第27話「ウラオモテ」

「ま、まさか、元勇者パーティーの魔法剣士、ミリア・ラグイージ様か……!?」

「えっ……?」


 大袈裟に驚く国王により、アリシアちゃんが戸惑ったように私を見てくる。


 あ~、ややこしいことになった。

 まだルナーラ姫以外には、話していなかったのに。


「ご存じだったんですね。その、ミリア・ラグイージです」


 あの偉そうだった国王が低姿勢になったので、私は堂々と答える。

 王族だし、ルナーラ姫みたいに何か知ってるんだろう。


「お姉ちゃんが、元勇者パーティー……?」


 同じく元勇者パーティーだったアリシアちゃんは、首を傾げながら私を見つめている。

 自分と同じパーティーにいた記憶がないし、あのクズ以外勇者と呼ばれている人を知らないだろうから、この反応も仕方がない。


 信じてもらえるかはわからないけど、アリシアちゃんやミルクちゃんたちには話しておこう。


「そうか、今年が千年目……! おい、ミリア様を早くこちらにお連れしろ!」


「「は、はい……!」」


 エルフの騎士らしき女性たちが、国王の命令に戸惑いながらも私に駆け寄ってくる。


 急な態度の変化で、何が何やらわかっていないようだ。

 当然、観客たちもわかっておらず、戸惑いの声が聞こえてくる。


「こちらにどうぞ……」

「ご丁寧に、ありがとうございます。よっと」


 迎えが来たので、私は気絶しているローテリさんをお姫様抱っこで持ち上げた。


「か、彼女は私たちが運びますので……!」

「大丈夫です、軽いので」


「「か、軽い……?」」


 鎧を着ている女性を軽々しく持ち上げる私を、まるで化けものかのように見てくる騎士二人。

 既に《インクリースマッスル》を発動しているんだけど、彼女たちにはわからないんだろう。


 そして、王室へと戻ると――。


「この度は、誠に申し訳ございませんでした……!」


 ヒューマンを見下している国王が、あろうことか土下座をしてきた。

 おかげで、アリシアちゃんや姫様、エルフの騎士たちが戸惑いながら私と国王を交互に見ている。


「随分と、態度の変化が大きいですね?」

「まさか、ミリア様がお越しになられるとは思っておらず……! 大変なご無礼を働き、本当に申し訳ございません……!」


 感覚でわかる。

 今私は、国王に恐れられているようだ。

 いったいどういうふうに、私のことは伝わっているんだろうか。


「私のことをご存じなようですが、どこでお聞きになられたのでしょうか?」


「四代前の王妃――リオンより、貴方様のことは王族の中で語り継がれておりました……! お越しになられた際には、丁重にもてなすように、とお伺いしておりましたのに、数々のご無礼をお許しください……!」


 へぇ、リオンさんも、エルフの王子と結婚したんだ。

 まったく、みんな王族と結婚していい暮らしをしていたのに、私だけ眠りにつくなんて酷いものだよ。


 ――と、冗談はさておき……おかしいな?

 千年前にも、クズは沢山見てきた。

 この国王は、先祖から言われただけでここまで態度を変えるエルフじゃない。

 きっと、裏があるはず。


「よ、四代前……? えっ、でもお姉ちゃんって、私と歳があまり変わらないような……?」


 相変わらず、アリシアちゃんが頭にハテナマークを浮かべている。

 混乱させすぎて、頭から煙が出そうだ。


「後で、ちゃんと話してあげるからね」


 私はニコッとアリシアちゃんに笑みを向け、頭を優しく撫でる。

 そして、国王へと向き直った。


「リオンさんからどう言い伝えられているかは知りませんが、私の滞在は認めて頂けるのですね?」

「もちろんでございます……! ミリア様とお連れの御方のお部屋は、お城に用意致します……!」

「いえ、ここには《テレポート》で来れますので、大丈夫です。お城に泊めて頂くのは、恐れ多く……」


 というのは、方便だ。

 実際は、何を考えているかわからない国王から、距離を取っておく狙いだった。

 行き来はすぐできるのだし、困ることはない。


「それもそうでしたな……! いやぁ、本当に便利なスキルで羨ましいです……! 是非、我々エルフにもご教授頂ければと……!」


 なんて面の皮が厚いのか。

 あれだけヒューマンを見下していて、よく言える。


「今回の魔王討伐を機に、また千年前のようにヒューマンとエルフが手を取り合えるようでしたら、ご協力は惜しみません」


 ルナーラ姫との話し合いにもよるけど、こう答えておくのが無難だろう。

 種族のためには、敵対するより友好的な関係でいたほうがいい。


 ――もちろん、うみは排除してからだけど。


「寛大なお言葉、痛み入ります……! 魔王討伐には我が衛兵たちを、存分にお使いください……!」

「ありがとうございます、お言葉に甘えさせて頂きますね」


 魔王に関する情報が全然ないのだし、戦力がいるに越したことはない。

 とりあえず、魔王の情報を教えてもらったり、対策を取らないと。


 その後は、魔王の情報を教えてもらうため、別の部屋に案内されたのだけど――

「まずい……! 奴だけは、どんな手を使ってでも殺さなければ……! ヒューマンに、この国が支配されてしまう……!」

 ――何やら、やっぱり国王は企んでいそうだった。


 だって、ピリピリとした殺気を感じるから。

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