第4話「えっ、私、ただのAランク冒険者ですけど……」
「――あんた、逃げないのか!?」
「おかまいなく! 皆さんはさっさと行ってください!」
魔王城の中に入り、入口付近でシルヴィアンさんを待つ間、上位ランクの冒険者の人たちが次々と前線から帰ってきていた。
前線にも伝達はちゃんと行っているらしい。
どれくらいの数が中にいるのか知らないけど、今のところ彼らを追ってきている魔王軍は弱いので、一人で凌げていた。
大きな城なのに出入口は一つしかなさそうなので、ここだけ封じていればみんなを追われることはないだろう。
「あの人、なんであんな軽く魔王軍を倒せてるんだ……?」
「いったい何ランクの冒険者だよ……」
「てかあれ、詠唱なしにスキル使ってない……?」
「勇者って、あの人だったっけ……?」
私が魔王軍の兵を斬り倒していると、何やら冒険者たちが足を止めて私のほうを見ていた。
どうやら話をしているようだけど……。
「おしゃべりはいいから、早く撤退して!! 後ろの子たちは、あなたたちを待っているんだよ!!」
「「「「は、はい……!」」」」
人が戦っているというのに、足を止めて呑気に話をしているものだから、つい怒鳴っちゃった。
何を話しているのかまでは聞こえなかったけど、口を動かす前に足を動かしてほしいものだよ。
そのまま、次々に私は兵を倒していく。
湧き出てくるのは、だいたいE~Dランクくらいかな。
千年経っているのに、見覚えのある魔物もチラホラいる。
ゴブリンやオークなどの魔物を手懐けて兵にしているのは相変わらずだけど、数が多いだけで強くはないため、いくらかかってきても困らない。
これくらいの事態なら、過去に超えてきた修羅場のほうが断然きつかった。
「――な、なんだこれは……」
雑魚ばかりなので、魔力を温存しながら必要最低限のスキルと、剣技で兵たちを倒していると、シルヴィアンさんが後ろから現れた。
その様子は、信じられないものを見るかのように瞳孔が開かれている。
「あっ、もうみんなは逃げられた?」
「あ、あぁ……。すまない、説得するのに時間がかかったが、ようやく撤退の準備はできた……が、この状況は、どうなっているんだ……?」
「どうって、逃げてる人たちを追われないよう、足止めしてるだけだよ?」
まぁ、弱いから倒しちゃってるけど。
こんな雑魚ばかりで追ってきているってことは、魔王軍にとってはこの城を守りきれたらいいのかな?
そんな、甘い連中じゃなかったと思うけど……。
「たった一人で、魔王軍の兵たちを倒したのか……?」
「倒したというか、今も倒し中というか……」
今、目の前で私が戦っているのが見えてないのかな?
別に苦戦はしてないけど、加勢してくれてもいいと思うんだけど。
敵の本拠地だけあって、魔王軍の兵が次々と奥から湧いてきているのに。
とりあえず、『手伝ってよ』という意味を込めて視線を向けておく。
「あ、あぁ、済まない、加勢する……!」
言いたいことが伝わったようで、シルヴィアンさんは慌てて剣を抜く。
とりあえずこの調子なら、あの子たちが逃げる時間は――
「――オマエラ……ヨクモ、ドウホウタチヲ……!」
「キサマラダケハ、ココデヤツザキニシテヤル……!」
シルヴィアンさんも参戦――というタイミングで、四メートル級の魔物が奥から二体出てきた。
片方はゴブリンが大きく、そしてゴツく成長したような魔物。
もう片方は、大きな牙と大きな角が二本ずつ生えた、人型のいかつくてゴツイ魔物。
私の時代にもいた、ホブゴブリンとオーガだ。
どちらもランクはCであり、AランクとSランクである私たちの敵じゃない。
しかし――。
「くっ、大幹部がもう登場か……」
シルヴィアンさんは、険しい表情で息を呑んだ。
「……はい? 今、なんと……?」
「
うっそぉ!?
ホブゴブリンとオーガだよ!?
確かにスキルも使えて、武器も扱う奴らだけどさ!?
私たちの時代にCランクだったモンスターが、そこまで強くなっているの!?
これは、気を引き締めないと……。
ホブゴブリンとオーガに殺されたなんて言ったら、お姉様たちに笑われちゃう……!
「テアシヲモギトッテ、ハラブクロニシテヤル……」
「ミンチニシテ、タベテ――」
「――《エクスカリバー》!!」
絶対にこの二体に負けたくなかった私は、お姉様に伝授してもらった、自分が持つ最大のスキルをぶっ放した。
「ハッ……!?」
「チョッ、マッ――!?」
ホブゴブリン、オーガ、その他諸々は、エクスカリバーの光に包まれる。
そして――跡形もなく、消え去った。
「はぁ……はぁ……」
「…………」
肩で息をする私の隣で、シルヴィアンさんが大きく口を開けて、ホブゴブリンたちがいた場所と、私を交互に見てくる。
何か言いたそうだ。
「ふふ……私の、とっておきなんです……。私だと……魔力の半分を、持っていかれちゃうから……あまり使える場面も、ないんですが……」
この戦いで生き残る気がないからこそ、できる大技だ。
このスキルを使えるのは私とお姉様だけだけど、正直私は扱えているというにはおこがましい。
お姉様はこのスキルをいくらでも打てたし、連発だってできていたのだから。
おそらく、本当に扱えるようになった時は、魔力の消費量がかなり抑えられるんだと思う。
――とりあえず、《魔法障壁》は解除しておかないと……。
《魔法障壁》は、魔法使いや魔法剣士が最初に身に着ける基本スキルだけど、自分の実力に比例して防御力が上がる代わりに、高ランクの者にとっては魔力の消費量が大きくなってしまう。
実力をつけることによって、自分が持つ魔力が膨大になっているからこそ普段は気にならないのだけど、こうやって大技を使った時には残り魔力量が少なくなっているので、さすがに解除をしておかないとまずい。
そうして、《魔法障壁》を解除していると――シルヴィアンさんが、ガバッと私の両肩を掴んできた。
「そ、其方、本当に何者なんだ……!?」
「えっ……?」
何者って――。
「私、ただのAランク冒険者ですけど……」
どうして、シルヴィアンさんはこんなに驚いているんだろ?
お姉様と同じSランクなら、これくらいのことできるはずなのに。
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