第23話「門前払いと亡命」
「――ねぇ、姫様って、友好関係にある国って言ったよね?」
「はい、そうおっしゃられていました」
私が尋ねると、隣に立っているアリシアちゃんがコクリッと頷く。
「その国から、魔王討伐の要請があったって言ったよね?」
「はい、そうおっしゃられていました」
再度尋ねると、同じようにアリシアちゃんは頷く。
うん、やっぱり私の勘違いや、思い込みじゃないらしい。
だったら――。
「なんで、入れてもらえないのぉおおおおお!?」
馬車に長く揺らされたり、野宿をしたりしながら、やっとエフティヒアの国境に着いたと思った私たちは、なぜか門前払いを喰らっていた。
そのせいで、納得がいかない私は大声を上げる。
ちゃんと、姫様からの
「そもそも、ここエルフの国じゃん! あの国境の門番も、エルフじゃん!」
名前が変わっているから気付かなかった。
この先は、間違いなくエルフが住んでいる巨大な森がある。
エルフと対立してるって話なのだから、ヒューマンの私たちが入れてもらえるはずがない。
「てっきり、知っていらっしゃるものかと……」
アリシアちゃんは申し訳なさそうに私を見てくる。
思い返せば、姫様から国の名前を言われた時、この子は驚いていた。
その国が、エルフの国だったからだろう。
だけど、隣にいた私が特に気にしなかったことで、言い出せなかったようだ。
他国の王族間とのやり取りなんて国民にはわからないし、私がツッコミを入れない時点で、『何か問題ない理由がある』と判断したんだと思う。
あ~もう、知ってたらこなかったのに……。
「「…………」」
私が頭を抱えていると、ミルクちゃんとクルミちゃんが顔を見合わせていた。
何か言いたそうだけど……。
そんな彼女たちを見ていて、ふと思いつく。
そっか……エルフの国なら、この子たちに――――――いや、やめとこ……。
ある案が浮かんだ私だったけど、状況がわかっていない以上下手なことはできない。
ここで何かとんでもない過ちを犯して、彼女たちを危険に晒すのは絶対嫌だ。
とりあえず、他にも手段はあるのだから、それを試してみたほうがいい。
最悪、直接中に乗り込むことだってできる。
――まぁ、敵を増やしたくないし、そんなことしたら姫様が激怒しそうなので、やらないんだけど。
「いったん、お城に戻ろっか」
「やはり、そうなりますよね……」
アリシアちゃんは辛そうに俯く。
ここに来るだけで、結構な日数かかってしまった。
これから同じ時間をかけて帰るとなると、そりゃあ頭が痛くなるのも仕方がない。
しかも、またこないといけない可能性があるのだし。
でも、私には――《テレポート》がある。
「大丈夫、すぐ帰れるから」
「えっ……?」
「ミルクちゃん、クルミちゃん、こっちにおいで」
私は戸惑うアリシアちゃんをよそに、少し距離を取っていたミルクちゃんたちへ手招きする。
二人は、アリシアちゃんと同じように戸惑いながら近付いてきたけど、私は説明するよりも実際にやったほうが早いと思い、三人を連れて馬車のところに行った。
そして――。
「じゃあ、いくよ――《テレポート》」
一瞬にして、お城の広場に戻った。
「「「……っ! ……っ! ……っ!」」」
突然周りの景色が変わり、見覚えのあるお城へと戻ったせいで、ミルクちゃんたちは言葉にならない声を上げてしまった。
必死に周りを見ながら何か言おうと口を動かしているけど、驚きすぎて声が出ていない。
やっぱり、先に説明してあげたほうがよかったかな……?
「これは移動スキルだよ。一度行ったことがある場所に、飛ぶことができるの」
「ミリア様、やっぱり女神様なのでは!? ヒューマンじゃありませんよね!?」
笑顔でアリシアちゃんたちに説明すると、ツッコまれてしまった。
人智を超えた存在だと思われたみたい。
「あはは、これくらい、アリシアちゃんたちも訓練すれば覚えられるよ」
今の魔力量だと無理だけど、鍛えれば使えるくらいにはなるだろう。
魔法使いや魔法剣士になれるくらいの魔力量がない場合は、あまりオススメしないけど。
「そうは思えません……」
アリシアちゃんがそう呟くと、ミルクちゃんとクルミちゃんが後ろで一生懸命首を縦に振る。
まぁ、見たこともないスキルを目にしたら、こんなものなのかもしれない。
「大丈夫大丈夫、それよりもルナーラ姫のところに行こ」
いったいどういうつもりなのか、ちゃんと聞かないといけない。
場合によっては、彼女を信じられなくなるようなことだ。
「――やはり、お戻りになられましたか」
ルナーラ姫のもとを訪れると、彼女は私が戻ってくることまで見越していたようだ。
「エフティヒアへの入国が認められませんでした。魔王討伐の要請により、向かったはずなのですが……」
私は言葉を選びながら、事態を姫様へと伝える。
すると、姫様は仕方なさそうに溜息を吐いた。
「予想はしておりましたが、やはり難しいようですね」
「ご説明、頂けますか?」
姫様の様子的に、絶対何か知っている。
もともと話を私に持ってきたのは姫様なのだし、説明をしてもらわないと納得がいかない。
「二人きりにして頂けますか?」
ルナーラ姫は、私の後ろにいたアリシアちゃんたちを見る。
あまり他人には聞かれたくない話なんだろう。
三人は戸惑っていたけど、シルヴィアンさんが部屋の外へと送り出した。
「お手数をおかけしてしまったこと、お詫びいたします」
望み通り二人きりになると、姫様は深々と頭を下げてきた。
いったいどういうことだろう……?
