第20話 兄弟の事

「ところでだ、草ヶ部君。娘が君を我が家に引っ越ししてもらいたいと言っているようだが、どうだね?検討してくれたか?」


 蘭城氏が言って思わずコーヒーを吹きそうになった。

 あれはマジなのか……というか父親にそんなこと言われるのは気まずすぎる。


 ……とこっちは思っているが、どうも蘭城氏はあまり気にしていないらしい。

 表情にも変化がない。


「失礼ながら……いいんですか?」


 この人も蘭城さんも家訓も含めて色々と感覚の違いを感じるんだが、意味が分かっているんだろうか。

 学生を下宿させるくらいの気分でいるんじゃないだろうな。


「無論だ。私も15の小僧ではないからな、その意味位は分かっている」

「そうですか」


 分かっていると言われるのもそれはそれでどうなんだって感じだぞ。


「娘はもう成人している。私は娘の見る目を信じている。

それに君は聞くところによるとダンジョンの奥で……なにやら随分強いモンスターを倒せるほどの戦士なのだろう?そういう者は世界的に見ても皆無ではないか。娘の婿としては申し分ないぞ

どうだね、聖良に婿入りして我が蘭城家の当主となってみるか?」


 蘭城氏が真顔で言う。

 表情を見るが、冗談を言っている感じではないんだが……本当のところは計り知れなかった。

 

「とはいえまだまだ私は現役だがね。

だが聖良の婿となれば将来の当主だ。婿入りするなら早い方がよい。覚えることはたくさんあるからな」

「失礼……旦那様」


 木林が蘭城氏に何か耳打ちした。蘭城氏が時計を見てネクタイを締める。


「すまない。次の用事があるのでな、ここで失礼するよ。木林、彼を丁重に送って差し上げるんだぞ。先ほどの御兄弟の件は早速対応させてもらうよ」

「ありがとうございます、お会いできて光栄でした」


 そう言ってもう一度蘭城氏が俺の手を握った。

 こっちも握り返して一礼する。


「では、草ヶ部君。娘のことを頼んだぞ。婿入りの件も考えておいてくれ。それではまたな」


 そう言って蘭城氏が出ていった。木林外深々と礼をして見送る。

 色々とぶっ飛んだ親子だ……しかし一大グループの頂点に立つ人間はやはりバイタリティというかエネルギーがあるな。

 押しが強いともいうのかもしれないが。

 


 その日の夜。

 いつも通り一人で晩御飯を食べていたらスマホが呼び出し音を鳴らした。

 発信者は妹……深鶴みつるだ。


「どうした?」

「兄さん。今日、蘭城証券から是非わが社に移籍しててほしいって連絡があったんの……同じような連絡がかいにも来たらしいんだけど、何か知ってる?」


 怪訝そうな口調が電話越しにも伝わってくるが

 ……話をしたのは今日の昼だって言うのに、行動が速すぎる。

 

 今日はもう落ち着けるかと思ったんだが、最後まで落ち着けない一日らしい。

 ……ていうかここ数日はジェットコースターの乗ってるように環境が変わって行ってついていけんぞ。


「話すとものすごく長くなるんだが……借金は無くなった」

「は?」


「で、その誘いは嘘とかそう言うのじゃないから請けていい」

「……よくわからないんだけど」


 電話の向こうから深鶴の戸惑いが伝わってくる。

 言ってる俺にも今一つ現実感が無い。


 とはいえ、深鶴も櫂も優秀だ。きっと新しい環境で活躍できるだろう。

 あいつらに機会を与えることが出来たのはうれしいことだな。


「まあ、また今度話すよ」

「……今更だけど……危険な仕事を受けたとかじゃないよね」


 妹たちは俺の仕事を知っている。当たり前だが。


「大丈夫だ。もう終わってる。また今度詳しく話すよ。櫂にも伝えておいてくれ」

 

 要約しようにも自分でも整理して話せる気がしない。


「ありがとう……兄さん」



 続きは昼に更新します。


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