第20話 〇〇〇ちゃん

リアちゃんと『ミケ』君、ふたりを見ていると、たまに羨ましくなる。

同世代の信用できる友達がいたらどんな会話をするだろう?

私にはリアちゃんのほかに、かつて親友だと思っていた子がいた。

ほんの数ヶ月間の友達だったけど。


小学校では休み時間でも教室に教師がいるとその空間が苦手になっていた。

授業と授業の間、昼休み時間はトイレに行く時以外でも廊下で所在なく窓を眺めたり他の生徒達が動くのを景色として傍観していた。

そんな私に誰かが声をかけてくれる時もあるけど自分でもどうしようもないくらい話したくなくて廊下の隅で佇んでいることがほとんどだった。

トイレに行きたくないのに行ってダラダラと石鹸でいつまでも手を洗っていて休み時間が早く過ぎるのを願っていた。


昼休みにはいろんなクラスの生徒達が活発に廊下を行き来しているのを見ていた。

4年生の時の教室は講堂に近い場所だったので生徒の行き来が多かった。

その中で毎日バレーボールを持った仲良さそうな他クラスの女子の集団が私の前を通って行くのが気になった。

いつもボールを持たされて集団の中心にいる子がいつも私を見て笑いかけていることに気がついたからだ。


「ねぇ、なに立ち止っているの?早く行こうよ!」

「休み時間終わっちゃう」

「早く早く」

私を見て目が合い、ちょっと立ち止まろうとした彼女はたちまち他の子達に背中を押されたり腕を引っ張られて行ってしまった。

人気ある子なんだろうな、なんて思いながらその子を見送った。

その子は、私の横を通り過ぎた後も少し振り返って私を見て微笑んできた。


そんなことが数回続くと、その子が気になり始めた。

どこのクラスなのかもわからない。

私に向けられた笑顔が1度だけだったら、いつも所在なくぼんやりしている私を憐れんだのか?それともただの偶然と思うところだったけれど…

それからも2度3度と目が合うと、自分の前を通り過ぎていく度に不思議な違和感が続いてしばらく落ちつかなかった。


日曜日。

常に家にいたくない私はリアちゃんと会った後も家の手伝いが終わると庭の前にある丸太の椅子に座って暗くなるまでそこで本を読んでいた。

「リナさんだよね?」

突然話しかけられて、声の方を見上げた。

ひなたで本を読んでいたのと逆光のせいか、相手がよく見えなかった。

目の前にあったのは真っ黒な人の形。


「今度ここに引っ越してきたの◯◯◯〇〇〇です、友達になってください」

名前は、覚えているけど記憶の中でもその文字を一生見たくない。


目が慣れてきて、ようやく相手の顔が見える。

いつも同級生達に囲まれて真ん中にいる『あの子』だった。

こういう偶然って何か意味があるように思えることがある。

「家がすぐ目の前で近いからこれからは一緒に学校へ行こう」と誘われた。

「うん、いいよ」

目をしばしばさせながら即答していた。

積極的な感じでどうして自分の名前を知っていたのかなんて聞く間もないほど自然な出会いだった。

彼女は廊下で見た時と同じ笑顔で「じゃあね」と手を振って戻って行った。

