第29話 彼方からの手紙

「あの……」


 蘭城さんが注いでくれたワインを飲んでいると後ろから声を掛けられた。

 声を掛けてきたのは多分小学生低学年って感じの女の子だ。


「おじさ……あ、すみません、お兄さん」

「いや、おじさんであってると思うから気にしないでくれ」


 この子から見ればまごうことなく俺はおじさんだろう。ただ、どう見ても大人ばかりのパーティには似つかわしくない。

 誰かと思ったが……


「まさかこの子が娘さんか?」

「ああ。摩耶。自己紹介して」


 薄いピンク色のドレスが可愛らしい。

 ふんわりした焦げ茶色の長い髪と柔らか印象を与える目元。なんとも優し気な感じのおっとりお嬢様って感じだ。

 というか切れ者っぽい小津枝には全然似てないな。


小津枝摩耶こづえまやです。お兄さんが私を助けてくれたって聞きました……本当にありがとうございます」


 その子が頭をペコリと下げた。


「お礼が遅れてごめんなさい」

「どうでもいいさ、そんなことは。元気そうでよかった」


 火竜の火種から作る、というか小津枝が作ってる薬は文字通り全ての病気を治し体に力を取り戻す。

 まさにエリクサー的な存在だ。


 どんな病気だったんだかしらんが、その面影はない。

 元気そうな彼女を見ていると、レッドドラゴンと戦った甲斐もあるってもんだな 



「ところでもう一つ聞きたいんだが」

「なんだ?」


「お前はどうやってその能力に気付いたんだ?」 


 俺自身にダンジョンの中で戦う能力があるなんて気づかなかった。

 ダンジョンの事は一時期毎日のようにニュースになっていたが……モンスターが出てきたりしないということが分かって、入り口の閉鎖をすることが決まった。

 そしてその後はあまりニュースにも流れなくなっていった。


 まあ閉鎖するといいつつも入る奴は幾らでもいたわけで……だから配信者なる者がいるわけだが。


「まさかステータス表示でもされてるのか?」


 軽く聞いてみるが、小津枝が黙り込んだ。


「いや、違う……なんというか、信じてもらえるか分からないんだが」

「なんだ?」


「俺も元々は普通のサラリーマンだったんだが、ダンジョンのニュースが流れてしばらくして突然手紙が来たんだ」

「手紙?」


「古風な手紙だったよ。それに、俺にはドロップアイテム……なんて名前ではなくて、彼岸の住人が持つ宝珠を加工する天稟がある。彼岸の住人を倒し宝珠を集める能力を持つ者を従えろ、と書いてあった」


 小津枝が静かだが真剣な口調で言う。

 周りのざわめきの中で妙にはっきりと声が聞こえた。


「で、その後に手紙が何通か来て、その中にお前の事が書いてあった。内容も恐ろしく正確だったから信じた。

で、お前の借金を一本化して恩を売った、というわけさ」


「ということは、その差出人は俺の事も知ってたってことか」

「……そうなるな」


 そう言われると何とも気味が悪い話だ。

 俺はその時借金を返すために日々働いていて、ダンジョンになんてかかわりも無かったが。


「差出人は?」

「分らん……これは本当に分らないんだ。差出人は書いていなかった」


 小津枝が言う。周りはにぎやかな中で微妙な沈黙がおりる。

 蘭城さんと長壁さんが不安げに顔を見合わせた。


「小津枝君、いいかね。わが社のものに挨拶をしてくれ」

「はい、会長」


 重苦しい雰囲気の中で、蘭城氏が声を掛けてきた。

 小津枝が返事をしてネクタイを直す


「すまん。ここで失礼する」

「ああ、これからもよろしくな」

「今回の事は本当に感謝している……ありがとう」


 小津枝がもう一度頭を深々と下げて、そのままステージの方に歩いて行った。


「どういうことでしょうか、草ヶ部様」

「さあな」


 今更小津枝が嘘をつくとも思えない。差出人が分からないのは本当なんだろう。

 だが、そうなると、その差出人は小津枝の能力も俺の事も知っていたってことなんだろうか。


 柴田の方にもこんな手紙が来ていたんだろうか。

 とはいえ、今考えていても仕方ない……か。


「まあ、いいか。二人とも、ドロップアイテムの回収に同行してもらうぞ。修行もかねて」


 このままアカデミアの新薬が売れ続ければ、俺一人では手が回らない。

 二人にも修行兼用で付き合ってもらいたいところだ。


「はい!師匠!」

「草ヶ部様の行かれるところは何処であってもご一緒しますわ」 



 二章は此処まで。

 今日中にあと一話更新します


 書き溜めが概ね尽きてしまったので更新ペースが落ちますが、プロットは出来ているので、このままお付き合いいただけると幸いです。


 

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