第12話 二人の能力

「おはようございます、師匠。稽古をつけていただきたいのですが」


 翌日の10時ごろにアパートのインターホンが鳴って、出てみたら二人が立っていた。

 蘭城さんは凛々しい袴姿で、長壁さんは動きやすそうな黒のジャージ姿。

 背中には大きなバックを背負っていた。


 二人とも来るとは思わなかったぞ。

 なんか昨日は微妙に張り合ってるような空気があったが、今日はそんな感じではない。


「私は弟子ではありません。恩を返すまで草ヶ部様にお供する者ですから」

「一番弟子はあたしで一番傍に居るのが聖良ちゃんということで収まりました」


 俺の聞きたいことを察したかのように二人が仲良く顔を見合わせていう。

 如何なる話し合いが行われたのか計り知れないんだが。


「まあそういうことならいいよ」



 木林の車で今日は鑓水のダンジョンに移動した。

 鑓水は二つの丘に囲まれた住宅地でこれまた迷惑な場所に現れたダンジョンだ。


 ダンジョンも人が居るところもあればいないところもあって、鑓水のダンジョンは小さいからのなのか配信者もおらず静かだ。

 おかげで練習にはちょうどいい


 ダンジョンの3階層あたりまで進むが、ここは余りモンスターとかが出ないダンジョンだからか静かなもんだ。

 だからこそ配信者とかも来ないんだろうが。


「じゃあ二人の能力を見せてもらえるかい?」 

「ではまずは私から!」


 蘭城さんが言って右手を高々と差し上げた。

 白い光が収束して西洋風の剣を形成する。左手には白い光が渦を巻くように集って蔦の文様が描かれた盾を作り出した。


 蘭城さんの能力は剣と盾を生成する能力らしい。

 袴姿の和風美少女って感じだが、武器は洋風なんだな。どっちもデザインが蔦と木の葉で共通性を感じる。

 

「行きます!」


 そう言って蘭城さんが剣を横に薙ぎ払った。

 剣が白い軌跡を描いて剣から飛んだ白い光が壁に傷を穿つ。


「護りなさい!」


 蘭城さんが腰を落として言うと、ダンジョンの壁のような六角形の模様が浮かぶ光の壁が蘭城さんの前に浮かんだ。


 生成された武器は大抵は何らかの能力を持っている。

 剣は衝撃波を遠くまで飛ばせて、盾は防御範囲を広げられるらしい。盾の強度とか斬撃の威力までは分からないが、なかなかに便利だ


「攻防バランスがいいな」


 武器を生成する能力持ちの採掘者ブルーカラーは1人知っている。

 蛇骨槍という節をばらけさせる槍だ。武器を生成する能力は大抵は何か特殊能力とセットになっている。

 射程が長いのも盾が防御壁を形成できるのもそれだろう。


「ありがとうございます」


 誇らしげな顔で蘭城さんが笑った。


「草ヶ部様が仮に深層に行かれてもご一緒できるように修業いたしますわ」



「師匠!私にも是非」


 長壁さんが元気いっぱいに言った。蘭城さんと笑顔で視線を交わして前に出てくる。

 こっちはなんか忍者風の和装にミニスカとニーソックスになっていた。ジャージの下に着ていたらしい。

 背が高くて手足が長いスタイルに合っている。


 右手には長めの特殊警棒、左手には片手持ちのボウガンが握られていた。

 長壁さんの能力はどうやら俺と同じ武器をダンジョン内で使う能力らしい。

 系統としては俺と同じだ。これなら稽古も付けやすいかもしれない。


 ダンジョンの中で普通の武器は効果が無い。

 だから自衛隊の銃でもダンジョンの魔物に対抗できなかった。


 この能力はダンジョン内の魔力を武器とかに集めてダンジョン内でも使えるようになる……というものらしいが、厳密な意味では研究されていないから謎だ。

 俺の三本の刀のように素で魔力が宿っているものはダンジョン内でも強い。


 とはいえ、当たり前だが平和なこの日本で武器なんてそこらで売っているもんじゃない。

 ダンジョンが現れたといっても武器屋ができて鋼の剣が買えたりはしないし、宝箱に魔法の剣が入っていたりもしない。

 自衛隊に銃を売ってくれと言っても配信者には売ってはくれまい。


「えいやっ!」


 気合の声を上げて長壁さんが特殊警棒を振り回す。

 中々様になった動きだ。なにかの武術とかそう言う訓練を受けたのかもしれない。

 ひとしきり演武とか型のような動きをして長壁さんが動きを止めた。


「あの……師匠、いかがでしょうか」


 不安げな上目遣いで長壁さんが言う。


「良いと思うよ……まあこんな風に言うのもなんだが」

「本当ですか?ありがとうございます」 


 長壁さんが嬉しそうに笑ってガッツポーズした。



「草ヶ部さま、どうぞこちらを」


 一通り見せてもらって一息入れたところで蘭城さんがスポーツドリンクを渡してくれた。

 一口飲むと、レモン風味の冷たいスポーツドリンクが喉を抜けていく。


「しかし、意外に二人とも動きがいいな」

「私は高校まで剣道をしていましたし、今も師範について稽古に怠りはありません」


 蘭城さんが言う。

 まあこの子ならいい師範をつけることくらいは難しくないだろうな


「私は動画を見て練習してます」

「動画?」

討伐者アタッカーの人が戦闘訓練の動画を配信してくれているんです」


 そう言って長壁さんがスマホを見せてくれる。

 動画サイト your thetereユアシアター の動画だ。タイトルは「ダンジョン内の戦闘心得・5-1」となっていた。


 動画の中で若いがっちりした感じの男がダンジョン内の戦闘解説をしていた。

 こんなものがあるとはな

 しかし、こういうノウハウは隠すもんだと思うが。  


「ただ、定期的に稽古をつけるのはいいんだが、明日は休ませてくれ」

「はい、師匠!一人でやっております!」


 この二日間、あまりにも色々ありすぎて精神的に疲れた。1年分くらいの出来事があった気がする。

 それにここ数年はトレーニングするか戦ってるかのどっちかで、これだけ人と話すのは何年振りって感じだな。


「ところで草ヶ部様」

「なんだ?」

 

「私は草ヶ部様にお助け頂かなかったらあそこで死んでいましたわ。ということは今後の私があるのは草ヶ部様のおかげと言えます」

「そんな大げさなもんじゃないだろ」


「いえ、とんでもない。それを考えますと、残りの時間は草ヶ部様のお傍にいることが恩返しの最低限かと思っております。それが我が家の家訓にも沿います。

そういうことで、我が家に引っ越ししてはいかがでしょうか。部屋はいくらでもありますわ」


 蘭城さんが真顔で言って、後ろで長壁さんも同意するように頷いているが……


「……いや、遠慮しておく」


 なんか他にも色々と含意がありそうで怖いぞ。



 続きは明日の朝と昼に更新します。


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