私は何事もなかったようにそのまま本の続きを読もうとしたけど、本当はドキドキしてそれどころじゃなかった。


「リナさん、おはよう」

毎朝どちらかが迎えに行って一緒に登校して、帰りは私の教室の前で彼女が待っていてくれた日は一緒に帰った。

いろんな話をたくさんして、たくさん笑って毎日一緒だった。

あの当時はとても楽しかったはずなのに、過ぎた後の記憶はとても苦々しい。

思い出と呼べるもの全部が痛みと嫌悪感で霞んでいく。


私は彼女を『〇〇〇ちゃん』と親しげに呼んでいた。

彼女は私を『リナさん』と呼んでいた。

話題が豊富でユーモアがあって、おかしな替え歌を作って踊りながら披露することもあり面白くて大声で笑い合って〇〇〇ちゃんが人気者なのがとてもよくわかった。


一見すると大人っぽくて落ち着いた雰囲気が魅力で、いつもそばにいて欲しいと思わせる安心感を持っていた。

話し方が表情豊かで老若男女全てに好かれてそうなイメージだった。

そんな人が私の友達になってくれた、そう思うだけで明日が楽しみになった。


〇〇〇ちゃんとは普段は楽しい会話をしながら、とにかく話し上手なので自然と彼女の同級生達の悪口もたくさん聞かされていた。

私は話を聞いているうちに自分のことのようにすっかり同情していた。

いつも同級生達と楽しそうにしていたけど、本当は嫌々付き合っていると言った。

他クラスの生徒と仲良くするのを快く思わない感じが〇〇〇ちゃんのクラスにはあったようで、それはつまり私のせいで嫌な目に合っているということだった。

『そんなことってあるの?』と私は驚いた。

なので、段々と私は知りもしない〇〇〇ちゃんの同級生達をいつのまにか一方的に敵視していた。


「リナちゃん、最近1組の人と仲良いよね」

私も同じクラスの子に言われた。

「近所に引っ越してきたんだよ、一緒に登校してる」

「ふーん、そう」

それで終わる話題だった。

一方で〇〇〇ちゃんのクラスはそうではなかった。


ある日

ひとりで下校して校門を出たら、たくさんの生徒が私の前に現れて立ち塞がった。

知らない顔ばかりだったが後方で〇〇〇ちゃんが泣いていて、その両側で2人の女子が慰めるように〇〇〇ちゃんの顔を覗き込んだり腕を支えたりして寄り添っていたので同じクラスの生徒達だということがわかった。


「おまえ4組だろ俺達1組の生徒と仲良くするなよ!」

先頭に立っていきなり怒鳴ったのは同じ地区で顔は見たことがある男子だった。 

「なんでそんなこと言われなきゃいけないの?」

私はいきなり怒鳴られたのでムッとして怒鳴り返した。

同じ子供同士だから怖がることはなかった。


他クラスと仲良くしている子は他にもたくさんいる。

家が近いとか塾が一緒とか従兄弟同士とか、学校以外にもいろんな繋がりがあって気が合うなら仲良くするのは自然なことで強制されてやめさせられるようなことじゃないと思った。

当人同士で決めればいいこと。

当人が相手に意思を伝えれば済むことだ。

『友達になろう』と言うのは簡単だけど『友達やめよう』は難しかったのだろうか?


