第22話「弱体化の真実」

「「「――えっ、魔力って増やせるんですか!?」」」


 ルナーラ姫のお願いにより、《エフティヒア》という国を馬車で目指している中、私の話を聞いていたミルクちゃんたち三人が声を揃えて驚いていた。

 こんなにもいい反応をしてくれるのは、話していて気持ちがいい。


「やっぱり知らなかったんだ?」


 勇者ですら魔力量が少なかったみたいなので、そんな気はしてたけど。


「初めて聞きましたよ、そんなこと……!」

「体が成長するに連れて量は増えますが、成長しきってからも量を増やせるなんて初耳です……!」

「魔力は生まれつき決まるものだって、私は聞いてました……!」


 クルミちゃん、ミルクちゃん、アリシアちゃんは、口々に言ってくるけど、みんな聞いたことはないようだ。

 まぁそれも仕方がないと思う。


 お城にいた数日の間にルナーラ姫から教えてもらったけど、現在戦闘レベルが格段に下がっている原因は、とんでもないものだった。


 というのも、千年前に私たちが魔王を討伐した後、世界中の魔物の討伐が行われたらしい。

 当然、すぐに終わることはなかったけど――五百年かけて魔物の殲滅を終えると、あろうことか戦闘技術とそれに付随するものを放棄してしまったとのこと。


 それも、世界中の国全てにおいて。


 争いのない世界を作ろうということで、国のトップたちが話し合って決めたそうだけど――話を聞いた私は、愚かすぎると思った。

 魔物を殲滅したといっても、身を隠して逃げ切った魔物がいる可能性は十分考えられる。

 それなのに、戦闘技術などの資料だけ残して、本当に他は全て破棄してしまったようだ。

 

 おかげで二百年ほど経つと、隠れて生き残った魔物がジワジワと数を増やし、極一部が進化を遂げてしまったらしい。


 それだけでは終わらず……戦闘技術などの資料を、抜け駆けする国が出てこないように一ヵ所――当時の冒険者ギルドに集めていたそうなのだけど、あろうことかそこを進化した魔物たちに襲われたことで、資料すら失ってしまったとのこと。


 そのせいで、反撃の手段をロクに持ち合わせい今のような状況になり、そこまで強くなかった魔物たちが脅威になったようだ。


 私がその場にいたら、発案者をぶん殴ってたかもしれない。


 ――まぁ、お姉様の子孫が発案者だったらしいから、さすがに無理だけど。

 魔王を討伐した勇者の子孫であり、力も強かったことで、誰も反対ができなかったらしい。


 そのシワ寄せが、今来てしまっていた。

 放っておけば、魔物たちはドンドンと進化を遂げてしまい、いずれは全種族が滅ぼされるだろう。


 とんでもない時代に目を覚ましてしまったよ、ほんと……。


「生まれつきっていうのは嘘ではないし、正直上限は人それぞれ違うよ。でもね、その上限に達するまでは増やすことができるの」


 私は現実から目を逸らし、目の前にいるかわいい子たちへと逃げる。

 現実と向き合っても、頭が痛いだけだから。


「「「どうやってですか!?」」」


 食いつきがいい。

 双子じゃなくて三つ子だったかな、と思うほどに息がピッタリだ。


「限界まで魔力を使い切るの。毎日そうやって繰り返し魔力を使い切っていくことで、次第に魔力量が増えていくんだよ」


 簡単に言えば、筋トレをするような要領だろう。

 筋トレは、体に負荷をかけて筋線維の一部を破断させることで、修復の際に破断前より少し太くなる。

 そうやって筋肉をつけていくのと同じで、魔力も使いきれば体が魔力量を増やそうとしてくれるのだ。

 もちろん、人によって一度に増える量は違うし、ある程度増えるとそれ以降は中々増えなくもなる。


 最終的には、まったく増えなくなり――それが、その人の限界だと言われていた。


「えっ、魔力って、使い切ったら死んじゃうんじゃないですか!?」

「私も、そう教わってました……!」


 クルミちゃんが驚き、アリシアちゃんが同意するように頷く。

 ミルクちゃんも、コクコクと一生懸命首を縦に振っていた。


 なるほど、だから誰も気づかなかったんだ……。


「なんでそう言われるようになったのかわからないけど、死んだりなんてしないよ。ただ、魔力が回復するまでは、ろくに動けなくなるけどね」


 魔力は力の源だから、それを使い切るということは体をほとんど動かせなくなる。

 魔力量を増やす訓練をする際には、信用できる人間が傍にいる必要があった。


「大丈夫、なのでしょうか……?」

「私は、そうやって鍛えてきたよ」


 ミルクちゃんが不安そうに聞いてきたので、安心するよう笑顔を返した。

 少なくとも、私の時代は冒険者だったり、冒険者を目指したりしている人は、そうやって魔力量を増やしていた。

 今は技術を失っただけで、体の構造は変わっていないだろうから、問題はないはず。


「そうだったのですね……。もっと早く知りたかったです……」


 同じ冒険者であるアリシアちゃんは、特に思うところがあるだろう。

 もっと早く知っていれば、冒険が楽だったのに……とでも思っているのかもしれない。


 そういえば……勇者の実力はこの前の決闘である程度わかったけど、アリシアちゃんの力量は知らない。


 実際は、どれくらいなんだろう?

 旅に出る前に、把握しておけばよかった。


「あの、ミリア様……」


 アリシアちゃんを見ていると、ミルクちゃんが話しかけてきた。


「ん、何?」

「その……詠唱なしに、どうやってスキルを使っておられるのですか……?」

「あっ、私もそれ知りたかったです……!」

「わ、私も……!」


 ミルクちゃんの言葉に、クルミちゃんとアリシアちゃんが乗っかってくる。

 詠唱なんていう工程、省けるならみんな省きたいだろう。


「むしろ、どうして詠唱がいるの……?」


 体の構造が同じである以上、私が詠唱なしでスキルを使えるのに、この子たちに出来ないわけがない。

 何か、誤解があるはずだ。


「詠唱をすることによって、スキル使用時に必要となる魔力量を減らせることと、使用するスキルのイメージを固めやすくしている、と教わっています……」


 使用する魔力量を減らせる?

 そんなわけがない。

 だって、詠唱はただ言葉を発しているだけなのだから。


 もし本当に魔力量を減らせるなどの効果があるなら、魔力が動く気配でわかる。


 そんなものよりもむしろ、言葉とスキルを紐づける効果のほうが大切なんだと思う。

 私たちの時代では、徹底的に訓練してスキル名だけですぐ連想できるようにしていたけど、今では詠唱でイメージを紐づけるようだ。


 ……いや、逆に大変じゃない?


 ――って疑問が浮かんだけど。


 詠唱を覚えるよりも、スキル名とスキルを紐づけるイメージトレーニングをしっかりとやったほうが、楽そうだ。

 だってスキル名だって、スキルを発動する際のイメージを固めるためにあるんだから。


「この冒険が終わったら、詠唱なしでのスキルの使い方を含め、訓練方法をいろいろと教えてあげるね」


 やっぱり、一から鍛え直さないと駄目そうだ。

 でも、かわいい子たちに教えるわけなので、全然苦じゃない。

 早くこの冒険を終わらせて、この子たちの面倒を見ようと思った。


 ――いや、この冒険の目的は、魔王討伐なんだけどね……。

 魔王を討伐してすぐに魔王と戦う冒険者、私が初めてだと思う……。

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