第37話 熱海ダンジョンの「住人」

「なんでしょうか、あれ?」


 蘭城さんが言う。

 見た目はどうやら女の子だ。血のような赤い髪が湯にゆらゆらと浮かんでいる。

 こっちが気付いたのと同時に、そいつがこっちを見た。


「んー?君達、誰?」


 なんか間延びしたような口調でそいつが言う。

 

『草ヶ部!』

「分かってる」


 天目の鋭い口調が頭の中に響いた。

 距離があっても分かる……何だか分からないが、少なくとも人間じゃない。


 というか、どう考えてもこんなところで普通の人が温泉につかっているはずがない。

 それに距離があってもえも言われない威圧感は感じる。


「君達は誰なのかな?わたしの領域に何の用かなぁ。

お?ひょっとしてー、わたしと戦うつもりなのかなぁ?討伐しに来たって感じかなぁ?」


 俺の天都と小鴉丸、それに蘭城さんが構えた剣をそいつが見る。


 その子がお湯から上がると同時に、その周りを赤い霧のようなものが取り巻いた。

 赤い霧がドレスのようにその子の体を覆う……どうみても自然現象とかじゃない。


 俺たちの周りにも湯気とは明らかに違う、赤い霧が床から湧き上がってきた。


「そーれ、行けぇ」


 赤い霧が意思を持つようにこっちに迫ってくる。


「天目!」

「護りなさい!」


 天都の風が渦を巻いて霧を吹き飛ばす。

 蘭城さんの盾が光を放って俺たちの周りに球のような結界が立ち上がった。


『お館様……彼奴、かなりの手練れでござるぞ。油断召されますな』


 鴉が普段の軽い口調じゃない真剣な感じで言う。

 というか雰囲気でわかる……こいつは手ごわい。


 見た目は女の子だが、おそらくレッドドラゴンより強い。

 しかも、どう見ても知性があるのが厄介だ。獣は習性を見切れば倒せるが、知性があるとそうはいかない。


「へーえ、面白ーい。変わった武器をもってるねぇー。なかなか強いじゃーないのさ。わたしの領域に踏み込んでくるだけあるねーえ」


 そいつが言う。

 燁蔵かぐらの柄に手をかけた。全力で戦ったら勝てるだろうか。

 そいつがこっちを探るように見た。

 

「ああ、君は後ろの二人をかばってるんだねー、ここじゃ全力を出せないなら、他でやってもいいけどどうするー?」


 察しているようにそいつが言った。

 天目と燁蔵かぐらの力を完全に使って全力で戦うとマジで周りが火の海になる。

 ここだと蘭城さん達を巻き添えにしかねない。


「でも一応言っておくけど、わたしはもっと奥に行けばもっと強いからねー」


 そいつが言う。

 緊張感が微塵も感じられない口調ではあるが、周りから感じる威圧感は今まで戦ったモンスターの中でも屈指だ。


 ただ、明らかに人間じゃないが……敵対的ではなさそうだ。俺たちの周りを取り巻いている赤い霧も襲ってくる感じはない。

 少なくとも話が通じる余地はある。


「まってくれ……戦う気はない」

「へーえ、じゃあなんで私のお風呂を邪魔したのかなー?」


「済まない。邪魔する気は無かった。俺たちはこのダンジョンを調べに来ただけだ……そう、民の依頼があってね」

「ふーん……そういうことなんだぁ、なるほどぉ。驚かせちゃったかな、ごめんねぇ」


 その子がうなづいた。

 敵意が無いことを示すために天津を鞘に納める。


 その子が手をひらひらと振ると、俺たちの周りを取り巻いていた赤い霧が溶けるように消えていった。

 圧迫感が薄れる。長壁さんのため息が後ろから聞こえた。


 というか、ダンジョンにこんなのがいるとは思わなかった。

 八王子もドラゴンがいる層より深いところにいけばこういうのがいたりするんだろうか。


 改めてその子を見る。

 見た目は人間の女の子……多分15歳くらいっぽい。

 真っ赤な腰くらいまでの長い髪と、小柄で華奢な体に白い肌。鋭い目は赤く光っていた。

 人形のような整った顔立ちで口元には薄笑いのような笑みが浮かんでいる。

 

「少し話をさせてもらっていいか?」


「いいよーう、ところで、君たち、名前はなんていうのー?」

「草ヶ部耀」


「後ろの二人はぁ?」

「蘭城聖良です……勝手にあなたの領域に踏み込んでしまったこと、お詫びいたします」

「ふーん、蘭城……蘭城。どこかで聞いたことあるなぁ……どこだっけかな」


 そいつが小首をかしげて考え込むような仕草をする。


「私は長壁コウです……えっと、はじめまして?」

「はじめましてぇ。君達、礼儀正しいんだねー。いいね、いいねぇ、わたしはリュドミラだよー」


 そいつが言った。



 続きは明日に更新します。


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