その日は家に帰るとすぐ〇〇〇ちゃんが来た。

「クラスでわたしとリナさんが仲良くしているのが問題になっていたの」

「なんで問題なの?」

「わたしがクラスの友達よりリナさんと一緒に帰るのを優先してたから…」

言われて初めて〇〇〇ちゃんの状況を思い出した。

クラスの人気者で私とは立場が違う。

気配り出来なくて悪いことをしたと思い、謝った。

「これからクラスを優先してね」

〇〇〇ちゃんにはそう言ったが、その後も別に大きな変化もなく一緒に登下校して土日もどちらからともなく誘って遊んでいた。


ある日の放課後。

今度はまだ教室にいた時に1組の女子が来て呼び出された。

その子についていくとグランドの隅で〇〇〇ちゃんを含めた7~8人の女子に囲まれてしまった。

私はいつのまにか大きな木を背にして囲まれ動くことが出来なくなっていた。

女子のほとんどが腕組みや腰に手を当てて何か言いたげな顔でこちらを睨む。

〇〇〇ちゃんだけは胸の前で両手をモジモジさせて所在無げに落ち着かない様子で俯いていた。

いつも〇〇〇ちゃんを困らせていると聞いて見知っている中心人物の子が言った。

「もう2度と〇〇〇ちゃんとは付き合わないで」

「どうして私がそんなこと言われなきゃいけないの?」

「〇〇〇ちゃんが嫌がってるんだよ!」

「そっちこそ〇〇〇ちゃんが迷惑してるって聞いてるよ」


「なんで?〇〇〇ちゃんがそんなこと言うわけないでしょ、嘘言わないでよね!」

『嘘』と言われて思わず〇〇〇ちゃんからいつも聞いていた話で反論した。

「そっちはいつでも自分が一番じゃないと機嫌悪くなってワガママなんでしょ?」

「何なの?あたし達や〇〇〇ちゃんとその弟を勝手に名前を呼び捨てにして偉そうに悪口言ってるクセに!知っているんだからね!」

「なんのこと?私は知らない人の悪口なんて言わないし、〇〇〇ちゃんや弟君のことを呼び捨てにしたことなんてないよ!」


それまで私を睨んでいた周りの子達が戸惑ってそれぞれ顔を見合わせて首を傾げた。

そしてその時、私のクラスメートの2人が帰り道を外れてグランドを横断してこちらに近づいてきたのが見えた。

「リナ、何してるの?」

時々一緒に帰る子が声をかけてくれた。

一瞬、全員で息を止めるような静かな緊張感になった。


「何もしてないよ、バイバイ」

「そう?じゃあね」

「バイバイ、リナ」

2人は何度かこっちを振り返りながら帰って行った。


グランドにいる私の方に歩いて来て、バイバイして戻って行く。

2人の帰り道から外れていたのは明らかで私を気にしてくれたのがわかり胸が熱くなった。 

普通のなんとも思ってない同じクラスの同級生に心を救われて大好きな〇〇〇ちゃんにいつのまにか理由もなく追い込まれている自分がとても惨めで愚かな人間だと思い知った。

そして、私はまだ囲まれたままだった。


突然、中心人物が笑い出した。

「やだな〜〇〇〇ちゃん!嘘ついたな?」

照れ隠しみたいに笑って今まで責めていた子が〇〇〇ちゃんと戯れ合う。

「えへへ、ごめんねー」

他の子達は仕方ないな、という表情で笑顔の〇〇〇ちゃんを見る。


「あー、やめよう!もうお腹空いたから帰りたい」

囲んでいた1人が言うと、輪がバラけた。

「でも!明日からあたし達を無視しないで挨拶しなよ!」

中心人物が命令口調で最後に言った。

私が「わかった」と言うと解放された。


その後、私は彼女達を見ても挨拶することは1度もなかった。

〇〇〇ちゃんと同じタイミングで家を出て登校しても別々に歩き会話はしなかった。

もう2度と目を合わすこともなかった。


〇〇〇ちゃんがその時どうしてそんな嘘をついたのか、考えたところでわからない。

〇〇〇ちゃんと付き合っていた間は話すのがとても楽しかった。

妙に大人びていて自分とは全然違うからとても魅力的に感じていた。

そして私は短い付き合いの間にたくさんの知識を得ていた。

まだ知らなくてもいいこと、一生知らずにいたかったことまで。


どうしたら子供が出来るのかを教えてくれたのは学校ではなく〇〇〇ちゃんだった。

モラルのない大人が多い卑猥な環境の街で生まれ育ちながらも性への関心が学校の勉強と同じくらい興味なかった私はきっと人より無頓着だったと思う。

〇〇〇ちゃんと出会ったおかげで歪んだ知識をたくさん仕込まれた。


学校の性教育なんて授業と同じで全然記憶に無い。

そんな授業があったのかも覚えていない。

〇〇〇ちゃんの性の知識から得たものは嫌いな両親の気持ち悪い行為で自分が生まれてしまったという衝撃と精神面に植え付けられた厭世観の芽だった。


性の話題は私にはもう十分だったのにまだ何か言いたいことがあるのかな?という粘着質な物言いを感じることがあった。

剛を煮やすというのか、時々理由もなくイライラした口調になるのだ。

年下のリアちゃんとばかり遊んでいたので私は幼かったのかもしれない。


後に改めてわかったことがいくつかあった。

〇〇〇ちゃんは私に合わせて子供っぽい遊びに付き合ってくれていただけ。

それは私を試しているようでもあり、単なる様子見だったかもしれないのに私だけが気が合うと勘違いして楽しかったのだ。


〇〇〇ちゃんについては、ずっと気になっていても表現出来ない違和感が胸に刺さったままだからいつまでもチクチクして、時を経てやっと意味がわかっても鈍感な自分を後悔するだけだった。

