第15話「最強を見て育った故に」
「うぉおおおおおすげぇ!」
「なんであれを躱せるんだよ!?」
「やっぱ、英雄も化け物だ……!」
勇者様の剣技を、必要最低限の動きで躱すミリア様を見て、観客が更に湧きました。
あの方にとって、現代の剣技を躱すなど、造作もないことでしょう。
なんせ、彼女は――魔王や魔物が猛威を奮った、最悪の時代を生き、当時『剣聖』と呼ばれ、
ご先祖様は、こう残しておられます。
『ミリア・ラグイージは、剣技、スキルの才能はともに凡人だが、皆から愛される才能を持っている。彼女さえいれば、皆一丸となってどんな困難でも乗り超えられるだろう』
――と。
だからこそ、ご先祖様は彼女を最強へと育てようとした。
戦闘の才能が人並であろうと、最強の御方の剣を受けて育った彼女には、現代の勇者様の剣技など、スローモーションに見えているでしょう。
「くそがぁあああああ!」
攻撃が全て躱されるので、苛立ったのでしょう。
勇者様は大振りの構えを取ります。
しかし――ミリア様は、その隙を見逃しません。
「隙が大きすぎ」
トンッと軽く手で押しただけでした。
それなのに――勇者様の体は、後方へと吹き飛ばされます。
「「「「「はっ……?」」」」」
おかげで、状況が理解できなかった観客の皆様が、口をアングリと開けてしまいました。
リリアンだけは、既に体験済なのか、それともこれくらいはやられると思っておられたのか、皆様の表情を見てウンウンと頷いております。
「あちゃー、踏み込んだとはいえ、手の力は結構緩めたんだけどなぁ……」
勇者様を吹き飛ばした当の本人は、困ったように笑いながら頬を指でかいています。
木刀で叩いたら死んでしまうと思い、手でされたのでしょう。
あれだけ煽られましたのに、手心を加えるなんてお優しい御方です。
――魔物に対しては、容赦がないようですが。
「おい、これまずくねぇか……? 勇者が負けると、俺たちの金が……!」
「おい、クソ勇者! てめぇさっさと立てよ!」
「負けたら承知しねぇぞ!」
吹き飛ばされて呆然としている勇者様に対し、冒険者の方々が口悪く
賭けをしている彼らにとっては、賭けたほうが負けるのは痛いでしょうからね。
「ミリア様に賭けられた御方は、どれほどおられたのでしょう?」
勇者様がまだ立ち上がるようにないので、私はリリアンに尋ねてみます。
「騎士団に所属しているメンバーは、クルミ・リリス、ミルク・リリスを始め、何人かが賭けておりましたね。後は貴族も数人賭けておられましたが――冒険者は、全員勇者様に賭けたようです。全体では、一割に到底満たないでしょう」
勇者様の実績や実力を知っている冒険者は勇者様に賭け、同じような理由で多くの騎士団員や貴族の方々も、勇者様に賭けたみたいですね。
ミリア様に賭けた騎士団員というのは、おそらく先の大戦で彼女の実力を目にした者たちでしょう。
貴族に関しては――遊びの一環で大穴に賭けたがる御方や、先見の目を持つ御方など、理由はそれぞれだと思います。
「どうしたの、もうやめる?」
立ち上がらない勇者様に対し、ミリア様は声をかけます。
それにより、勇者様はやっと体を起こしました。
「ふ、ふふ……
勇者様は、再度ミリア様に襲い掛かります。
当然、先程と同じように剣技は全て見切られ、躱されていますが――彼は、ブツブツと何かを呟いているようでした。
そして、準備ができますと――。
「やはり、貴様は戦いながら詠唱ができないんだな……! この勝負、俺の勝ちだ……!」
急に距離を取り、剣を落として両手をミリア様に向けます。
その手には、みるみるうちに、炎の円球ができあがっていきます。
大きさは、勇者の体を覆い隠すほどにまで膨れ上がりました。
「知っているか!? この《ファイアボール》はな、己の魔力の大きさに比例して大きくなるんだ! これで、お前を丸焼きにしてやる!」
自信満々の勇者様。
それに対し、ミリア様は――
「《ファイアボール》かぁ……」
――左手の人差し指を天に向けておられ、再度困ったように笑っています。
「はっはっは! 降参するのなら今のうちだぞ……! 俺も鬼ではないからな……!」
「こりゃあ、もう勇者の勝ちだろ……!」
「あんなの作れるの、勇者しかいねぇもんな……!」
「勇者が勝つのはムカつくが、金がなくなるのは嫌だからな!」
「英雄、さっさと降参しろ……!」
観客たちはダラダラと汗をかきながら、興奮気味に二人のやりとりを見つめておられます。
さて、どうしましょうか……?
私が《魔法障壁》を張っても、力不足で壊れてしまいますし……。
「てか、なんか急に暑くなったくね……?」
「だよなぁ……汗が止まらないんだけど……?」
「――ねぇ、勇者さん」
観客の皆様が、流れる汗を手や布で拭き始める中、ミリア様はニッコリと素敵な笑みを浮かべます。
そして――。
「《ファイアボール》って、これだよね?」
右手に持っている木刀を天に突き刺すように、チョンチョンと上下させました。
上を見ろ、とされたようです。
それにより、皆様の視線は天へと向き――
「「「「「はぁあああああ!?」」」」」
――直径二十メートルほどの火の玉に気が付いて、腰を抜かしてしまわれました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます