第12話 大好きな叔母ちゃん

むかしむかし

あるところにひと組の夫婦がいました。

妻は妊娠したので夫に報告しました。

「子供が出来ました」

どんな風に喜んでくれるかと思いました。

「金がない、堕ろせ」

妻の報告に夫は躊躇なく言いました。

妻は、夫の父親に息子の嫁になってくれと言われる前まで働いて貯めたお金を内緒で持っていたので、それで産む決心をしました。


そんな事情を知らない夫の妹は妊娠を喜びました。

「早く赤ちゃんが見たいな、わたし絶対子守りをするから」

夫の妹はまだ中学生でしたが以前から高級なブレスレットを欲しがっていました。

妻はどうせ出産で貯金を崩すのだから、と思い切って夫の妹に「みんなに内緒よ」と言ってブレスレットを買ってあげました。

夫の父親は吝嗇家で夫は甲斐性無しで夫の妹は性格がキツくて、妻は気を遣いながら3人に尽くしていました。

ブレスレットが嬉しかったので夫の妹だけはそんな妻に感謝しました。

夫の妹だけが赤ちゃんを楽しみにしていました。

「お人形さんみたいに可愛い女の子が良いな」


出産が近くなると妻は東京から自分の母親を呼びました。

初めての出産と置かれている自分の環境にとても不安を感じていたのでとても頼りにしてました。

妻の父親はまだ幼い頃に亡くなり、母親は妻の姉の家族と平穏に暮らしていて妻が結婚した時も式はしないで報告だけだったので長く疎遠になっていたから本当は頼んでも断られるかもしれないと思っていたのに『初めての出産だから』とすぐ来てくれました。


妻の母親がその家に初めて来て泊まった夜。

夫の父親がお互い独り身同士だからと言いながら夜這いに現れました。

妻の母親はとても潔癖症なので抵抗して朝になるのを待って帰ってしまいました。

「悪いけれど、こんな気持ち悪い家にはいられない」

そう言い残し、この家に2度と来ることはありませんでした。


「お前のお袋は孫が生まれるっていうのにずいぶん薄情だな」

来てすぐその翌朝に帰ってしまった妻の母親をなじる夫。

義父の立場を気にして何も言えない妻。

この時とても結婚を後悔しましたが妊娠中なのでもう手遅れだと諦めました。

「長い白髪が落ちてる、汚い!」

夫の妹は妻の母親の髪を見つけて早く掃除するようにと身重の人間に言いました。

目をかけていた夫の妹のその言葉にも、とてもとても傷つきました。


…………‥……‥ ‥


…この話は私が生まれる前に起きた物語。

私が知らなくてもいい話。

まだ子供だった私がこの話を聞かされた時、とても母親を憎んだ。

なぜ、そんな話を私にするの?

父親のことは、こんな話を聞く前から好きになれるわけがなかった。


母親は私を産んでまもなく働き始めてた。

父親は昼と休日はパチンコ屋に入り浸り夜はタクシー運転手をしているらしい。

主に芸者衆の送迎をして街周辺を走っているみたいだ。

母親は今も続けている旅館の仲居の仕事をしていて朝6時から働き昼から午後3時までの休憩時間に家に戻って家事をして夕方前には旅館に戻って夜9時まで働いている。

仕事が終わって家に帰ったら洗濯と翌朝の食事の準備をするという毎日を私が代わりを出来るようになるまで頑張っていた。

衣食住の衣食は母親の働いた稼ぎで賄われていたと思う。


父親は家庭というものに対してきっと何か恨みがあるに違いない。

家では笑ったら損だと思っているらしくずっと不機嫌。

私のことはもちろん、母親のことも蔑ろにしていた。

そんな父親でも唯一、自分の妹だけは大切にしている。


叔母は私のことをとても可愛がってくれた。

でもそんな叔母は私がまだ幼い時に高校を卒業すると家を出て行ってしまった。

東京で働くことになったから。

家は祖父と両親と私の4人になってしまった。

薄っすら記憶しているのは、駅の改札口で『行かないで』と泣いている自分。

電車の中で発車するまで叔母が私を見て口に手を当てながら涙を流している姿。


その後から母親は私にしつけと称して家事を手伝わせ、与えた仕事をやってないとヒステリックになって体罰をするようになった。 

その頃からの記憶はしっかりと心に刻まれて残っている。


「なんでやってないの?」

当時はまだ細くて小さい体で母親にちょっと頭を叩かれただけで吹っ飛んで転んだ。

母親は私が廊下で丸まって震えていると蹴って、さらに怒鳴った。

『罵詈雑言』という漢字はその時の母親の声と同化している。

私には何のことかわからないたくさんの罵りを浴びてきた。

どこを何回蹴られていたのか覚えていない。

毎回痛みよりも恐怖で五感が麻痺した。

当時を思い出すのは痛みではなく、絶望感。


いつしか命令された家事を終わらせていても蹴られるようになっていた。

「足音がうるさい!」

そんな理由ですぐに手足が飛んできた。

その頃の母親はヒステリックになると止まらなかったし、どこで誰がいても子供を叩く行為を隠さずお構いなしだったので酷いことをしている自覚さえ無かったかもしれない。

それを普段は私に無関心な父親が、たまにそばまで来て見ていた。


「いいぞ、もっとやれ」

囃し立てると、母親のスイッチが切り替わる。

母親には私を蹴る理由があっても父親に言われてやる道理はなかったようだ。

「アンタはそれでも父親?両親揃っていたら、どちらかが怒ってもどちらかが庇うってのが親の務めじゃないの?」

母親の鬱憤が父親にシフトしている間に私は玄関から出て逃げ出した。

裸足のまま、それが冬でも。

その一瞬だけ、父親に感謝した。

この夫婦の喧嘩は顔を合わせれば始まる、毎日のように。


原因はたくさんあったと思うけど、間違いなく私はその一因だった。

みんなで食べる夕食が1日の中で1番緊迫して恐ろしい時間だった。

私の箸の上げ下げ、食べ方、動き方まで罵倒されて母親に箸で手を叩かれた。

それも躾だから私だけ食べている間は正座だった。

祖父にも父親にも、私が見えてないみたいで母親がどんなに怒鳴っていても平気な様子でご飯を食べていた。

母親が私に怒りを向けているうちは自分達には矛先が向かないので安心していたのだろう。


躾がエスカレートするうちに私はあることに気がついた。

もしかして蹴られる回数を減らせるかもしれないと雑巾掛けを一生懸命して廊下の床をツルツルに磨いた。

どうせ蹴られるんだ。

母親は私を蹴り始めるとどこにいても玄関までボールを運んでゴールするように蹴り続ける。

案の定、母親のひと蹴りで私の身体は勢い良く滑って玄関に近づいていく。

玄関に押し出されると裸足のまま飛び出して私はちゃっかり隣の家に避難した。

そこでは『ジンベイ』というお惣菜屋さんのお婆ちゃんが私を庇ってくれた。


「ま〜たかい、リナちゃんは大変だねぇ〜」

クセのある話し方をする人で、声が大きくておおらかでホッとする人だった。

「アンタのお母ちゃんは、ほーんとヒステリイだなぁ〜、しょうがないよ、まーったくさ、ここら辺では一等賞のヒステリイだねえー」

そう言いながら、そそくさと私の靴を取りに行ってくれた。


ここのお惣菜のコロッケはお芋がほっこり甘くて美味しかった。

母親が休みの日の朝からヒステリーを起こした時、追い出された私をジンベイさんが呼んでくれて朝ごはんを食べさせてくれた。

窓から朝陽が差し込むテーブルの上、出来立てのご飯やお味噌汁から立ち昇る湯気が陽射しの中で絡むように揺らめくのを見た。

眩しくて「綺麗だね」と言うと「そこは美味しそう〜って言うもんだよ〜」と豪快に「アーハッハ!」と笑った。


ジンベイさんは私が家を離れている間に認知症になり施設に入り、亡くなっていた。

私はここに戻るまで亡くなったことを知らず、お別れが出来なかったのが心残り。

人の目を気にしないで、1度も叱られないまま食べたご飯は初めてで美味しかった。


10歳過ぎて私の背が伸び始めて身体が少しずつ成長すると叩かれても私は転ばなくなり、母親の脚力では蹴って玄関まで私を移動させて落とすことが出来なくなった。

ヒステリーの勢いに任せた力の限界だった。

母親のそういう体罰はなくなった代わりに言葉での攻撃が酷くなって私の顔を見ただけで先に呼吸が荒くなって態度で怒りを表していた。 

見たことはないけど、手負の野生動物ってそういう感じなのかな?


その頃よく言われてたのが「アンタは本当に父親の妹にそっくりだよ!」と睨み「なんでよりによって」と吐き捨てた。 

母親のそれは皮肉だと思うけど私はその言葉が内心嬉しかった。

嫌な言い方だったとしても叔母は綺麗な人で憧れていたから、その人に少しでも似ているということが子供心にも少し褒められた気分だった。

父親と叔母は全然似てないのも私には重要な要素。

だけど母親の言い分は辛辣だった。

「その顔!こっちを睨むその目つき!意地の悪かった性格までそっくりだ!」

家事をしても殴られて蹴られて、私はどうしたら母親に優しく出来ただろう?


子供の頃から好きな家族は叔母だけだった。

叔母が帰省するたびに私は共同浴場に一緒に行くのを楽しみにしていた。

家では祖父と父親がいて話が出来ないけどお風呂では唯一叔母とたくさん話せる時間があったから。  

「叔母ちゃんの目はとても綺麗だね」

「わたしはリナちゃんくらいの頃から顔のマッサージしてたわよ」

「えーどうやるの?」

「顔を洗う時にはね、ただ洗うだけじゃなくてお鼻から外側に指でソッと肌を撫でるのよ、特に瞼の上は綺麗な二重になるように〜っておまじないして瞼の皮を外に流すようにしてやるのよ」

「私もやってみる!」


腫れぼったい奥二重がパッチリ二重になったのは叔母のおかげだと思う。

叔母に似ているというのは、そういうことを含む喜びだった。

私はパッチリ二重になりたかったわけじゃなく…

ずっと好きで憧れている叔母に似ているということが私の自信になっていた。

料理も母親ではなく叔母に教わったカレーの作り方が今も私の定番。


叔母が帰省しなくなり突然結婚したことを事後報告したのはいつだったかな?

祖父も父親も慌てて騒ぎ立てたようだけど相手側主導で結婚式まで済ませていて、何よりも叔母もそれを望んでいたと知ると何もなかったように黙ってしまった。

のちに真っ赤な着物に純白な鶴の刺繍の花嫁衣装を着た艶やかな叔母の写真が数枚送られてきた。


私が中学3年になった春、その叔母が離縁された。 

相手方から叔母の頭がおかしくなったという電話が突然きて、その翌日に1人で電車で帰されて来た。

同日の夜中にいつのまにか叔母の荷物が玄関前に放置されていた。

音で気がついて外に出ると車が去るのが見えて、その時が初めて叔母の夫を見た最後でもあった。

叔母と住めるようになったら母親の暴言を聞くことはなくなった。


戻ってきた叔母は顔から表情が無くなり私が家にいるとずっとそばに張り付いた。 

この家で小さい頃から可愛がってくれたのは叔母だけだったから戻ってきてくれたことは理由がなんであれ、単純に嬉しかった。

でも、すぐ異変に気がついた。

「リナちゃん、わたしはね、20歳のまま時間が止まってるの」

叔母はもう30に近かったけど若く見えるので「うん」と返事だけしていた。

「20歳なの、20歳でそれ以上年を取らない人間なのよ」

 

叔母の異変はそれだけではなかった。

前後の脈絡なく突然怒り叫ぶと自分を傷つけた。

「ラジオを止めなさい!わたしの悪口言うのはやめて!」

何もない空間で叫び出すと髪を引っ張り耳を手のひらの中に握って千切ろうとした。

同じ場所の髪を引きちぎるので頭皮がまばらに赤く、髪は薄くなっていた。


叔母は帰って来た時から話し方にも抑揚がなくなっていた。

「しばらくぶりだけど元気だったか?」

「ええ、おかげさまで」

父親の下手な話しかけに無表情で棒読みの敬語で返事をするので、その後の会話が続かない。

祖父も父親もチラチラと遠まわしに様子を見ているだけで何も言わずにいたが元々自分のことしか考えてないので役立たずのまま早々に叔母を放置した。


叔母は人が自分を見る目つきには敏感に反応した。

帰ってきた最初だけ父親は叔母を捕まえて「病院へ行こう」と言った。

「わたしはキチガイじゃない!キチガイじゃない!絶対病院へなんか行くものか!」

その勢いは母親のヒステリックな態度より鬼気迫るものだった。


結婚する前、帰省してた頃までの叔母は勝ち気で少しわがままだったけど明るくてお喋りで笑顔が素敵な人だった。

まだ小さい頃にカレーライスの作り方を叔母が教えてくれて、それが母親が作るものより美味しかった。

離婚して戻ってきた時はまた明るい日々が始まるかな、と少し期待していた。

でも叔母は変なことを言ったりたまに暴れる以外はすっかり無口になってしまった。

ほぼ1日中テレビの前に座っていて瞬きをいつしているのかわからないくらい静かで動かない人になってしまった。

そのテレビに電源が入っていてもいなくても、同じ様子で黙って画面を見ていた。


すっかり雰囲気が変わってしまった叔母をさすがに心配した父親は叔母の様子が好調に見えると恐る恐る病院へ行ってみないかと誘う。

その途端に叔母は父親を下から睨み上げ、身体を震わせて、誰もまだ何もしてなくても一心不乱に柱にしがみついて抵抗の叫び声をあげた。

溺愛する妹のことになると近所の体裁まで気にする父親は戸惑い、その勢いと激しさに迫力負けして病院へ連れて行くのを遂に諦めた。


ある深夜、寝ていた私は人の気配で目を覚ました。

叔母が枕元に正座して私を覗き込んでいた。

「リナちゃん」

目を開けた私の瞳には天井ではなくて叔母の顔が真正面から見つめ返していた。


「あなたも、わたしをキチガイだと思ってバカにしているんでしょう」

深夜と同化した静かで重い口調で叔母はキッパリと言った。

私はなぜか心を見透かされたような気になって慌てて首を振った。

一瞬、何も映ってない画面のテレビをずっと見ている姿が浮かんだ。

見透かされた感じとはいえ、私は叔母がどうしたのか戸惑ってはいたけど叔母が言うような感じではなかった。

だけど…

叔母は私を怒っている?

