第6話 生存

「うっ…うう」


ゆっくり目を開けると、ぼんやりと木で造られた天井が見えた。


どうやら俺は仰向けになっているらしい。


ぼやけた視界が徐々にクリアになっていき、それに伴って他の感覚もはっきりしていった。


小鳥のさえずりが聴こえる静かな部屋。


カラカラに乾いた口内。


窓から差し込む眩しい太陽の光。


そしてここはいつも泊まっていたあの宿屋だった。


「な…んで、ここ…に?」


あの時、俺は死んだんじゃなかったのか? 


どういうことだ…?


そう考えているとガチャッと部屋の扉が開いた。


「おお、目が覚めたか。」


誰が来たかと扉のほうを見ると宿屋の女主人、ミシェルさんだった。


ミシェル=ライザット。


俺が泊まっている宿屋『神嵐からん常宿とこやど』の女主人だ。


凄そうな宿名だが、彼女曰く宿名の由来は、昔の自分の戦友に付けられたあだ名が「神嵐からん」だったかららしい。


身長は175を越えておりスラッとしていて華奢きしゃな身体。


くっきりとした黒い眼孔とさらさらの黒い髪。


女主人である彼女は「女将」というより「若女将」という方がしっくりくるだろう。


そもそも彼女はまだ30代前半だというし。


くっきりとした眼孔が中々に怖くて近寄り難いが、実際はとても優しい人だ。


「ミシェルさん、何故…ここに、俺が?」


彼女は近くの椅子に腰掛けた後、思い出すように話し始めた。


「――お前さんがダンジョンに向かってから数時間後に、大急ぎである探索者が走ってきてな。イレギュラーだ、イレギュラーが起きたぞって大声で。んで私はまだダンジョンにお前さんがいるんじゃ……って心配になってね、見知った上澄みの探索者に探しに行ってくれないかと頼み込んで、そのダンジョンに行ってもらったんだ」


俺は黙って話を聞いていた。


「私が行くのが手っ取り早かっただろうが、のせいで思うように身体が動かなくてな……」


そう言いながら、彼女は右手を左腕に添える。


「彼が戻ってきたのはそれから1時間ほどだったか。お前さんを背負って運んできてくれた。それが今ここにいる理由だ」


なるほど、強い人が助けてくれたのか。


是非お礼を伝えたい、その人に。


「その探索者は…まだここに…いますか?」


困憊こんぱいしていた俺は途切れ途切れにそう尋ねた。


「たしか下の階にいたな。何か聞きたいことでもあるのか?」


「はい。……あと、お礼のほうを…」


ミシェルさんは少し微笑ほほえみながらうなづく。


「分かった、じゃあ少し待っていて。」


そして彼女はゆっくりと部屋を出ていった。


――――――――――――――


少ししてからガチャッと扉が開いた。


「目が覚めたんだってな。よかったな坊主」


そう言いながらガタイの良い190cm程の中年男性が叔母さんと一緒に入ってきた。


「あなたが…助けてくれたん…ですか?」


「おう、そうよ。俺はアシスってんだ。よろしくな。」


腰に両手を置いていた彼は ニカッと笑ってそう言った。


「よろ…しく、お願い…します。あと助けてくれて…ありがとうございました。…感謝してもしきれないです。」


「おうよ。まぁ、無事でよかったな」


そして彼は近くの椅子に腰かけ、足を組んだ。


「あの……俺を助けたときに俺の近くに…レッサーフェンリルは…いましたか?」


俺は気になっていたことを彼に尋ねた。


「ん?…いや居なかったぞ?……そういやぁ壁に打ち付けられたような血痕とこんくらいの魔石が落ちてたな……」


彼は怪訝けげんそうな顔つきでそう答えながら、両手でその魔石の大きさを表した。


それは俺の短剣よりも少し大きいくらいのサイズ感だった。


―どういうことだ?


俺は、彼が言ったことをすぐには信じることは出来なかった。


―俺がやられた後に誰かが来て倒してくれたのか?


本当に意味が分からない。


混乱した俺はまた彼に尋ねた。


「他の…イレギュラーで現れたモンスターは…どうなったんですか?」


すると彼がまたニカッと笑い、グットポーズを出してこう言った。


「それなら心配すんな。俺らがまとめて倒したからな。一応Aランク探索者だからな。」


「………俺ら?」


「あぁ……俺のパーティーメンバーだ。つっても俺はリーダーじゃあないけどな。他のメンバーは各々の宿泊先にいると思うぞ」


「へぇ~」


この人(達)はあんな下層の奴らに勝てるほど強く、勇敢で、【霊神の怒り】のあいつらとは大違いだ、と心の中で思った。


―通常、イレギュラーではモンスター1体だけが出てくることはなく、他にもうじゃうじゃとモンスターが湧くことが多い。


その為、多くの探索者はイレギュラーが起こったあとは忙しくなる。


それから数分間、俺は彼に再度、感謝の言葉を伝えてたり、世間話をしていた。


―――――――――――――――


話をしているとあっという間に日が暮れた。


アシスさんは部屋に戻り、この部屋には俺とミシェルさんだけが残っていた。


「じゃあ今日はゆっくりと休むんだ。たとえ回復薬で傷を癒したとしても、身体の疲れは取れないからな」


「はい。今日はありがとうございました」


「ふふふ。それじゃあ」


そして叔母さんは部屋から出ていった。


叔母さんが言ってたように俺は疲労が溜まっていたのですぐに眠りにつくことができた。


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リメイク日(2024 12/4)

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