第5話 イレギュラーと殺戮
―――ゾワッ。
「――ッ!?」
殺気がしたほうへ俺は恐る恐る顔を向けた。
するとダンジョンの奥のほうからゆらゆらと歩いてくるモンスターがいた。
さらりとした長い足、全長ほどもある長い尻尾、銀色の毛並みと金色の瞳。
「――れ、レッサー…フェンリル……」
――レッサーフェンリルとはその名の通りフェンリルというモンスターの下位互換。
フェンリルは美しく光る被毛を纏っており、雷鳴の如く移動するスピード、金剛石をも切り裂く鋭い爪を兼ね備えている。
さらにはフェンリルの所持スキル『全魔法攻撃無効化』で魔法にはビクともしない、物理攻撃でしか倒せない厄介極まれないモンスターだ。
レッサーフェンリルは下位互換といえども上澄みのBランク探索者が倒せるかどうかの敵だ。
そいつの持つ能力は『全魔法攻撃耐性』。
耐性なので上級魔法を連発できる探索者なら何とかごり押しで倒せるが、それ以外は大抵効かないモンスターだ。
もちろん物理攻撃でも倒せるが、そいつを倒すには最低でもBランクではないと無理だといわれている。
スピードも攻撃力も下位互換になっているがBランク探索者でも目を凝らしてよく見ないと見失ってしまうほどの速さだという。
俺は自分には絶対に倒すことのできない相手だと悟り、再度ダンジョンの出口へと急いで駆けようと後ろを向こうとした。
その瞬間、奴がピクッと反応したかと思うとスッと首筋を伸ばして消えた。
「――?! 消えっ」
――ドンッ
「――ぐッッ!」
気づいたら俺は強く壁に叩き付けられていた。
奴は消えたのではない。ただ走って俺に体当たりをしてきただけだったのだ。だがその姿は見えずあたかも消えたように見えただけだった。
「ぐ、うぅぅ」
ズキズキと背中が痛む。何本か骨がやられたようだった。
「ハァ…ハァ、逃げ…ないと」
力を振り絞り、壁伝いにゆっくりと立ち上がる。
だが奴はのうのうと獲物を逃がしてくれるはずもなく、また消えた。
目まぐるしく動く牙と爪。
俺の腕を切り裂かれ、太ももに食いつかれた。
「――っが…ああっ……!」
激痛が走り抜ける。
噴き出す血が、ダンジョンを真っ赤に染めた。さらに、手首や脇腹に奴の爪が突きたてられていく。
痛みが徐々に麻痺し、体中の感覚が薄れ、痛みを感じられない。
ここで、終わりなのか……
信じていた仲間に裏切られ、自身のスキルを馬鹿にされた日は数えきれないほど。
荷物持ちとして利用され、
最後には魔物に食われて、人生終了。
「――こんな…ところで…」
体が燃えるように熱くなった。
ここで死んでたまるか。俺はまだ生きたい。
俺は一度も「こんなスキルじゃなかったら」と自分の能力を卑下したことはない。
あいつらは「外れスキル」だの何だの言っていたが、固有スキルはカミサマが授けてくださったものだ。
そんなスキルを最後まで使いこなせなくて申し訳ない、という罪悪感が常に俺をまとわり続けた。
俺はこんなところでは終われない。終わっちゃいけない。
そう思い、立ち上がろうとしたが俺の体はもう駄目だった。動かない、感覚がない。
不敵に笑って見下すように奴は俺を見ていた。
あぁ、駄目なのか……ここで終わるのか。
意識がだんだんと
その瞬間、俺の脳裏に謎の声が響いた。
《進捗:死を
無機質な女性の声だった。
進捗?覚醒?何を言ってるんだ。……あぁ、そうか。これが幻聴ってやつか。俺も、死が近いのか……
でも、こんなにも幻聴ってはっきりと聞こえるものなのか…あぁ…もし、俺の命の刻限がもう少しあれば……もし、自分の能力をうまく使えていたら……
コイツもさぞかし喜んだだろう。
あぁ……生まれ変わってもこの能力がいいな。そしたらうんと鍛えて強くなってみせる。
そうして俺は最後の力を振り絞って右掌をレッサーフェンリルの方に突き出した。
「――ね……『
俺の言葉は
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リメイク日(2024 12/4)
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