第7話 夏休みの宿題


「あぁ~・・・・ぜんっぜん終わんね・・・いいな~こいつは」


部屋に戻ってから時間が経って、隣で口を開けてヨダレを垂らしながら寝ている弟を見ては俺は文句をたれる。


夏休みの宿題なんて無ければいいのにと思いながら、今まで最後に回して上手くいってたから今回もそれでいいかなと少しだけ悪い自分が指先で背中をつついてきた。


「・・・でもな、さすがに自由研究はやらなきゃな」



なんで高校生にもなって自由研究だ?とは思うけど、きっと他の皆も同じこと思ってると思う。


課題なんて何も浮かばないし、お父さんに相談しても多分返ってくる答えなんてだいたい決ってる。


「どうしようかな~」




(・・・・それにしてもあのテレビの事件で誘拐された子ども、けいすけと同い年か)


少し汗をかいている弟のひたいをうちわで扇いでやりながら、だいたいいつもすぐに頭からは消えてなくなるんだけどなとニュースで原稿を読み上げている女性のアナウンサーの声を思い返していた。


今回のは中々に衝撃的なニュースで、しかもけいすけと同い年。



「今日はもう遅いから・・・明日にでも外に出て自由研究の課題でも見つけようかな~。虫捕まえて経過観察とか・・・小学生みたいだな」

「う・・・・ん"~」



うちわで扇いでいたらお腹にかけていた薄手のタオルケットを蹴飛ばして寝返りを打ったけいすけの声に一瞬『え?』と思って手を止める。


「・・・・起きて・・・ないか」



目が覚めたかと思ったけど、身体をひねったそのままの謎な体勢でまた静かに寝息を立てた弟を見て少しため息をつく。



「起こしたほうがいいかな・・・っていうか夜ご飯なんだろ」


まだけいすけはしばらく寝てるかと、うちわを持ち直して今度は自分を扇ぐ。扇風機もあるけどそれを使うのは風呂上がりが一番良くて、今勉強をしているこの時間帯はまだ手動で涼しさを作り出す程度でじゅうぶん。




「数学は楽しいんだけどな~・・・・英語が壊滅的に無理だわ」


なんだよこの横文字と思いながら、プリントに適当に書き込んでいく。こんなことを勉強してなんの意味があるのか。鉛筆を指でクルクルと回して考えようとしても指に気を取られて頭なんて働かない。



一回伸びをして、うちわを机に置き英語のプリントはそこそこに終わらして得意な数学に取り掛かった。



「ん"・・・・」

「・・・・」

「・・・・ここ・・・どこ?」

「おはよ」


まだ半分寝ているのか寝惚け眼で毎回同じことを言うけいすけには毎回同じように返事をしている。寝返りを打って、景色が変わったからなのか知らない場所のようだと言わんばかりに辺りを見渡すその仕草はまるで、ここに初めて来たあの時のようだ。


(赤ちゃんの時と一緒だな)



「ぁ・・・兄ちゃん」

「今日はどんな夢見たんだ?」

「・・・ん~、分かんない」


(宿題はまた夜ご飯食ってから・・・か。風呂上がってそのままゆっくりしてから寝たかったけどまぁいいや)


「覚えてないならいいよ。リビングに行こう、もしかしたらすぐに夜ご飯かもしれない」

「・・・・ぇえ?・・・もう?」

「うん」

「・・・お昼ごはんさっき食べたばかりなのに~?」

「違うわ。お前が寝過ぎなんだよ」



「え~?」と喉の奥から濁った声を出しながら俺の布団の上で思いっきり伸びをして、蹴散らしたタオルケットをまた律儀に自分自身にかけ直している。



「けいすけ、また寝るな。もう起きろ、下に行くぞ」

「やだ」

「なんでだよ」

「・・・・兄ちゃん、今日一緒に寝ていい?」

「お母さんは?」

「兄ちゃんと一緒がいい」

「・・・・いいけど、ちゃんと寝ろよ」


そう言うと首をかしげて俺を不思議そうに見た。


「俺のちんこ蹴るなよって意味だよ」

「ぇえ?蹴ったことないよ?」

「あるから言ってたんだろ」

「・・・・寝てる時?」

「うん」

「・・・なんで?当たったら痛いの?」

「痛いとかじゃない、死ぬわ」

「・・・・・えー?おちんちんって当たったら死ぬの?」



下のワードが出てきたから面白かったのかけいすけは自分で言いながらケラケラ笑いだして布団の上で転げだした。


「いいから起きろ」

「ふふ・・・兄ちゃん面白い」

「面白くない」


タオルケットを何故か自分の右腕にぐるぐる巻きにしてわけのわからないことをしようとしている弟をほって、俺は先に立上がり部屋を出ようとする。


「あ、待ってよ」

「なんでだよ」

「いやだ~。僕も行く」



そんなことを言いながら、右腕のタオルケットをぶんぶん振り回してやっと外れたと思ったら今度は適当にそこら辺に放り投げた。




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