第三話:何気ない願い

「あの男の子、新しいお友達ですか?」


 帰り道、みかはそんなことを聞いてきた。


「うん、お友達だよ! 沼倉ぬまくらたいちくんっていうの。かわいい感じの男の子だよね〜」


 ののかはお下げを揺らしながらそう答えた。わたしの中では、まだ『お友達』の段階まで来ていないんだけど……。あくまで今は、話の合うクラスメイト、みたいな。でも、わざわざ否定するまでもないし、まあいいか。


「へぇ〜。珍しいですね。先輩たちって、基本二人きりが多いじゃないですか」

「まあ、そうだな。でも、今までもほかの奴らとも話したりはしてたし、ほかに友達だっていたさ。……お前と違って」


「なっ……! だ・か・らー! わたしにだって、ちゃんとお友達はいるんですっ!」

「あははっ。みかちゃんかわいい〜」

「ののかふぇんはい、ほっへをいいらないえくだはい〜」


 ののかにされるがままのみかを、わたしは横目で見守りながら、今日も平和だな、なんて思うと同時に、このまま変わらない日々が続くといいなと、何気なく願った。


 きっと、それは無茶な願いなのだろう。


 永遠にこんな関係は続かない。

 いつかきっと、変わってしまう日は訪れるものだから。


 だからわたしは、日々先のことを想像して、『その日』がいつ来てもいいように、常に覚悟を決めていた。


「それじゃあ二人とも、また明日ねー!」


 やがてののかと別れ、今度はみかと二人きりになった。


 二人でののかの後ろ姿を見送っていると、ふと、みかはこう話す。


「……先輩、涼しい顔してますけど、本当は不安じゃないんですか?」


「不安って、何が?」と返すと、みかはこれ以上何か追求してくることもなく、


「別に、いいんですけど」


とだけ答えて、わたしたちはいつものように、談笑しながら帰路についた。

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