第5話 借金、無くなる。

 15分もしないうちに小津枝の黒塗りのSUVがアパートの前に止まった。

 ドアが開いて小津枝と取り巻きが降りてくる。小津枝が蘭城さんをじろりと見た。


「帰らせておけと言ったろうが、バカが。さっき俺に小生意気な口を叩いたのはお前か?」

「ちょっとまて、小津枝」

「そうです」


 間に入ろうとしたが、蘭城さんが一歩も引かずに言いした。


「で、何だって?」

「草ヶ部様への無礼は許しません」

「草ヶ部様だと……おいおい、このお嬢ちゃんは頭が大丈夫なのか?おい、女を連れ込むにも少しは相手を択べよ」


 小津枝が言うが……後ろでイケメン黒スーツの顔が少し引きつった。


「二人とも、少し……」

「いいか、お嬢ちゃん。こいつは俺に借金がある。5128万だ。返済が終わるまで、こいつは俺の奴隷だ。おい、身の程は分ってるだろうな?この頭の足りなそうなやつにしっかりいい聞かせろ」


 小津枝が勝ち誇ったように言う。


「なるほど、お金の話なのですね。なら話が早いです……木林さん、すぐ手配してください」

「かしこまりました、お嬢様。万事抜かりなく対応いたします」


 そのイケメン黒スーツ……木林というらしいが……頭を下げて、タブレットを操作した。

 しばらくして木林が蘭城さんに何かささやくと、蘭城さんが頷いた。

 

「で、いいか。次の仕事だが、静岡に……」

「君、希望の方法を言いたまえ。20分以内に弁護士と会計士、それに銀行の担当者が来る。法的な手続きは彼らがする」


 木林が小津枝の言葉を遮るように口を挟んだ。


「はあ?弁護士がどうした。いいか、折角だから教えておいてやる。俺のバックには家永先生や山本先生が……」

「お二人とも存じています。此処に呼んでくれて構いませんよ。必要なら総理大臣でもお呼びしますが」


 蘭城さんが平然と言う。小津枝が気圧されたように後ずさった。

 そこでようやく思い出した。蘭城って確か日本有数の企業グループ、オーキッドグループの社長の名前と同じだ。

 

 ということは、その親族とかなのか?思わず彼女の方を二度見してしまう。

 しかし……なんでそんな子がダンジョン配信なんてしているんだかわからん。正真正銘のお嬢様だろ。


「……一体どういうことだ?そもそもお前らは何なんだ?」

「勘違いしているようだが、もう事態は進行していて後戻りはできない。君の選択の余地は清算方法だけだ」


 木林が念を押すように言う。

 状況を察したように小津枝の顔が強張った。


「この方の借金は今すぐ清算される。これはもう決定事項だ」

「なんだ、おい……こんなことが許されると思っているのか?」

「君が金と権力を振り翳そうとしたから同じように応じているだけだよ。上には上がいる。それだけの話だ」


「ちょっと待て……お前ら一体なんなんだ?」

「いいから質問に答えたまえ。どの方法を希望する?」


 そんな話をしているうちに、次々と俺の古いマンションの前に似つかわしくない豪勢なセダンが止まった。

 高そうなスーツを着た男たちが礼儀正しく蘭城さんに挨拶する。


 小津枝が呆然とした顔で男たちと話してこっちを縋るように見るが……俺に一体どうしろと言うのか。

 俺もようやく理解が追い付いた。どうやらこの状況はマジらしい……蘭城さんが笑顔でまた一礼してくれた。


「草ケ部様。命の借りはこれで。

今後は恩返しをさせていただきますのでよろしくお願いします」


 彼女が言うが

 ……いや、今ので十分な気がするぞ。



 続きは昼に更新します。


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