかな着物姿だ。
赤の地に白や青の色んな花の模様が描かれた着物は、色鮮やかだが派手過ぎず、華やかで目を引く。
恐らく高いんだろうなとは思う。
「いつでもお嫁に参りますわ。草ヶ部様もとてもお似合いです」
蘭城さんが真顔で言う。
色々と気まずいが、若干引き気味の小津枝の視線がまた何とも痛いぞ。
◆
「とはいえ、お前は肩書としては当社の役員なんでな、そこは了承してくれ」
「あ、そうなのか?」
小津枝が突然言うが……役員?
「渉外担当、と言う肩書だ。役員報酬は当面は月額300万にしてある。あと年度末に賞与が400万だが、これは業績次第ってことで勘弁してくれ」
渉外担当っていうか、戦闘担当だよな。そんな役員、ありかよとは思うが。
そんなことより……ちょっと待て。
「……そんなに貰って何に使えと?」
「俺が言うのもまあなんだが……金はあるならあるに越したことはないだろ。ジム付きのタワマンでも買ったらどうだ」
小津枝がしれっという。
タワマンとやらに住む自分を頭の中でイメージしてみたが……似合わな過ぎて笑ってしまった。
「ていうか……会社は大丈夫なのか?」
「俺の取り分も下げてはいるし、既に大口の契約が入っているから大丈夫だ。
それにこの会社で一番危険を負っているのはお前なんだから、当然の待遇だ。受け取ってもらうぞ」
◆
続きは明日の朝と昼に更新します。
面白いと思っていただけましたら、ブックマークや、♡、下の【☆☆☆☆☆】から☆のポイント評価をしてくださると創作の励みになります。
感想とか頂けるととても喜びます。
応援よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます