第5話 転校
僕の名前は「密倉 文佳」。転生前はいじめられっ子の男子小学生だったが、今じゃ超絶美少女になってしまった。共通点と言えば年齢ぐらいだろうか。
他はもう、前世とは何もかも違う。それこそ、トイレやお風呂のやり方から服の着方までだ。
病院のリハビリ中に婦長さんがいろいろ教えてくれなかったら、今頃僕は違った意味で死んでいただろう。身体も醜かった前世と比べて神々しすぎて、いたずらなんてする余裕なんてまったくなかった。
「それで、文佳の学校のことなんだけど」
変化があったのは性別だけではない。霊的なものが見えるようになったのも変化のひとつだ。例えば、向いのソファに座って話しかけてくるお母さんに、けっこう大きな黒いモヤがまとわりついている。
ばあさん曰く、これは人の悪意や恨み、妬みなどにより発生する呪詛で、母さんはまだ誰かに呪われている可能性があるそうだ。このまま放置すると、強力な悪霊が寄ってくるとか。
なので、モヤの尾をたぐりよせて、こっそり握りつぶす。お母さんは外から帰ってくると、いつも呪詛をまとわりつかせているので油断がならない。
「うん」
退院して自宅に戻ってきたのは良いのだけど、そこも前世と比べれば別世界だ。敷地がちょっとした公園ぐらいある屋敷で、でも大きくて濃いモヤがそこかしこに巣くっていた。
「お医者様の先生がね、記憶喪失のまま今の学校に行くと、あなたの精神衛生上良くないって言ってたの。確かに、文佳だけお友達を知らないのはいろいろ気まずいと思うし」
ここは使用人もたくさん働いていたので、怪しまれずにこれだけの呪詛を祓うのはなかなか骨が折れた。一族は相当なお金持ちらしく、恨みもかっていたのだろう。大量の呪詛で一人では全部祓えなかったので、ばあさん様々だ。
「うん」
上の空で返事だけ返す。
ばあさんは霊媒師だけあって、霊とコミュニケーションできる。ばあさんはこの家に護衛として守護霊をつけてくれていた。彼らは呪詛を祓って回るぼくを手伝ってくれている。
「だから、近所の公立に一時的に転校してもらうことにしたの」
次の呪詛は、立ち上がって手を伸ばさないと届かない。お母さんも立つと届かなくなるし、どうしたものか。
「転校? どこの学校?」
やることがなくなって、ようやくお母さんの話が耳に入ってくる。確かに知らない人ばかりの学校で記憶喪失の演技をするより、いっそ初めての場所で誰も知らない相手から人間関係を作る方がやりやすいだろう。いろいろ気を遣ってくれてありがたい話だ。
「聞いても知らないと思うけど、久山小学校っていうところ」
急に知っている学校の名前が出て、ちょっと身体が強張る。この屋敷、実家に近いなとは思っていた。
「どうしたの?」
「ううん? なんでもないよ」
久山小学校は、僕がイジメを受けて、そして死んだ学校だ。
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