第21話「ヤキモチと宿り木」

「「――私たちも、ご一緒していいのですか……!?」」


 シルヴィアンさんに私の部屋へと連れられてこられたミルクちゃんたちは、話を聞いて目を輝かせた。

 本来の騎士団の仕事から外れることだから、嫌がられる可能性も考えていたけど――杞憂きゆうだったらしい。


「二人とも、魔法スキルの適性がある。ラグイージ様からしっかりと技や知識を教えて頂き、のちに騎士団のメンバーに教えてやってくれ」


 シルヴィアンさんは、ミルクちゃんとクルミちゃんの肩にポンッと手を置く。

 それは、『期待しているぞ』と言っているように見えた。


 まぁ、魔法系のスキルを教えるなら、種族的に・・・・この二人がうってつけだろうね。

 ルナーラ姫はそこまで考えて、この二人を当ててきてそうだ。


「それでは、後のことはお任せ致します」


 ミルクちゃんたちに軽い説明をした後、シルヴィアンさんは頭を下げて去っていった。

 姫様のもとに戻ったんだろう。


「突然のことで申し訳ないけど、一緒に来てくれる?」


 私は、笑顔で二人に尋ねてみる。


「はい、もちろんです……!」

「一緒に冒険をさせて頂けるなんて、とても光栄です……!」


 ミルクちゃんたちは、揃って首を縦に振る。

 やっぱり、とてもいい子たちだ。


「それじゃあ、冒険を共にするメンバーで自己紹介を――って思ったけど、よく考えたらミルクちゃんたちは、アリシアちゃんを知ってるよね?」

「「はい、もちろんです……!」」


 二人の声が綺麗に重なる。

 さすが双子だ。


 アリシアちゃんは元勇者パーティーなので、おそらく冒険者や騎士団で知らない人はほとんどいないだろう。


「やっぱ、そうだよね。じゃあミルクちゃんたちだけ、アリシアちゃんに自己紹介してもらえるかな?」

「「はい……!」」


 促したことで、先に姉のクルミちゃんが自己紹介をし、それに続いてクルミちゃんも自己紹介をした。

 三人とも同い年みたいなので、すぐに仲良くなるだろう。

 私から見たら、三人ともかわいい妹のようだ。


「準備とかあるだろうし、出発は三日後を予定してるよ。大丈夫?」

「「はい、大丈夫です……!」」

「よかった、それじゃあよろしくね」

「「はい、失礼します……!」」


 二人はまだ騎士団としての仕事があるようで、礼儀正しく頭を下げて部屋を出て行った。

 アリシアちゃんはともかく、ミルクちゃんたちのような冒険に不慣れな子を連れていくのは、準備をしっかりとしておかないとまずそう。


 それなのに、ポーションすらまともなのがないのは……ちょっと、頭が痛い。


「……あの子たち、とてもかわいかったですね……」

「ん、そうだね? まるで天使だよ、天使」


 私の隣にくっつくように座っていたアリシアちゃんが話しかけてきたので、私は同意をしておく。

 ただかわいいというだけでなく、髪は白く、瞳も片方白いので、まるでお伽噺ときばなしで出てくる天使のようだ。


 正直言うと、危ない目に遭わないよう騎士団はやめて、街でおとなしく生活をしててほしい。

 だけど、騎士団にいるのは彼女たちなりの理由があるんだと思う。

 だから、余計なことは言えない。


「……私が、一番じゃないんですね……」

「へっ?」


 何かボソッとアリシアちゃんが呟いたのだけど、うまく聞き取れなかった。

 一番がどうとか聞こえた気がするけど……?


「ミリア様にとって、私よりあの子たちのほうが大切ですか……?」


 突然、すがるような目で私を見上げてくるアリシアちゃん。


 おっと、これは……?


「あはは、優劣なんて付けたりしないよ。一緒に冒険する以上、みんな大切な仲間だからね」


 気持ちが弱っているアリシアちゃんは、誰かに支えてもらいたいのかもしれない。

 そんな中で、手を差し伸べた私はいい宿り木なのだろう。

 そこを誰かに取られたくない、という気持ちはわかる。


 むしろ、是非宿り木にして、という感じだった。

 少なくとも、あのクズ勇者を宿り木にするよりは、断然マシだと思う。


「…………」


 アリシアちゃんは無言で、私の服の袖を指で摘まんでくる。

 なんだろう、凄くかわいい。

 小動物のように、庇護欲を掻き立てられる。


「安心して、アリシアちゃんを蔑ろにしたりなんて、絶対にしないから」


 私はそう言って、アリシアちゃんの頭を優しく撫でた。


「えへへ……」


 それがよかったようで、アリシアちゃんは、にへぇとだらしない笑みを浮かべる。


 意外と、甘えっ子なのかもしれない。


 とりあえず――滅茶苦茶、甘やかそうと思った。


「この後は何か予定があるのかな?」

「お兄ちゃんに、少しの間の別れを言いに行くだけですね」


 勇者が辺境に飛ばされるのは覆らない決定事項なので、私と一緒に行く以上は離れ離れになってしまう。

 だから、その挨拶に行くようだ。

 変な揉めごとが起きないように、それには付いて行こう。


「じゃあ、その後はこのお部屋でゆっくりしようよ。街の宿を借りたりしたら、嫌な思いをするでしょ?」

「そ、そんな、恐れ多いですよ……!」

「大丈夫大丈夫、ルナーラ姫には私から言っておくから。ご飯も用意してもらわないといけないし」


 正直、今一人で寝るのは怖い。

 寝ている隙に、ルナーラ姫が部屋に忍び込んでくるかもしれないから。


 普通ならありえないけど、あのお姫様ならやりかねない気がする。

 いい加減、憂さ晴らしに来そうなのだ。


 だけど、アリシアちゃんがいれば安心だと思う。


「怒られませんかね……?」

「大丈夫だよ、そんな心狭い人じゃないから」


 見知らぬ誰かを泊めようとしたら怒られるだろうけど、アリシアちゃんのことはルナーラ姫も認めている。

 お城に入ることも許可されているのだから、快諾してくれるだろう。


 ……部屋を別にしようとするだろうから、そこは全力で抵抗しないといけないだろうけど。

 別にされたら、わざわざアリシアちゃんに泊まってもらう意味がなくなる。


「それでは……お言葉に甘えて、いいですか……?」


 アリシアちゃんは上目遣いで見てくる。

 私の誘いに対して嫌そうにしているのではなく、喜んでくれているようだ。


「もちろんだよ。それじゃあ姫様のところに一回戻って、その後勇者のところに行こっか」

「はい……!」


 アリシアちゃんが嬉しそうに頷いたのを見て、私は腰を上げるのだった。


 ――その後、アリシアちゃんが離れる旨を知った勇者は酷く戸惑い、戻ってくるように言ってきたけれど、アリシアちゃんは勇者の手を取らなかった。

 正直、戻ってくるように言われた時は、心優しいアリシアちゃんが頷いてしまうと思ったのだけど……。

 もしかしたら、将来的には一緒にいるとしても、今は功績を作る必要があると割り切ったのかもしれない。


 私としては、かわいいこの子をクズから引き離せたので、大満足だった。

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