蛋白石色に染まる

一葉 小沙雨

蛋白石色に染まる

 きみがいつも、きらきらきらきらと光るから、わたしはいつも眇めてそれを見つめ返さなければならなかった。


「――……白い蛋白石オパールが好きなのかい?」


 ふと、しばらく静かにしていたきみが、淡いくちびる動かしてわたしに問うた。

 異様までに白い部屋に閉じ込められたきみは、この病院で唯一、私との面会を許されていた。

 それこそ当初は許されてなんかいなかったのだけど。

 きみがあまりにも駄々を捏ねるものだから、先生も仕方なく許してくださったのだ。


(最後には先生に、「命の保証はできない」と、言われてしまったけれど……)


 それできみが落ちつくのなら、わたしはいくらでもこの真っ白な部屋を訪れよう。


 窓の外から、百合の花の強い香りが風に乗って運ばれてくる。

 わたしの膝の上に乗せられた原稿用紙の束が、風に煽られてぱらぱらと捲られた。

 百合の香りに触発でもされたかのように、きみの瞳がきらりと光る。


「白くきれいな蛋白石オパールの表現が、よく君の物語に出てくるね」


ちょっとだけぼんやりとしてしまったわたしは、きみの声をきっかけに我に返った。


「ええ……、そうね、わたしがこの世で一番好きな宝石かもしれないわ」


 衒いなくわたしがそう答えると、きみは何を思ったのかわたしの方を静かに見つめ返した。

 あまりにも真っ直ぐと見つめられて、その瞳の光りのつよさにわたしは思わず息を飲んだ。


 その瞳は何も映していないというのに、この世界の様々な白を反射しているかのような濁色で。


 ……まるで磨き抜かれた蛋白石オパールのようだった。



「――……そうかい。それは、ぼくも見てみたいものだ」


 きみはそう言って、少しだけ寂しそうにして目を細めて笑った。

 百合の花の芳香が、再びわたしの鼻腔をくすぐる。

 わたしは百合の香りに撫でられた原稿用紙の頁をもう一度捲りはじめる。


 そうしてわたしは、わたしの顔も知らないきみへと物語を語る。

 きみだけのためにつくった物語を、いつかわたしの命が蛋白石オパール色に染まってしまう、その時まで。



〔了〕

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蛋白石色に染まる 一葉 小沙雨 @kosameichiyou

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