第6話 八王子ダンジョン入り口にて

 結局、小津枝は悄然とした感じで連れ去られていった。

 蘭城さん曰く、もう草ヶ部様の借金は無くなりましたわ、ということらしいが……全然実感がない。


 なんせこの15年ほどは借金返済のためだけに生きてきたようなもんだしな。

 いきなりそれが無くなったと言われても、どうしたらいいのかが分からない。喜んでいいのかも分からない。


 とりあえずマンションの前で佇んでいても仕方ないが、さりとてどこに行けばいいのかも当てがない。

 彼女の希望で八王子ダンジョンに行くことになった。

 なんでも俺の腕を見たい……らしい。


「見ても面白いもんじゃないぞ、多分」

「いえ、そのようなことは全く、断じて、ありません」


 蘭城さんが力強く言うが、敵を殺すことを最優先にした戦闘なんて見ても味気ないと思うが。

 八王子ダンジョンには蘭城さんの車で行った。

 そして木林が運転してくれた車は見たこともないくらいに豪華だった。一体いくらするんだこれは。

 

「なるほど、採掘者ブルーカラーとはそういう職業なのですね。不勉強でした」

「まあ仕方ないとは思うよ」


 車での移動中に一通り説明してみたが、採掘者ブルーカラーのことは彼女は知らなかった。

 ただ、仕方ないと思う。そもそも採掘者ブルーカラーやダンジョンの中について詳しい奴はあまりいない。


 それに、最新鋭のスマホを店で買うとき、それを作る人のことを考える人はいないだろう。

 店にならんでいるハイブランドのTシャツを見る時、その糸を紡いでいる人のことを考えることもいないだろう、まあそういうもんだ。


 世界はいろんな人の見えない地道な仕事で支えられている。

 だがそういう人に日が当たることはあまりない。


採掘者ブルーカラーの方はみな草ケ部様の様にお強いのでしょうか」

「強くなければ死ぬだけだからな」


 殆ど知られていないが、ダンジョンのドロップアイテムからは現代の技術でも到底作れないような貴重なものがもたらされる。

 だが、貴重なものを得るためには深層まで潜らなくてはいけない。其処まで行ける能力を持つものは多くは無い


 ダンジョンの中だけで発現する能力は人それぞれで、魔法のようなものを使うものや身体能力向上、武器を作り出す能力、色々だ。


 俺が使っている能力は霊力のある武器を使うという能力だ。

 今は三本の刀を持っている。各地の神社に祀られていた刀を借り受けてきた。


「君の能力は?」


 配信者をしている以上、何かしらの能力はあるはずだ。

 

「私は剣と盾を作りだす能力です」


 蘭城さんが答えてくれた。

 武器を具現化する能力は割と一般的だ。強い能力を持つものは本人の身体能力を高めたり、魔法のような特殊能力を備えていたりする。かなり人によってばらつきがある能力だ

 俺のように武器を従える能力とは少し毛色が違う。



 俺のマンションがある鑓水から八王子についたころにはすでに太陽は高く昇っていた。

 八王子ダンジョンの近くの駐車場で車を止めて木林がトランクに入れていた刀を渡してくれる。

 そのまま俺に一礼して運転席に戻る。どうやら彼は此処で待機らしい。


「あれ、セーラだぜ」

「隣のオッサンは誰だよ」

「あいつ、この間事故配信寸前だったんよな」

「またやるのかね、いい度胸してるぜ」


 八王子ダンジョンの入り口に近づくと、配信者らしき連中からそんな感じの声が聞こえてきた。

 この子はどうやらかなりの有名人らしい。いわゆる配信者の事は全然知らないから分からないんだが……蘭城家のお嬢様と言うのは知られていないっぽいな。


 ひそひそ話が聞こえてるとは思うが、気にしていないように蘭城さんの足取りは変わらない。

 歩き方を見るかぎり、一応鍛えているというか訓練は積んでいるっぽいな。

 

 ダンジョンの入り口はあちこちにあるが、その中でも一番大きいのは八王子駅前から少し歩いた広めの十字路の真ん中だ。

 ……毎度思うが迷惑な所に現れたもんだと思う。新宿もそうだが。

 どうせなら山奥とか海の底とかそう言うところに現れれば迷惑も掛からないだろうに。

 

 一応周りには申し訳程度に黄色い立ち入り禁止の黄色いロープが張り巡らされているが、誰も守っちゃいない。

 周りには配信者らしき連中が溜まっていて、そのうちの何人かは配信用のドローンを飛ばしてマイクに向かって何か話していた。

 

「すみません!」


 地面がめくれ上がったような入り口に近づいたところで突然声を掛けられた。

 170センチほどの長身の女の子だ。まるで人目を嫌うようにパーカーのフードを頭からすっぽりかぶって、サングラスをかけている……怪しすぎてかえって目立ってる気がするが 


 蘭城さんの知り合いかと思ったが、その子が俺の方を見る。


「弟子にしてください!」



 続きは明日の朝と昼に更新します。


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