第四話:短い恋
クラスにいるときは、わたしとののかと
わたしたちはどんどん仲を深めて、休日もいっしょに過ごすようになった。
――でも、ううん。だから……かな。
結局は、沼倉とわたしたちは男と女であって。
友人として好きという気持ちは、いつしかまた違うものへと変化していって。
ののかの気持ちが変化するのも、そう遅くはならなかった。
「……わたし、沼倉くんが好き」
ある日、親友であるののかからそう教えられたとき、頭の中が真っ白になった。
なんて答えたらいいのか、わからなかった。
なんとなく、想像はついてた。
いつか、こんな日が来るんだろうって。
……でも、わたしだって。
「……そっか。なら、応援する」
そのひと言を絞り出すだけで、せいいっぱいだった。
◇
しばらくして、冷たい風が頬を突き刺す季節になったころのことだ。
「あのね、わたし、たいちくんと付き合うことになりました」
登校中、ののかにそう報告され、ああ、ここへ来て二人の関係性が変わったんだな、と実感した。
「おめでとう」
しかし、意外にもこの言葉はすんなりと言えた。
日々、このことを覚悟していたからだと思う。
「……えへへ、つみきちゃん、ありが――」
「もう! ほんと隅に置けないヤツめ〜! まだまだ彼氏なんて作らないかと思ってたけど、ののかも立派な女の子ね〜!!」
ののかがお礼を言い切る前に、わたしはののかに思い切り抱きついた。……お礼を言われるのは、なんだか違う気がしたから。
「苦しいよ、つみきちゃん〜」なんて、ののかは笑った。
……これでいい。これでいいんだ。
「ののか。この先も沼倉と仲良くね! 何か沼倉に変なこと言われたら、すぐわたしに言うのよ!」
最後にわたしはそう言った。うん、たぶん……吹っ切れた。
「うん! ……この先も」
急に、ののかの顔が暗くなった。わたしったら、何か変なこと言ってしまったんだろうか。
ののかはわたしの心配の眼差しに気づいてか、すぐさまこう話す。
「ごめんごめん! 先のこと考えすぎちゃって……。だって、卒業したら、みんなバラバラになっちゃうんだって……」
ののかの身体からそっと離れながら、わたしは言う。
「そういえば、進路どうするかはっきり聞いてなかったな……。ののかは、どうするか決めたの?」
「うん。わたしね、そのまま就職することに決めたの。……まあ、就職って言っても、お父さんの会社で働くだけだけど……事務の人がちょうど足りないらしくて、わたしがそこで働こうかなって」
ののかのお父さんは、確か建設会社を営んでいる。なるほど、そのままそこで働くのか。
「そっか。じゃあののかは先に社会人だね。……わたしはてっきり、沼倉と同じ大学へ行くのかと思った」
ののかは「そんなの無理無理!」と首を横に振った。
「それよりもわたし、つみきちゃんと同じ大学に行くことを考えたよ。今まで本当にずっといっしょだったから、離れるのが寂しくて……。でも、つみきちゃんの目指すところはわたしには到底……それに、あんまりにも将来の方向性が……」
わたしはののかと大学まで同じだったら、と少し想像した。
……きっとわたし、大学行けても勉強に集中しないで、ののかとずっといっしょにいそう。
「ののかにはレベルが高いもんね。なんせ、わたしが目指すのは医学部ですから」
「うぅ……まさかつみきちゃん、そんなとこ目指すなんて思ってもみなかったよ……」
落ち込むののかだったが、「でも、何かあったらつみきちゃんに診てもらえるし、安心だね!」と、切り替えが早いようで、ポジティブに考えているようだった。
――ああ、短い恋だったな。
内心そう呟いて、わたしはその後もひたむきに、ののかの親友を演じつづけるのだった。
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