第10話 密倉家のやり方
霊媒師であるばあさんは、契約している守護霊を自身に降ろせる。
ばあさんが降ろしたのは、巨大な龍だった。『土地神』というのが何なのかはわからないが、出現後一瞬で周囲の悪霊を薙ぎ払っていたので、『神』の名を冠する存在なのは間違い無いだろう。
「しっかし、見えるってヤバいね」
帰宅後、再度屋敷を見て回ったが、敷地内では呪詛しか見かけなかった。しかし、実家と同じように、境目には何体か悪霊っぽいものがいた。敷地に入ってこれないのは、何らかの術に阻まれているからだろうか?
「一閃」
この術は便利だ。射程は3メートルぐらいだろうか。引き寄せる術を使う必要もなく、悪霊が斬り裂かれて霧散した。握りつぶしたり、殴ったりするより遥かに効率が良い。
「さて、どうしようかな」
夕食までの15分ほどで、呪詛や悪霊への対処は終わった。これなら、あの学校でもやっていけるだろう。
転校初日にいきなり純也くんを殴ってしまったので、霊的な部分以外には注意が必要だろうけど。
「お嬢様さま? 今何をされてましたか?」
お手伝いさんが戸口から外に出てくる。普通の人には、二本指で空中を斬っているように見えるはずなので、目撃されるのはちょっと恥ずかしい。
「夜の散歩。庭、歩きやすくて良かったよ」
「ありがとうございます。庭師に伝えておきますね」
お手伝いさんがさんは、含み笑いのままうなずく。追求がなさそうで、ちょっとだけホッとする。
「ところで、圭織さまがお探しになられていましたよ? 昼間の学校の件で」
「え? お母さん、学校でのこと知ってるの?」
寝耳に水だった。今晩、帰ってきたら説明しようと思っていたんだけど。
「先ほど、相手のご自宅まで、菓子折りを持って謝罪に行かれたそうです」
動きが早い。純也くんの家に行くなら、僕も連れて行ってほしかった。
「え? それは怒られるかなぁ……」
「――怒られるようなことをしたの?」
戸口から、今度はお母さんが出てくる。仕事帰りのスーツのままだ。見るからにお金持ちそうなので、きっと純也くんの家族は驚いたことだろう。
「いや、殴ったし」
「むしろよく止めてくれたって感謝されたから安心なさい。あの子、最近親友が事故で亡くなって、落ち込んでたらしいのよ」
親友、か。親の認識ではそうだったかもしれない。ただ、ここ一年ほど純也くんとは疎遠だったので、本人もそう思ってるかは微妙なところだ。
「良かったぁ」
正直なところ、殴ったのは申し訳なかったと思う。入院していた間に、ばあさんに一閃の使い方を習っておけばあんなことにはならなかった。
「あ、でも、落ち着くまでは登校させないらしいの。あの学校、今ちょっと荒れてるらしいけど、そういう学校に通ってみるのも良い経験よね」
僕は他の小学校に通ったことがない。あれが当たり前だったけど、この子の通っていた小学校は平和だったのだろうか? イジメがない世界とか、ちょっと考えにくいのだけど。
「あの学校、確かにひどいイジメがあったよ」
母親は笑顔でうなずいた。
「聞いたわ。社会に出たら、いろんな人がいるからね。いい機会だから、あなたはイジメに対する対処を学びなさい。あんなのは、ぐうの音の出ない証拠を残せれば勝ちだから」
それはそう。僕も生前そう思っていたことがあるけど、それは僕が無傷で済むならという条件がつく。しかし、無傷だと誰も深刻なイジメとは捉えない。
「勝ち、かぁ……」
母さんの言葉は当事者としては複雑だ。他人任せだと解決しない。当事者は諦めていた。かといって生前のように自力解決を狙うのも命がけになる。生前の僕は、果たして勝てていたのだろうか?
「甘いことを考えてはダメよ? 子どもだからイジメても良いなんてことはないの。もしあなたにやれることがあったら、徹底的にやりなさい」
母親の強い言葉に、少しだけ心が軽くなる。文佳ちゃんの身体を僕の生前のゴタゴタに巻き込むのは心苦しかったが、そう言ってくれるなら存分にやらせてもらおうか。
僕はひっそりと腹をくくった。
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