第6話 登校初日

「ね~ね~! 文佳ちゃん、LINE交換しようよ」


 最悪なことに、転校先は前世と同じクラスだった。登校初日、まず驚いたのは、あんな事件があったのにクラスの雰囲気が昔のまま。いじめっ子たちが変わらず浮ついていて、他のクラスメイトは彼らと目を合わさない。


「知らない人と交換したらダメってお母さんに言われているので」


 そして、いじめっ子たちのテンションは異様に高かった。何せ今の僕は超絶美少女。テンションが上がるのは元男として理解できるが、相手によってこうも対応が変わるのかと思うと、複雑な気分になる。


「そんなこと言わずにさぁ。友達になろうよ」


 小学生のくせに、まるで街で見たナンパみたいだ。とても鬱陶しい。


「奥原~。相手にされてねぇじゃん」


 こいつはいじめっ子四人組の中で一番下っ端だ。顔は思い出せない上に顔が黒いモヤに覆われていて、まったく見えない。えらく濃いけど、どうなっているんだろうか。

 母さんの呪詛は人為的なものらしいけど、ここはそれ以上だ。


「文佳ちゃん、そんなことないよね?」


 教室も、児童もモヤだらけだ。イジメに参加していない児童にまで、黒いモヤはまとわりついている。密度が濃すぎて、徐々に気分が悪くなってきた。


「ボク、他の人ともお話したいかなぁ」


 口を開いてから、『僕』と言ってしまったことに気づく。


「おっとボクっ子だ〜」


 どっといじめっ子たちが盛り上がる。それを横目に、席を立つ。

 いじめっ子たちをうかがうクラスメイトたちがいたたまれない。誰も僕とはお話ししたくなさそうだったので、ひっそりと廊下に出て、ガラス越しに街の景色を眺めた。


「純也、お前、今笑ったな? バカにしてんのか?」


 ガンと机が蹴られる音が教室から聞こえてきた。どうやら、イジメのターゲットは僕がいじめられる以前の児童に戻ったらしい。


 僕が死んだっていうのに、何事もなかったかのように、同じことを繰り返しているのか。


 イジメっ子にも人生がある。前世の僕は、純也くんを護るために、進んで自分をイジメの生贄に差し出したから、死んだのも自業自得だ。僕が死んで、イジメっ子たちも大人しくなるだろう。そう思って祟るのをやめようと思っていた。


 だけど、今の状況を見てしまうと心がざわつく。かと言って、この身体は自分のものではないので、イジメを肩代わりしたり、復讐をしたりはもうできない。


(……、か……そう……)


 頭に血が上ってイライラした状態で迷っていると、囁きが聞こえた。休み時間特有のざわめきの中では、聞こえるはずのない小さな囁き。


 耳を澄ませてみたが、それ以上は何も聞き取れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る