第十九話「埋まらない溝」
早歩きで教室に向かう。
先程エリナは自分達のグループへ誘うべくリリアとリルカを意気揚々と探しに行った。けれども戻ってきた彼女の様子はルベッカ曰く元気がなかったらしい。
そこから考えられることは一つ。間違いなくリリア達と何かあったんだ。
教室に入ると、ティーナが自分の席で突っ伏しているのが目に入った。迷わず彼女の元へ行く。
「ティーナさん」
私の声に僅かに反応した彼女は、机に震える指でバツを書いた。
「そう。他の人を探しましょう」
彼女の頭が小さく動く。私はそれを頷きと判断した。
「あ、あの、何かあったんですか?」
教室まで一緒に来たファルナ様が尋ねてくる。私は小声で答えた。
「リリア様とリルカ様を誘うつもりだったのですが、断られてしまったようです」
「そう、だったのですね……」
その瞬間、ひそひそと声が聞こえ出す。
「ティーナさん、断られちゃったみたいね」
「やっぱりリリア様は聖女様のこと良く思ってないのよ」
「この前ティーナさんが乗馬クラブの体験をした時も魔法で馬を操ったって話だわ」
「酷い話ね」
「ティーナさんはリリア様と仲良くしたがってるのに」
「なんて醜い嫉妬かしら」
「やめてよ!」
ティーナが叫ぶ。
「彼女が何一つ悪くないこと、アタシが一番よく知ってるんだから!」
怒るティーナに向かって一人が言う。
「ティーナさん、強がらなくていいのよ」
「そうよ。リリア様に問題があるんだわ」
「この前ティーナさんがリリア様に突き落とされたのだって、カルロ様が嘘をついたのでしょう?リリア様に命令されて」
疑いの視線が私に向けられる。
「そっ、それは違います!」
否定するも彼女達が私に向ける目は変わらない。取り巻きの一人であるステイミーが言う。
「そんなことを言って、あなたが一番怪しいのですよカルロ様。ティーナさんの親友のフリをして、本当はリリア様に情報を渡しているんでしょう?」
「そんなこと――」
「もういい!」
ティーナは席を立ち教室を出て行った。
「ティーナ!」
「無駄です。あの子はもうあなたを信じませんわ」
振り返ると彼女は不敵な笑みを浮かべていた。
「あなたいったい……」
「ストップ!」
彼女は腕を頭上に掲げ、指を鳴らす。
その瞬間、私と彼女以外の時が止まった。
ステイミーが口を開く。
「正直あなたが邪魔なんですの。あの方にとっても私にとっても」
「あの方……?」
「私達の目的はただ一つ。この世界が歩むべき本当の物語を紡ぐこと。それを邪魔するあなたには消えて貰います」
「そんなの――絶対お断りだよ!」
私は叫んだ。このまま終わるなんて絶対に嫌だ。ちゃんとエリナと仲直りしたい。
「モブの分際でティーナさんの親友だなんて許しませんわ!」
「モブって、あなたもまさか転生者!?」
「あの方も言ってましたけどその『テンセイシャ』ってなんですの!?」
どうやら知らないらしい。彼女は正真正銘この世界の住人であるようだ。
「あの!助けてくれない!?」
突如教室の扉が開き、金髪の女子生徒が飛び込んできた。リリアだ。私は驚いて叫ぶ。
「リリア様!?」
「カルロさんとステイミーさん!良かった、リルカが突然動かなくなっちゃって。何か原因わかる?」
「なんですのあなた!今取り込み中ですわよ!?」
「取り込み中って――ケンカは良くないよ!」
リリア、もといアツミは見るからに怒っている。平和主義の彼女らしい。
私はなりふり構わず叫んだ。
「アツミ!私と一緒に戦って欲しいの!!」
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