だからこそ自分で自分の過去を暗黒に沈めて解けないように固めてしまった。

それ以上は考えてはダメだと思って。


一緒に登下校を始めた頃のことだった。

毎日あの現場の前を通った。

ある時、〇〇〇ちゃんが言った。

「このホテル、うちのお母ちゃんが前に働いていたところだわ」

「ああ、そうなんだ」

私の母親も旅館で働いているので、そんな共通の話の時は少しは付き合えた。

でもその時の話のフリは唐突で〇〇〇ちゃんはあの場所で立ち止まった。

親の話なんて本当は興味ないけど〇〇〇ちゃんの話はそのまま続いたので仕方なく私も立ち止まった。


「ここ学校に近いから、1年生の時から家に帰らないでお母ちゃんの仕事が終わるまで上の方で待っていて外をずっと見てたなー」

〇〇〇ちゃんは駐車場側の上の窓を指して「あそこで」と教えた。

「ここは何階まであるの?」

「6階、わたしは3階のリネン室にいて南側は崖だから下を覗くのが怖かった」 

「私も見てみたいな、でも高いところは苦手かも」


「リナさんが帰るのを何回か見てたよ笛吹きながら歩いてたこともあるでしょ」

低学年の頃は周りを気にせず、そんなこともしていたのを思い出す。

音楽の授業ではやる気になれないのに帰り道で勝手に吹く笛は楽しかった。

〇〇〇ちゃんは私と知り合うずっと前から私を見て知っていたことを教えてくれた。


「えー?そんなの見られてたの?恥ずかしいね」

そんな話で笑って終わると思っていたのに不思議なことを不思議そうに聞いてきた。

「ねぇ、本当にここのホテルのこと何も覚えてないの?」

〇〇〇ちゃんが私に何を聞いているのか全然わからなかった。


覚えているもなにも登下校で通る道の途中のホテルというだけで〇〇〇ちゃんみたいに建物の中に入ったことがないから何も知らない、それがその時の私の純粋な答えだった。

逆になぜそんなことを念を押すように聞くのかが全くわからず違和感がその先ずっと記憶に残ることになる。


このホテルの前で意味のない事でカエデさんを誤解させた記憶も忘れたことはない。

子供の浅知恵とはいえ大きな間違いだった。

でもその話は〇〇〇ちゃんにわざわざするものではないし、言いたくもなかった。

嫌な出来事なんて〇〇〇ちゃんと毎日過ごす楽しい時間とは結びつかないものだったからだ。

〇〇〇ちゃんに意図して隠してたことでもなかった。


子供時代の1年間とは変化が目まぐるしいのに気が遠くなるほど長い時間だった。

長い長い時間を過ごした分、思い出は多過ぎて1度に取り出せる量は少ない。

出来事の興味も気持ちもその場には留まらず流れの速い川に似ていた。

だから大人になって振り返ってみることがある。

それは過去に逃げるとか過去にこだわるとか、そんな作業ではなくて…


それからしばらく経ったある日の帰り道。

学校では定期的に話題になる『不審者情報』の話になった。

〇〇〇ちゃんはとても自然に話し始めた。

「不審者ヤダよね、あのね、わたし前に変なことされたんだ、大人に」

「え?」

「知らない男が猫がいるよって」

私は気がつくと歩くのを止めてその場に立ち止まり彼女の話を聞くために向き合っていた。

近くの川の音が急に大きくなって聞こえた気がした。

「でも猫はいなくて、そしたら、おんぶしろって言って後ろから抱きついてきたの」

「それ本当?」

「うん、先生って呼べって言うけどおんぶしているのが重くて言えなかった」


「ねぇ、〇〇〇ちゃん!私も同じだよ!」

私は聞いていて『あの男』を思い出していた。

そして驚いて、すごい偶然だと思った。

〇〇〇ちゃんは私の反応を一緒には驚かず、満面の笑顔で見ていた。


カエデさんには言えなかったあのことを気がつくと〇〇〇ちゃんにはペラペラと話していた。

「私の時も最初は猫いるよって言って呼ばれたよ!」

あまりの偶然に私は気分が悪くなる内容をはしゃいでいるみたいに話した。

「そしておんぶしてきたのも一緒!」

ニヤニヤしながら黙ったままの彼女にペラペラと軽い口調で話し続けた。

「私の時は100まで数えなさいって命令されたんだよ!意味わかんない」 

どこか途中で気づいてたら止める術があったのだろうか?

「それから…」


…あの時は男が大きな体を曲げてて私の手は男の体には届かなかった。

男は覆い被さるだけだったから私は重さなんて何も感じなかった。

私はその違いを詳しく言うのをためらっていた。

偶然にも似た体験していたことを知って興奮して一気に喋ってしまったけど。

あまりにも同じで、だけと何かが違っていて変だった。


『あの男』のことを具体的に考えると気持ち悪くなってしまった。

とても嫌な記憶だから詳細に思い出していたら急にザワザワしてもう言いたくなかった…リアちゃん以外には。

でも…


「ねぇ!どんな顔だった?もしかしたら私が見た人と同じ人じゃないかな?」

あまりにも偶然の一致が多いので一瞬、同一人物かもしれないと思った。

それと同時にそんなはずはない、あの時の男は観光客だったとすぐ思い直した。

同じ男に同じ目に遭った、そんな2人が偶然知り合い仲良くなるなんてあるの?

一気にたくさんの疑問が浮かびながらようやく〇〇〇ちゃんに話す番を譲った。

「あー、顔は忘れちゃった!日焼けしたおじさんだったから」

「そう?私が見たのも日焼けした人だったよ…」


…見てたんだ。

きっとあの窓から、息を潜めて、そこで働く母親を待ちながら。

そして学校の廊下で佇む私を見つけて笑ってたんだ、振り返ってまで。 

証拠は何一つなくても次々と閃くように繋がっていった。

これらは大人になる過程でようやく理解した。

忌まわしい思い出が増えて違和感は何度でも頭をもたげては私を悩ませていた。


そんな偶然があるわけない。

『猫』も『おんぶ』も『先生』も。


最初に廊下で見た笑顔、〇〇〇ちゃんは私を見てあの光景を重ねていたのだろうか?

引越し先で偶然なことに家が近くなって、その笑顔で私に近づき、話しかける前には名前まで調べていた。

親しくなって楽しくおしゃべりして…だけど言ってもない悪口でトラブルを招いた。それで絶交するまでは、ずっとあの秘めた笑顔で私と一緒にいて探ってたのだ。

あの時に見た光景を、いずれ私に確かめてみたくて。

そして確かめてからは何を考えて私といたのだろう?

絶交しても近所で同じ学校だから嫌でも〇〇〇ちゃんの存在は消えなかった。


思い出すのは昼休みにボールを持ちみんなに背中を押される姿と私を横目で笑う顔。

あの笑顔を思い出すと『あの男』を一緒に思い出してしまう。

あの時は同じ1年生だった〇〇〇ちゃんは上から黙って見ていたおぞましい光景に何を思ったのだろう?

〇〇〇ちゃんは想像力が豊かだけど、男が重かったなんて気色悪いイメージで語っていたから私はその妄想の中でも汚されていたと思う。

子供でも邪悪な心はとっくに完成していると〇〇〇ちゃんは証明してくれた。


彼女は私が家を離れている間に家族でまた引っ越していなくなり、後は知らない。


彼女の悪意は引っ越しで近くに来た偶然のせいで生まれてしまったのだろうか?

月日が流れ年を重ねることは悪いことじゃない。 

私の叔母には恐怖の現象だけど…

ひとつのことを気が済むまで考えることが出来るのは人生の醍醐味だ。

そして、わからなかったことが突然開けるように理解できることがある。

長い年月が経験と知識を蓄えるから諦めずに考えていたら理解出来ることもあるので無駄じゃない。


だけど、それが自分を傷つけるだけの墓穴を掘る行為になってしまうこともある。

幾度となく些細なキッカケで思い出す彼女とのエピソードは気づきと共に汚れて激臭を放った。

更新されたものは全て彼女の俗悪な足跡に染まっていった。

私の身に起きたことを目撃して面白がり近づいてきて友達になりたいと言った人間。


あの笑顔は私を嘲笑う種類のものだったのでは?と


願わくば彼女が存在した記憶を残らず消去したかった『あの男』と一緒に。

でもそれは多分叶わない。

襲いかかる過去の悪意は今自分が充実していれば相手への憐憫と共に無関心へと移行出来るのにね。

…そうだね、それはとっくに知ってた。

私には出来なかっただけ。


割り切って忘れられたら、と。

未来には無限の可能性があるけど自分の生命は有限なのだ。

なのに過去にずっと囚われたまま現在まで生きて、先の希望が復讐と自死、そんな人間に成り下がっているのに〇〇〇ちゃんを蔑むのは滑稽だよね。


でも…名前も知らない『あの男』への憎しみだけはいつまでもブーストがかかって止まらないんだよ、どうしようね、リアちゃん。

それにしても…

歪んだ性への興味って年齢性別関係なく邪悪だと思わない?


…ねぇ、私、狂ってないよね?







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