一気に目が覚めてしまった。


「わかっているのよ、そんなことぐらい…でもね、わたしはキチガイじゃないのよ」

「私はそんなこと思ってないよ、確かに前とは少し雰囲気が変わった感じはしているけど、叔母ちゃんは今もずっと大好きな叔母ちゃんだよ」

「そう、いいわ、信じましょう」

叔母は座っている自分の左側の腰の辺りに流れるように視線を向けた。


「この猫はわたしが昔可愛がっていた子なのよ、この子がリナちゃんは嘘をついてないって教えてくれたから信じるわ」

その言葉につられて私は叔母の傍らに目を凝らして猫を探した。

叔母は愛おしげな目線で猫の存在を示すけど私には何も見えなかった。


「リナちゃんには教えてあげるわね」

叔母は夜中なのに冴え冴えとした表情で、この家に戻ってきて初めて饒舌に語った。

「わたしはね、死んだら今までわたしを虐めたりバカにした人達に仕返しするの、呪ってやろうと思うのよ、だからねリナちゃん」

改めて叔母は私を瞬きもせずに見つめた。

「リナちゃんもバカにしたら死んだ後で呪うわよ」


叔母は病院にはいかないので病名がない。

でも何かがおかしいことはわかっている。

その夜以来、叔母への気持ちが自分の中で変わり始めた。

いつか叔母が死んだら本当に呪われるかもしれないと恐れた。

私が高校生になると叔母はもっと様子が酷くなっていった。

でも外には出なかったので近所の人達には気づかれなかった。

祖父が亡くなるまでは。


「病まずに亡くなって、まぁ良かったじゃない」

「苦しまずに逝ったんだねぇ」

80歳になっても女と酒が好きでまだまだ元気な老人だったのに朝になっても起きてこなくて、祖父は前触れもなく眠ったまま亡くなっていた。

初めて身内が亡くなったというのに私には悲しみや寂しさが心に持てなかった。

きっと私も人としておかしいのかもしれない。


祖父の思い出なんて何もない。

だけど、祖父と父親との会話で覚えていることがある。

それは叔母が戻ってきて少し経った頃の話。

「ルリコは俺の母ちゃんにそっくりだなぁ」

「あぁ、爺さんが浮気したのがバレた時に熱湯の入ったヤカン持って追いかけて来たっていう気の強さだったんだろ?ルリコが似てるってことは向こうで旦那に浮気でもされて狂ったっていうのか?」


「いや、そんなんじゃない、あの無表情な感じが思い出すんだよ、戦後の頃にな、俺はまだ子供でいつも腹が減っていたが親戚がでっかい鯉をくれたんだ、まだ生きていた鯉を母ちゃんが受け取ってな…母ちゃんは体が弱い人だったから親戚が貴重な鯉を持ってきて滋養をつけなさいって言ったら母ちゃんは包丁を持って来てその場で鯉を裂いて生き血を啜ったんだ、包丁を投げ捨てて両手で暴れる鯉を鷲掴みにして持ち上げてさ、無表情で流れ落ちる血を口で受けていたんだ、怖かったよ」


「鷲掴みってよぉ、全然ひ弱なイメージねえよ!血啜るなんてすげえな」

「着物を着ていたから一滴でもこぼさないように残さず搾り取って見事だったが、怖い場面だよなぁ、アレを思い出してしまうんだ、ルリコ見てると」

祖父は語尾を震わせて小さく呟いていた。

私は見たことのない曾祖母の姿を思い浮かべてみた。

着物を着て両手に鯉を持ち高く掲げて落ちてくる生き血を仁王立ちのまま喉を伸ばして受け止めている、叔母の無表情と同じ顔を。 

なんとなく女性の業を、この家系の女の持つ不気味な強さを感じた。


思い出ではないけど祖父が老人会を追い出されたことを覚えている。

酒癖が悪くて老人会の旅行で老婆にいかがわしいことをしたという。

それからの祖父は外で酔い、苦情が来ると夜中でも母親が迎えに行った。

私も何度か手伝わされた。

時は家には帰らないと悪態つく祖父を、しがみついた電柱から引き剥がすのに苦労したことは思い出に入れていいだろうか?


いろんな飲食店にも通っていたのできっとたくさんの人に迷惑かけていたと思う。

でもなぜかたくさんの人が悲しんで通夜にはリアちゃんのママも来てくれてた。

つまり、祖父の死は大勢の人に叔母を目撃されてしまった。

親しくしていた近所の人達が来ていても叔母は誰とも話さず祖父の足元に座り布団の角をめくっては戻してめくっては戻して、を繰り返し「ふふふ」と笑っていた。


「ちょっとリナちゃん〜!ルリコちゃんの様子が変だと思わないかい〜?」

ジンベイさんが私の服を引っ張って小声で聞いてきた。

ジンベイさんの小声は大きい。

周りの人達も叔母を見て戸惑っていた。


「叔母ちゃん何が可笑しいの?」

私も怪訝に思って聞くと、こう答えた。

「だって、変じゃないの、死んでいるのに足があるのよ」

そしてスピードを上げて掛け布団をもっとパタパタして祖父の足を見て笑っていた。

















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