第9話 前世の実家へ
「もしかしたらイタズラかもしれないんですけど、これ、体育倉庫の裏に落ちてました」
久々に見た母の顔。ちょっと泣きそうになりながら、玄関で折りたたんだ紙を渡す。母親は怪訝な顔で紙を開き、目を見開いた。
「これ、太志の字だわ。間違いない――」
泣き崩れる母。書いたのは僕なので、筆跡が一致するのは当然だけど、一目で見極められるとは思っていなかった。
いつも言い争っていた気がするけど、ちゃんと話をすれば良かったかな。生前言えなかった家族への感謝は、きちんと書けたとは思うけど。
「え? どういうこと? 閉じ込められたの? スマホにパスワード?」
死んでしまって迷惑をかけて、さらにこちらの都合で巻き込むなんて、申し訳なさすぎる。
「じゃあ、わたしはこれで……」
いたたまれなくなって、踵を返す。僕はもうこの家の住人じゃない。ここに帰ってきてしまったら、地縛霊になってしまう。
「あ、あの、ありがとう。お名前を聞いても??」
「密倉 文佳です。久山小学校六年生の」
名前が変わったんだなと実感しながら、そのまま門を開けて外に出る。母は涙ぐみながら僕を見送ってくれた。
「あんたが望むなら、夢で会わすぐらいのことはできるんだがね」
近くで待っていたばあさんが、さりげなく背中をさすってくれる。気がつくと、涙で頬が濡れていた。僕自身は泣いているつもりはなかったのに。
「いや、僕はもう死んだ人間だし、あんまり関わりすぎるのは良くないかなって」
「その通りなんだけど、なんであんたみたいなのがまだ成仏してないのか、理解できないね」
僕自身、何が未練で残ったのか、よくわかっていない。
「じゃ、車呼ぶから、ここで」
迎えは使用人を呼び出すように言われているので、スマホを取り出したところで、ばあさんに強く肩を叩かれた。
「ちょっと待ちな。ちょうど良いから、除霊のちゃんとしたやり方、教えてやるよ」
ばあさんが指し示す先には、生垣に絡まって動けなくなっている悪霊がいた。実家は薄い呪詛で覆われており、それを狙ってきたところで、阻まれたのか。
「あんたに向いてそうな戦い方を見せるけど、あたしゃ本職じゃないから、自分で工夫するんだよ?」
ばあさんは、僕にくれたくるくると巻いた護符を両手に握り、指を二本立てて悪霊に向ける。
「因!」
小声ながら裂帛の気合いがこもった言葉が悪霊と繋がり、ばあさんは指を一気に引く。言葉に絡め取られた悪霊が、あっさりとばあさんの手元に引き寄せられーー
「一閃!」
もう片方の二本指で悪霊は斬り裂かれた。
「ヲヲヲヲ……」
斬り裂かれた悪霊は、呻きを残して溶けるように消える。あっさりしたものだ。
「すげぇ」
「取り憑いた後でも、早期発見できれば今ので祓えるからね。さ、力を込めてやってみな」
よくみると、前世の僕の部屋の窓から、悪霊がのぞいている。やめてくれ。あんなところにいたら、僕が悪霊になったと思われるだろ。
「因っ!」
先ほど見せられた通りに指を振るが、ばあさんがやったような糸状にはならず、直線的なレーザーのようになって悪霊を貫いた。
「キシャアアアアア」
傷つけられた怒りからか、大量の悪霊が僕の家から吹き出してくる。へー。悪霊って、空が飛べて壁もすり抜けられるのか。それにあんなたくさんどうやって部屋に入っていたのだろう。
「一閃っ!」
腕の一振りで斬り裂けたのは5体。反動のつむじ風で、制服のスカートがめくれ上がった。
「一閃っ一閃っ一閃っ!」
次々接近してくる悪霊に恐ろしくなった僕は、使えるようになったばかりの一閃を連打する。
「ちょ! 危ないね! あんた力込めすぎだよ⁉ いったん止まりな!」
一閃がばあさんをかすめ、ばあさんが怒った。軽く踏み込んできて、僕の腕を軽々と押さえてくる。
「まだ、悪霊がっ!」
視界の隅を悪霊がよぎる。もがく僕をばあさんは抱きしめた。
「いきなりそれだけできれば、とりあえずは大丈夫さ。あとはプロに任せときな」
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