第9話 三本の刀

「師匠!あの……差し支えなければ、師匠の力をお見せいただきたいのですが」


 カフェを出たところで長壁さんが言った。


「なんだ?疑っているのか?」

「いえ、とんでもない!……しかし聖良さんだけ見て私は直接は見ておりませんので」

「そうですわね。私は見ていますが」


 慌てたように長壁さんが首を振る横で、蘭城さんは何やら偉そうだ


「まあいい。その位ならいいよ。どの道そのつもりで来たわけだしな」

「ありがとうございます!師匠!」


「だけどドローンは切っておいてくれ。配信とやらは無しだ」

「なぜです?」


 長壁さんが不思議そうに首をかしげる。


採掘者ブルーカラーの仕事は目立つことじゃない」


 俺は配信ってやつが好きじゃない……と配信者二人の前で言うのは流石に大人げないからやめておいた。



 八王子ダンジョンに限らず、ダンジョンはアリの巣のように広がっていて出入り口もたくさんある。

 十字路のあそこが一番広いし、目立つことが目的の配信者はあそこに行く。

 ただ、今回は長壁さんのファンらしき連中が溜まっていたから避けた。


「じゃあここから行くか」


 少し離れた公園の一角にも入り口があってここも何度か使ったことがある。

 これまた申し訳程度に公園の周りには柵が立てられていて、柵の中には古いブランコやシーソーと、洞穴のようなダンジョンの入り口があった。


 バトル中心のアタッカー連中もルートが確立しているところから行くから、小さな出入り口は誰も利用しない。

 それにダンジョンの中からモンスターが出てこないとは言っても、普通に考えれば正体不明の場所なわけで、普通の人は好んで近づいたりはいしない。

 そんなわけで周りには人影はなかった。


 耐火、防刃の装備を着て、刀を包んだ布を外す。

 野太刀を背中に担いで、腰のベルトに小太刀と剣を挿した。


「その装備は忍者ですか?」


 長壁さんが聞いてくる。まあ確かに言われてみれば忍者に見えるかもな。


「そんな浪漫が採掘者ブルーカラーにあるわけがない」


 これは純粋な防具だ。

 重くならない程度の防具だとこれがギリギリだ。

 

 どんな低階層でも、敵がどんなザコでも万が一はあり得る。

 人間の体は傷つくと一気に機能が低下する。

 決して万全とは言えないが、それでもこの心もとない一枚の防具が運命を分けてくれることはある。

 

 俺と同じ能力持ちの中には、刀じゃなくて鎧を従えている奴もいる。

 本人は攻撃力のなさに悩んでいたが、俺としては生存確率が上がって羨ましい。まあ無いものねだりだな。



 ダンジョンの中に入った。

 入り口は洞穴のようだが、中は白く光る六角形の鱗のようなものに覆われた人工的っぽい回廊が伸びている。

 

 今までは採掘者ブルーカラーとして深層を目指し目的の敵を倒すために入るばかりだった。

 そう言う目的が無いのは本当に久しぶりだな。


「しかし……三本も刀をお持ちなのですね」


 改めて感心したって感じで蘭城さんが言ってくれる。

 俺の持っているダンジョンの中で武器を使う能力は、魔力のようななにかを武器に纏わせることによってモンスターを倒すことができる。


 だから、ごく普通のそこらに売られているものでも使える。

 ただ、言われがある古い武器とかの方が強い場合が多い。


 そして、古い武器には大体あてはまるんだが、俺の持っている刀にもそれぞれ意志がある。

 これはどういう理屈かはしらないが、本人曰く、作り手や使い手の想いってことらしい。

 そういう何らかの想いとか未練とか、そういうものが乗った武器はダンジョン内でモンスターと戦う力を発揮してくれる。


 普段は実体化しないが、連れがいるのを察したのか三本とも姿を現した。

 幽霊のような半透明の姿で、長壁さん達が流石に少し怯んだように後ずさる。


 天都あまつは風を操る事が出来る長めの野太刀。

 宿っているのは見た目は俺と同じくらいの年の女だ。名前は天目アメ


 頭に狐の面を横被りしていて、着流しのような妙に露出度が高い格好なので、実体化されると目のやり場に困る。

 作られてから450年経っているからなのか、保護者ぶってくるのが鬱陶しい。


 小鴉丸こがらすまるは俺の意思に従って飛ぶ小太刀。

 名前はからすで、その名の通り、刀身は煤を塗ったように黒ずんでいる。


 見た目は15歳くらいの黒装束の女の子。

 自称江戸時代の忍者で見た目もそれっぽいが、本当かはしらない。


 神楽鎚かぐつちは焔を操れる両刃の古風な剣。

 中身は燁蔵かぐら。面倒くさがりのお嬢様だ。平安時代風の衣装を着た長い黒髪で、古典の教科書に出てきそうな見た目。

 見た目は20歳くらいだが、こいつがダントツの年上で作られてから1200年以上らしい。


『へえ、二人とも良い器量じゃないか、草ヶ部。

あたしゃねぇ、あんたがこのまま妻も娶らず、子もなさず。ただただ戦っていずれ路傍の屍になるじゃないかと思って心配で心配で。嬉しいよ本当に』


 二人を見た天目が大げさな仕草で首を振って俺の肩に手を置いて言うが……おおきなお世話だ。

 ていうか二重の意味でセクハラは止めろ。


『へー、主様、この人と一緒に戦うわけ?

でも、拙者たちだけじゃ不満ってことなのぉ、傷つくぅー、拙者傷ついちゃうー。次言うこと聞かないかもぉ』


『そこな娘、このものがダンジョンとやらで死んだら妾を元居たところに戻しておくれ。畿内の加具宮神社じゃ。こやつが死ぬのは構わぬが、路傍に打ち捨てられるのは御免じゃ。

それにこやつは人使いが粗すぎる。もう働くのはこりごりよ、供え物をつまみながらずっと微睡んでおりたいわ』


 三人というか三本が口々に言うが……蘭城さんと長壁さんは二人ともあっけにとられたって顔をしていた。

 まあ無理もない。



 続きは明日昼に更新します。


 面白いと思っていただけましたら、ブックマークや、下の【☆☆☆☆☆】からポイント評価をしてくださると創作の励みになります。


 感想とか頂けるととても喜びます。


 応援よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る