幕間掌編2「一つ目の分岐点」

それはエリナからゲーム内での話を聞いた直後のことだった。

「ねぇ待って」

私は掠れた声で言う。おかしなことに気がついてしまったのだ。

「どうかした?」

エリナは気にならなかったらしい。いつもと変わらない様子で聞いてくる。

私は真面目な話をするときのようなトーンで尋ねた。

「ゲーム内でヒロインがクラブに入るのっていつ?」

「デビューした夜会の少し後だけど」

「本来ならその時点でリリアは追放されてるよね?」

「そうだけど――あぁ」

「違うの!?」

何かを思い出したらしい。私は思わず彼女に詰め寄る。私の態度にエリナは少し焦った様子で宥めてきた。

「ちょっと、落ち着きなさいよ」

「だって……」

「その様子、てっきり小説にも書いてあると思ってたけど違うみたいね」

彼女は一呼吸おいてからその事実を口にした。

「『マジスト』ってね、ハードモード限定で追放失敗ルートがあるのよ」

「追放失敗ルート……?」

「そう。攻略対象達の好感度が一定値に届いてなかったり、突きつける為の証拠が足りないとヒロインの被害妄想で片付けられちゃうの」

「そんなことあるんだ……」

「ま、アタシにとってはハードモードもチョー簡単だったけどね」

エリナは自慢げに語る。

「でもその先の内容を知ってるってことは、少なくとも一回は失敗してるよね?」

敢えて水を差すと、彼女は顔を真っ赤にして叫んだ。

「そっ、それはわざとよ!二十回とかはしてないんだからね!?」

「そっかー」

「何よその反応は!」

小説にはそこまで細かく書かれてはいなかったけど、エリナが『マジスト』を結構やり込んでいたというのは知っている。

ともかくゲーム自体に矛盾が発生していたわけではないのを知って私は安堵した。

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