第8話 自業自得
「そうかい。あの学校、やっぱりまずいことになってたね」
純也くんの自殺未遂を防いだ僕は、校門まで迎えにきていた運転手さんにお願いして、ばあさんの家に寄ってもらった。
入れてくれた麦茶を飲みながら、漂う線香の匂いにホッとする。ばあさんの家はやっぱり落ち着く。
「うん。悪霊が憑いてたのは今のとこ純也くんだけだけど、呪詛がすごくて。あれ、なんで増えてるの? 学校を呪ってる人がそんなたくさんいると思えないんだけど」
とてもじゃないけど、一人でどうにかできる規模じゃない。
「日本中にニュースで流れたから、それを見た経験者の恨みが一部学校に流れたんじゃないかねぇ。ああいう恨みは、呪術の代わりになるんだよ」
テレビ経由とか、なんでもありだな。
「あれがもっと濃くなると、具体的にどうなるの?」
ばあさんは麦茶を一口飲み、天井を見上げる。
「最初はその場の雰囲気が悪くなる程度だけどね。濃くなってくると、心を病む者が出る。それでさらに雰囲気が悪くなって、それから病気や不注意から来る不運が蔓延していくんだ。呪詛つられて悪霊が寄ってきた段階で、もう素人じゃどうにもならないね。今回は、たまたまあんたがいたからなんとかなったようなもんさ」
確かに、純也くんが不気味になりすぎて、思い切り顔面を殴ってしまった。一応除霊はできたらしいが、顔面はアザになっているだろう。
その後やってきた先生には飛び降りそうだったと伝え、本人も我に返って泣きじゃくって肯定していたので、不問になるはずだ。おそらく、多分………
「学校全体を祓わなきゃいつか大事故だよね」
あの悪霊は純也を捨てて逃げただけかもしれない。だとしたら、学校のどこかにはまだいるだろう。
「祓うって言ったって、あんたを殺した奴らがいるんじゃあね」
「前も言ったけど、僕が死んだのは自業自得なんだよ。戸締まりの確認に来た先生に助けを求めていたら、助かってたんだから。ばあさんの言うことには一理あると思うけど……」
「勘違いすんじゃないよ。あんたが死んだのが自分の業だったとして、それであいつらに業がないってことにゃならないんだよ。あいつらが体育倉庫にあんたを閉じ込めたから、あんたは死んだ。それは紛れもなくあいつらの業さ」
うっ。確かに。しかも、あいつらは僕の死から何も学ばず、また純也くんをいじめている。
「あたしゃ部外者だ。どんな業でも、依頼がなきゃ手は出さない。だけど、あんたらは当事者なんだ。そろそろ好きにやってもいいんじゃないかね? あいつらにとっても自業自得さ」
呪詛の中心はきっとイジメっ子たちだろう。彼らにも未来はあるのだが、だからといって純也くんへの仕打ちは許せない。
「あ、そうそう。好きにやってもいいけど、前みたいなやり方で、その子を犠牲にするのは許さないからね」
それはそうだろう。前世では失敗して死んでしまった。いじめを肩代わりするという手段は使えない。
「イジメ、そんな簡単になくなるなら、苦労はないよね」
前世、これでも色々考えたのだ。親に心配をかけず、友人たちを巻き込まず、イジメっ子の未来を閉ざさない方法を模索して。
「そうなのかい? あんた、小学生っぽくないからね。前世でも、あれで死ななきゃ案外イジメも解決してたんじゃないかね?」
だからそう簡単じゃない。
「やろうとはしたけど、結局わけがわからなくなったし、難しかったと思うよ」
「あんたが死んでも、何も変わらないってんなら悲しいね」
うん? 僕が死んだ? そういえば、前世と今でその点は大きく変わっているのではなかろうか。
親に心配をかけず、と言うのも今さらだし、僕という防波堤がなくなった以上、友人を巻き込まずというのも不可能だ。
変わっていないのはイジメっ子たちだけで、他は激変している。
「いや、今ならもしかしたら?」
優先順位を考え直してみる価値は、あるかもしれない。
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