「頭を上げてください。事情がおありなんですよね?」
「実は、私に要請をしてこられたのは、エフティヒアの姫なのです。彼女は心優しく、種族間において差別的意識もありません。しかし――彼女の父親である国王は、私たちヒューマンを敵視しています」
なるほど、話が読めた。
おそらく邪魔をしているのは、その国王なのだろう。
「エフティヒアの姫は、国王をなんとか説得してみるとおっしゃられていたのですが――どうやら、説得はかなわなかったようですね」
門前払いを喰らっているということは、そういうことなんだろう。
厄介だなぁ……。
「説得はまだ続いておられるのでしょうか?」
「私のほうに、駄目だったという連絡は来ておりませんので、おそらくは」
多分、待ってても許可は下りないだろうなぁ……。
「一つ、手がないわけではありませんが……。あの子たちなら……」
あの子たち?
これって、もしかして――。
「ミルクちゃんたちのことですか?」
「――っ!?」
ルナーラ姫は、驚いたように私の顔を見てくる。
どうやら、当たりだったようだ。
「お気付きに、なられていたのですね……」
「二人は、エルフですよね? スキルで耳を隠していますが、気配でわかりました」
初めて会った時から、エルフだってことには気が付いていた。
だけど、ヒューマンになりきってまで、騎士団にいないといけない何かしらの理由があることも同時にわかったので、今まで触れないようにしていただけだ。
「気配、ですか……相変わらず、ずるいくらいに能力が長けていますね……」
ルナーラ姫は仕方なさそうに笑みを浮かべる。
確かに、気配で種族がわかる人なんて、千年前でもそうはいなかった。
私は、気配を察知する訓練でいつも通りお姉様にしごかれたことによって、いつの間にか身に着けていたけど。
「彼女たちは亡命してきた、エフティヒアの元姫です。私の友人の、妹
「…………」
うん、聞かなかったらよかった。
率直に、そう思ってしまう。
だって、絶対面倒ごとだもん。
「いろいろと、ツッコミたいことがあるのですが……」
「言わんとすることはわかります。ですが、エフティヒアの姫はあの子たちにお会いしたがっておりまして、あの子たちも姉
はっは~ん、なるほどね。
もしあの子たちの正体がバレてやばいことになっても、私が用心棒代わりになるって考えだったのか。
さすがに国王の前で、あの子たちとお姉さんを会わせたりする予定はなかっただろうけど。
ほんとこのお姫様は、いったいどれだけ裏があるのよ……。
命がいくつあっても、足りないんですけど?
「ミルクちゃんたちの正体をばらしてしまえば、入国させてもらえる可能性があるということですね。しかし、その代償にあの子たちは……」
「魔王を討伐になれば、彼女たちが亡命したことを許される可能性が――無きにしも非ず、です」
可能性は確かになくはないかもしれない。
国の脅威を排除してあげるわけだから、当然その見返りはあるはず。
だけど――姫が亡命するくらいにやばいところだと、多分無理じゃないかな……?
だから姫様も、渋っていたんだろうし。
「国王ってそんなにやばいんですか?」
「次期国王を、娘たちの殺し合いで決めようとされる御方なので……」
何それ、超危険人物じゃん!?
通りであの子たちが亡命してくるわけだよ……!
「そんな国、救わないと駄目なのですか……?」
「エフティヒアの国民や姫には、罪がございませんので……」
まぁ、そう答えられるとは思ったけど……。
「一つ、私にも考えがあります。それを試してみても駄目であれば――また、相談させてください」
正直、王族の問題とか首を突っ込みたくないけど――そんなやばそうな王様、放置しておけない。
ミルクちゃんたちが、再び危険に晒される可能性だってあるんだから。
「どこへお行きになられるのですか?」
部屋を出ようとする私に対し、ルナーラ姫は尋ねてくる。
だから私は――
「魔王城から連れて帰った子たちのもとです」
――と、笑みを返しておいた。
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