第六話:失恋を受け入れて

 なんで、好きになっちゃったんだろう。

 なんで、よりにもよって親友を――を、好きになっちゃったんだろう。


 こんな気持ちになっても、叶いっこないのに。


 不意に、冷え切ったわたしの手に、みかの温かい手が重なった。


「先輩……せめて、卒業前に想いを伝えるだけでもどうですか。そのほうが、先輩の気持ちはスッキリするかもですよ」


 みかの優しい語りかけに、わたしは首を横に振る。


「――そんなの、わたしの自己満足にしか過ぎないから。ののかにこの気持ちを伝えたって、ただののかを戸惑わせちゃうだけだろ」


 そう答えると、みかは固く唇を結んだ。


「わたしは親友ののか幸せになってほしい。ただ、それだけ」


 ――それにしても。


「ののかの恋人が沼倉で、本当によかった」


 ――思いっきり嫌いでムカつく奴だったなら、二人の仲を引き裂いてやったのに。


 わたしは、わーっと大声を出して立ち上がった。突然のことにみかはびっくりして、ベンチの端まで移動する。


「なっ、なんですかいきなり! 大声だして!」


 わたしは笑って、みかを見た。


「なぁ〜んか、暗い雰囲気になってきたからさ、切り替え切り替え! まだ午後の授業もあるんだしっ」


 みかはしばらく呆然としていたが、やがてクスクスと笑い、最後は思いっきり笑った。


「先輩は、いい人ですねぇ」

「ん? なんだ急に」

「いえ、特になんでもないですよ。そう思ったから、そう言っただけです」


 みかは続けて、上目遣いでこう聞いてきた。


「……つみき先輩、ちなみに……歳下には興味ありませんか?」


 なんの話だかわからず、わたしはただ首を傾げると、みかは「……鈍いですねぇ」と呟いて、弁当を片づけると腰を上げた。


「昼休みも終わりますし、行きましょうか」


 みかに言われ、わたしも頷く。


 それから、途中まで二人で他愛のない話をしながら、それぞれ自分の教室へと戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る