第22話 小津枝の依頼
「なんですか、あなた……邪魔をするなんて。それに、今更草ヶ部様に何の用ですか」
小津枝に向かって蘭城さんがとげとげしい口調で言う……ハグを邪魔されたのが気に障ったっぽい。
改めて小津枝を見た。
最後に会った時は高そうなスーツに時計で着飾って自信満々って感じだったが、今はスーツも撚れていてネクタイも無い。
髪も乱れていて無精ひげも生えていた。
「どうしたんだ?」
「頼む……こんなことを言える義理じゃないのは分かるんだが。もう一度だけ火竜の火種を取ってきてくれ」
小津枝が絞り出すように言った。
そういえば最近アカデミアの話題を聞かないと思っていたが……こいつらの薬は俺が取ってきたドロップアイテムから作っていたなら、新しくは作れないのか。
「なんでだ?」
「……どうしても救いたい人が居る」
火竜の火種から作る薬は生命力を回復させ、文字通りあらゆる病気を治す。
確かに欲しい人はいくら金を出しても買うだろうな。
アカデミアがこの薬を売り出した時は革命的なものとして扱われた。
誰か病気とかなんだろうか。
「誰だ?」
「……娘だ……色々あって一緒には住んでいないが」
小津枝が口ごもって言う。子供がいたのか。全然知らなかった。
小津枝が口を閉じて、なんとなく重い静寂が漂う。
「一つ教えてくれ……これとは直接関係ないんだが」
「なんだ?」
「お前はドロップアイテムをどうやって薬に加工してるんだ?」
これはさっぱり分からない。
今までは考える必要もなかったが、改めて考えると謎だ。
ドロップアイテムは見た目は単なる光を放つ球体に過ぎない。
火竜の火種も見た目は単なる赤いバスケットボールくらいのものだ。
「俺が加工してる」
「どういうことだ?」
「お前と同じだ、草ヶ部。お前が刀を従えられるように、俺は錬金術というのか、ドロップアイテムを加工する能力がある」
小津枝が少しためらいがちに答えてくれた。
なるほど、そういうことか。何らかの機械的な加工とかをしているのじゃないかと思ってたが、能力というなら分かる。
つまり俺達のように戦う奴がいれば、小津枝のように錬金術でドロップアイテムを加工できる人間も一定数いるってことか。
「これが済んだらもうお前には関わらないことを約束する。もちろんその分の金も払う。もしやってくれるなら、連絡をくれ」
それだけ言って小津枝が階段を下りて去っていった。
◆
暫く待っていると、車が走り去る音が遠ざかっていった。
「どうされるのです、草ヶ部様」
蘭城さんが聞いてくる
「助けるのですか?」
「……助けるっていうのも少し違うんだが」
今まで色々と嫌な思いもさせられたから、報いを受けてざまあ見ろ、と言う気持ちが無くはない。
ただ、恨みとか怒りを持ち続けているのは胸にとげが刺さっているような気がして疲れる。
それにこの状態の奴を足蹴にするのも寝覚めが悪い。
これはどちらかというと俺自身の気分の問題だ。
「人が良すぎるのでは?」
「かもしれないが……あいつには全く借りが無いわけじゃない」
天都を借りれるように手はずをつけてくれたのも、借金を一本化してくれたのもあいつだ。
あの時の俺は
俺がダンジョンであっさり死んだらあいつには借金だけが残ったことになる。
それにあいつがいなければ……借金取り立てとかが弟たちに及んだかもしれない。
「……ところで草ヶ部様」
そう言って蘭城さんが手を広げた。
こういう状況でもあくまでハグはしてほしいらしい。
「じゃあ」
なんというか、こういうのは気恥ずかしいな。
手を広げると嬉しそうに笑って蘭城さんが体を寄せてきた。
背中に回された蘭城さんの腕に力が入る。
華奢だが、鍛えているからか、強い力で引き寄せられて体がぴったりとくっついた。
「本当にお人好しですけど、でも……そんなところも素敵です。
だって草ヶ部様がお人好しでなければ……あの時私を助ける必要も無かったし、今も私や長壁さんに構う必要はないですから」
「どうだろうな」
言われてみれば借金も無くなったし、あれを助けた返礼と考えれば、別に今みたいにせずに好きにしてもいいんだが……そう言う性分なのかもしれない。
「ところで、あの」
「どうかしたか?」
「……もう少し強く抱きしめていただけると嬉しいのですが」
◆
続きは明日の朝と昼に更新します。
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