第11話 今後どう生きるか

 一旦ダンジョンから出てさっきのカフェに戻った。

 二人とも無言だったが、注文したコーヒーが運ばれてきてウェイトレスの子が離れていったところで安心したように息を吐いた。


「本当にすごいですね」

「あんなの……始めて見ました。本当にすごいです」


「そういうもんか」


 今までそういう風に言われたことは無かったな。

 それに特に気にしたこともなかった。採掘者ブルーカラーが考えることは、目標になるモンスターを倒せるかどうかというただその一点だけだ。


 しかしこれからどうしたもんだろうか。

 いきなり借金がなくなって、どう生きていくんだろうか俺は。


「ところで……あの、師匠。弟子にして頂くという話は請けていただけますでしょうか?」


 長壁さんが言うが

 ……改めて考えてみると、蘭城さんに会って借金がなくなり……と言う一連の出来事が起きたのは今朝だ。

 まだ一日も経っていないのにあまりにも密度が濃すぎて頭が痛くなる。


「引退して……暫くのんびりしたいような気もするんだよな」


 コーヒーを一口のんで思わず声が出た。

 借金返済のために、ダンジョンが現れるまでは激務に追われ、ダンジョンが現れてからは命がけで戦い続けてきた。

 それがなくなったんだから、ゆっくりと暮らしてみたい。


「えっ……それは困ります、師匠」

「私は草ヶ部様の行かれるところはどこであろうとお供しますが……草ヶ部様のような素敵ですばらしい方が引退してのんびりなど!」


 蘭城さんが立ち上がって声を上げた。割と静かなカフェだけに声が響く。

 8割がた埋まっていた店内がざわついて皆がこっちを見た。


「考え直してください!草ヶ部様!

あなたのような素晴らしい才覚が埋もれるのは……世界にとっての巨大な損失ですわ!」


「あの……ようやく巡り合えた師匠なんです……ご指導いただきたいです。」


 長壁さんが俺の手を取る。

 さっきまでの元気さとはちがって上目遣いで言うが……わざとやってるなら中々あざとい。


「草ヶ部様!」

「おねがいします……師匠」


「分かった、分かったから少し静かにしてくれ」


 女の子がオッサン相手に大声を上げているのは思い切り店内の注目を集めている。

 このままだと警察沙汰になりかねん。

 二人がちょっと気まずそうに顔を見合わせて椅子に座った。


「では……弟子入りは許していただけるということですよね」

「まあ、分った」 

「弟子入りは別として、私は草ヶ部様にお供しますので」 


 二人が言うが、もはや断り切れる感じではないな。

 しかし、二人とも押しが強すぎる。俺の意思はどうなっている。



「ところで師匠、もう一つお聞きしたいのですが」

「なんだ?」


「師匠は昔からあんな風に強かったんですか?」

「そんなわけない」


 ダンジョンが突然発生した時のことを今も覚えている

 ……といってもそのニュース自体は他人事だった。というより当時は仕事が忙しすぎてそれ以外に気を回す余裕は無かった。

 

 ダンジョン発生とその中でことが少し知られ始めたとき。

 突然現れた小津枝から、俺にはダンジョンで使える能力があること、ダンジョンで戦うならば借金を一本化してやる、と言われてそうした。


 あのままじゃ借金返済はいつ終わるかは分からなかったし、激務で過労死しかねない状況だった。

 借金を返して弟たちを守るには稼がないといけなかったし、同じ危険ならダンジョンに潜る方が、とは思ったが。


 ダンジョンに潜ってすぐのころは何度も死にかけたから余り状況は変わってなかったな。

 強くなるしかなかった。


「ただ、運は良かったとは思う」

「と言いますと?」


「天都を早い段階で借りれたことかな」

「それは……どういう経緯だったのですか?」

「小津枝が仲介してくれたんだよ」


 最初は小津枝から借りた刀で戦っていたが、深層どころか中階層でさえ行けるレベルじゃなかった。当たり前だが、サラリーマンが刀を扱えるわけも無いし、戦闘経験なんてものもない。

 あの時点では俺だってソードフィッシュにはとてもじゃないが勝てなかっただろう。


 しばらくして小津枝に和歌山の神社まで連れていかれて、そこに奉納されていた天都を借りれた。


 天都は風を操る能力を持つ。

 火力そのものはそこまで高くないが、遠距離からの真空の斬撃や風による防御や進路妨害ができてとにかく汎用性が高い。

 あれのおかげで中層で経験を積んでから深層に挑むことが出来た。

 

 それに天目が宿っていたのも大きい。戦うときの心構えとかそういうものを色々とレクチャーしてくれた。

 あの時点では俺は単なるサラリーマン上がりだったし、あれがなければ早い段階で死んでいただろうな。

 

 意思を持つ武器や防具は強力であるが、武器が使い手を択ぶ。

 なんであの時の俺を天目が選んでくれたのかはさっぱり分からない。


「それは……なんというか意外ですね」


 小津枝のことを見た蘭城さんが言う。まあさっきのアレではそう言う反応になるだろうな。


「あいつなりに思惑もあったんだろうが……昔はあんなのじゃなかったんだよ」


 出会った頃はあそこまで高慢な奴じゃなかった。

 和歌山の神社まで何度も行って、神主に天津を借り受けれるように頼み込んでくれた


 ダンジョンの中で戦える能力を持つ人間は少ないし、死なれると不利益だとかそういうあいつ自身の都合もあったと思うが。

 ダンジョン内で得られるものが生み出す金とか、そういうものがあいつを変えてしまったのかもしれない。 


 その後にもあちこちに奉納されていたり、保管されていた武器を貸してもらったが、その中で小烏丸と神楽鎚、それともう一本が俺に従ってくれた。


 霊力のある武器を使うという俺の能力は良い装備を持てるかでだいぶ違う。

 生き延びれたのはめぐり合わせとかそういうものの影響は大きかった。

 

  

 続きは昼に更新します。


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