第13話「お披露目と乱入」
宴が始まった。
国を挙げての宴だ。
私がお城に来てから三日が経ち、冒険者たちがこの街に到着したので、『宴を開始するように』とのお姫様からの通知が、国中に回ったらしい。
魔王を討伐したことで、王家や貴族が宴の費用を負担しているため、国中がお祝いムードだ。
そして、私は――。
「まぁ、ミリア様……! とてもお綺麗ですよ……!」
宴の裏で、似合わない豪華なドレスを着させられていた。
こういうの、お姫様が着るドレスなのに……ルナーラ姫に、押し切られちゃった……。
冒険者には縁がない服だよ……。
「やっぱり、いつもの服で……」
「駄目ですよ? 本日は、英雄様のお披露目なのですから」
かわいらしく小首を傾げながら、私のお願いを切り捨てるルナーラ姫。
素敵なニコニコ笑顔が、今の私には魔王の笑みに見えてしまう。
「英雄らしく、冒険者服のほうが……」
「駄目です」
「…………」
有無を言わさない、笑顔の圧力。
この笑顔、苦手なんだよね……。
お姉様が怒った時にする笑顔と、重なるから……。
さすがに、ルナーラ姫は怒っていないんだけど、圧力をかけてきているのがわかってしまう。
「大変お似合いなのですから、自信をお持ちください」
「本当ですかね……?」
「はい、とてもお綺麗ですよ。そうでしょ、リリアン?」
姫様は、部屋の入口で待機をしていたシルヴィアンさんに声をかける。
「はい、まるで戦場に咲く一輪の花かのように、お綺麗です」
うん、それは綺麗なのかな?
冒険者だから、戦場に咲いている花って例えたのはわかるけど――綺麗具合は、よくわからない。
むしろ、戦場で咲いていられるだけの、図太い花って言われてる気分。
「殿方から婚約の話が持ち上がっても、受けてはいけませんよ?」
「あはは……そんなこと、あるわけないじゃないですか」
ルナーラ姫は、いったい何を心配しているのか。
とりあえずそんな釘を刺されると、やっぱり姫様に狙われている気しかしないから、やめてほしい。
「ミリア様は、ご自身の価値をご理解されていないところがありますね」
「えっ、そうですかね……?」
むしろ、身の程をわきまえていると思うんだけど……。
「そういうところも、ラグイージ様の魅力なんだと思います」
シルヴィアンさんは、私をフォローしてくれた。
……よくわからない方向で。
おかしいな?
シルヴィアンさんにも、わかってないって思われてるの?
「姫様、そろそろお時間かと」
私が首を傾げていると、シルヴィアンさんがルナーラ姫に声をかけた。
「えぇ、そのようですね。それではミリア様、皆様のもとに向かいましょうか」
ルナーラ姫は、私に手を差し出してくる。
手を取れ、ということなのだろう。
さすがに、姫様の誘いを断るなんてできない……。
ということで、私は彼女の手を取った。
そして、宴が行われている広場へと向かうと――。
『皆の者、注目!! 』
先に皆の前に出た、シルヴィアンさんの大きな声が会場に響く。
私の位置からだとみんなの様子はわからないけど、騒がしかった広場がシーンと静まり返ったのはわかった。
次に響くのは――。
『姫様の~おな~り~!』
ルナーラ姫を、呼ぶ声だった。
「それでは、先に行ってきますね」
姫様は私に笑顔で頭を下げると、凛とした表情になって皆の前に出る。
『冒険者の皆様、そして国民の皆様、ごきげんよう。ルナーラ・オリビア・ヴィーナスです。宴は、楽しんで頂けておりますでしょうか?』
彼女は国を治めるにふさわしい者として、堂々とした態度――というだけでなく、国民が心を開かざるを得ないような、優しい雰囲気を醸し出していた。
この映像は、王国全土に映されるというのを事前に説明されている。
庶民や貴族たちの支持を上げるためだろう。
国土自体は広いから、どうしてもルナーラ姫の目が届かないところは多くなる。
ほとんどは、領主をしている貴族にそれぞれ管理を任せているだろう。
だからこういうふうに映像を全体に届けることで、下手に反乱されないよう、仲間外れだと思わせないようにしているのだとか。
『今回の魔王との戦いを、知っていた方々は多いでしょう。ようやく、私たちを苦しめていた悪の
……ん?
悪の、一角……?
『当面の間、アルカディアに危険が及ぶことはなくなったでしょう。命を顧みず戦ってくださった、冒険者と騎士団の皆様のおかげです。本当に、ありがとうございました』
ルナーラ姫は、深々と頭を下げる。
シルヴィアンさんから聞いたことだけど、ルナーラ姫は庶民貴族問わず、大人気らしい。
その人気の一つは、物腰の柔らかさだろう。
そんなことよりも、ちょっと待ってほしい。
さっきの言葉――魔王って、一体じゃないの……?
『そして皆様がご存じの通り、先の大戦では欠かすことができなかった御方がございます。彼女がおられなければ、今頃アルカディアは、魔王の手に堕ちていたかもしれません』
あっ、やばい……!
私の出番だ……!
事前に聞かされていた段取りで、ルナーラ姫の紹介により、私はみんなの前に出ることになっていた。
『それでは、今からその御方にご登場いただきましょう。英雄――ミリア・ラグイージ様です』
姫様に紹介され、私は落ち着いた足取りを意識しながら、みんなの前に出る。
「はじめまして、ルナーラ姫よりご紹介にあずかりました、ミリア・ラグイージです」
私はルナーラ姫の隣に並ぶと、深々と頭を下げる。
そして、顔を上げると――。
「おぉおおおおお! 待ってたぜ、英雄様!」
「俺、あの人が戦ってるところ見たぞ! 魔王軍なんか、虫けらのようだったぜ!」
「きゃぁあああああ! 英雄様、とてもお綺麗です!」
あちこちから、大歓声が上がった。
一緒に戦った、冒険者や騎士団の人たちが集められているとは聞いていたけど、見れば貴族らしき人たちも大勢いる。
そんな人たちに、私は英雄として認められているようだ。
「「ミリアさ~ん!」」
ところかしこから大きな声が聞こえていて、普通なら聞こえなくてもおかしくないのに――私の耳には、聞き覚えのあるかわいらしい声が二つ届いた。
「あっ、あの子たちは……」
見れば、白髪の少女たち――ミルクちゃんとクルミちゃんが、笑顔で私に向けて手を振っていた。
目立つ髪色なので、すぐにわかったのだ。
よかった。
ちゃんと、生きて戻ってこれてたんだ。
「ミリア様、次のお言葉を」
私がミルクちゃんたちに気を取られていたからだろう。
ルナーラ姫が先を促してきた。
確かに、注目されてる中ボーッとしてたら、印象が悪くなってしまう。
「魔王を討伐したということで、英雄と呼ばれることになりました。ですが私は、一緒に戦ってくださった皆さんがいてくださったおかげで、こうして魔王を討伐できたと――」
「――納得、できるか!!」
私が演説をしている中、突然響いた怒声。
こんな段取り、聞いてない。
「やはり、こうなりましたか……」
「えっ……?」
私の隣では、ルナーラ姫が仕方なさそうに溜息を吐いていた。
どうやら姫様にとっては、これも想定内だったようだ。
彼女が溜息を吐くところなんて、ここ数日で初めて見た。
それだけ、問題児なのだろう。
「貴様が英雄なんて、俺は認めないぞ……!」
そう言い放った問題児は――まさかの、勇者だった。
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