第2話「絶望に染まる戦場」
「――踏ん張れ! ここが勝負の分かれ目だぞ!!」
多大な犠牲者を出しながらも、ついに私たちは魔王城へと到着した。
今は
なのに――。
「なんで私、また荷物のおもりなの!?」
道中と同じく、私はミルクちゃんたちと一緒に荷物と馬車のおもりをさせられていた。
ここに魔物や魔王軍が来るということは、この前のように前線が崩れた時なので、魔王城へこちらから乗り込んでいる限りは、そうそう攻められることはない。
ご丁寧に
おかげで、こっちは暇でしかない。
「ほら、私たちのような低ランクが行くと、逆に足でまといになってしまいますので……」
私の機嫌が悪くなっていることを察したミルクちゃんが、気を遣って笑みを浮かべながら説明をしてくれた。
相変わらずかわいい。
「でも、ミリアさんが戦闘に参加しないのはおかしいでしょ? 団長ったら、全然話を聞いてくれないんだから」
私と同じように、クルミちゃんは現状にやきもきしているらしい。
まぁ彼女たちは、私がAランク冒険者だと知っちゃったから、参戦させるべきだと思ってるんだろう。
シルヴィアンさんは信じなかったみたいだけど。
とはいえ、ボロ切れを身に
「――くっ、また戦線離脱者が……」
「もう何十人目だよ……」
一応周囲を警戒しているふりをしていると、治療を任されている部隊の面々が暗い表情をしていた。
そういえば――。
「確かに、離脱者多いよね?」
「仕方ありません、相手にしているのは魔王軍や高ランクの魔物なので、いくら手練れの冒険者や熟練の騎士とはいっても、負傷はします」
そりゃあ、魔王との戦いだから、最高ランクのクエストだとは思うけど……それにしても、多いような……?
そもそも、死んでない限り離脱させる必要がないはずだけど……。
「ポーションってあるんだよね?」
「もちろん、ありますよ。ただ……貴重なものなので、あまり使うわけにもいかず……」
貴重なもの――そっか、フルポーションとハイポーションのことを言ってるのか。
この討ち入りが始まるまで、魔王軍とどれだけ長期で戦っているのか知らないけど……フルポーションとハイポーションの数が少ないみたいだね。
でも、魔法使いの人たちがいるなら、ポーションがなくても……?
もしかしたら、魔力を温存させてるのかもしれない。
比較的、魔法使いは魔力が多い人たちがなるものとはいっても、魔力には限りがあるからね。
「…………てか、ポーションを使っても、知れてますし……」
「お、お姉ちゃん……! 怒られるよ……!」
私が考えごとをしていると、クルミちゃんが何か呟いたみたいだ。
ミルクちゃんが慌ててるのを見るに、他の人に聞かれたらまずいのかもしれない。
「なんて言ったの?」
「いえ、なんでもないですよ……!」
笑顔で尋ねたのに、ミルクちゃんは必死に首を左右に振ってしまう。
おかしいな……怖がられちゃってる……。
「ミリアさん、すみません……聞かなかったことにしてください……」
私が落ち込んでいると、クルミちゃんがシュンとした感じで謝ってきた。
よほどまずいことを言ったみたい。
「あはは、大丈夫大丈夫。何も聞こえてないから」
「あ、ありがとうございます……!」
クルミちゃんはパァッと表情が明るくなり、ガバッと頭を下げてきた。
なんだか凄い感謝されてるんだけど、もしかして……笑って誤魔化してくれた、とでも思われたのかな?
本当に、聞こえてなかっただけなんだけど。
「とりあえず、もう勇者一行と高ランク冒険者の人たちが魔王城に入ってから、かなり経つけど――中、どうなっているんだろうね?」
戦い音はここまで届いているけど、それらは全て城の外で戦っている音だ。
中がいったいどうなっているか、全然わからない。
国の中だけとはいっても、最高戦力を集めて投入してるみたいだし、ここで負けたらあの国は滅びるだろうなぁ……。
他の国がどうなっているのかは知らないけど、せめてヒューマンだけでも手を結んで戦うべきだったと思う。
欲を言うなら、エルフ、ドワーフ、ビーストマンなどの他種族とも協力して、魔王と戦うべきだとは思うけど……国際情勢がどうなっているかなんて、まったく知らないしなぁ……。
少なくとも私たちの時代だと、魔族や魔物以外の全種族が協力してやっと倒せるレベルだったのが、魔王軍の実力だった。
ここまで攻め込めた以上、ヒューマンだけでも力はかなりつけているんだろうけど……。
「――や、やられた……! 勇者がやられたぁあああああ!!」
私が余計なことを考えたせいか、私たちにとって最悪な事態が告げられる。
それによって、その場にいた全員の表情が絶望の色に染まった。
「嘘……? それじゃあ、私たちの負けなの……?」
「クルミちゃん!?」
手から剣を落とし、クルミちゃんの体が倒れそうになったので、私は慌てて支える。
「そんな……私たちみんな、ここで死ぬの……?」
双子だからか、ミルクちゃんも同じように倒れそうになる。
私はミルクちゃんも支え、二人をゆっくりと座らせた。
励ましたいところだけど――希望であった勇者が負けたのなら、励ましたところでどうしようもない。
他の人たちも、完全に戦意を失っていた。
「――しっかりしろ!! まだ戦いは終わっていないぞ!! 前線では、まだ仲間が戦っているんだ……!!」
そこへ響く、シルヴィアンさんの鼓舞しようとする怒声。
無駄だ。
戦場に置いて、最高戦力は絶対に負けてはならない。
こうやって、味方の戦意がなくなってしまうから。
戦意を無くしたものに、勝機などあるはずがなかった。
「――早く……!! 早く治療を……!!」
「駄目だ……全員、致命傷を負っている……」
シルヴィアンさんが味方を鼓舞している中、大切そうに一人の男性と、三人の女性が運ばれてきた。
出発前に顔を見ているから知っている。
勇者一行だ。
前線で戦っている人たちが、なんとか彼らを逃がしたんだろう。
彼らが生きている――それなら、まだどうにかなるかもしれない。
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