第十四話「話を聞いてみて」
「あーもう!」
自室に入るなり声を荒げたエリナは、制服姿のままベッドに座った。
「あんな思い二度とごめんよ!」
なんせ自分の乗った馬がいきなり暴れ出したのだ。そんなの誰だって怖いだろう。
「怖かったよね、よしよし」
私は彼女の頭を撫でる。
「ユイカ~って、アンタに撫でられたところで嬉しくないわよ!」
「あ、ごめんつい」
すぐさま彼女の頭から手を離した。エリナの顔を見ると明らかに怒っている。
「ったく、アタシアンタの妹じゃないんだからね?」
「ごめんて」
私に血の繋がった弟や妹はいない。けれども一人弟のような存在がいる。時々彼の頭を撫でているからか、たまにそういった衝動に駆られてしまうのだ。まぁ当の本人からは子供扱いするなと怒られてしまうけど。
「とにかく乗馬クラブは無理。他を探すわ」
「うーん……ちなみにアルバー様達のクラブって把握してるの?」
「当然よ。アルバーは天文クラブ、ルトロルドは歴史研究クラブ、サラディオは無所属よ」
私の質問にエリナはスラスラと答えてみせた。
「なるほど……」
「そうなると天文クラブか歴史研究クラブってことになるわね。選択肢としたら」
「まぁ、そう、だね」
私の反応に対しエリナは眉をひそめる。
「なによ、歯切れ悪いわね」
「あぁいや、大丈夫だから気にしないで」
「ならいいけど」
追及されなくてよかったと内心安堵する。
エリナと話している中で私は一つ思ったことがあった。
やはり彼女の中に演劇クラブという選択肢は無いらしい。
向いていると思うんだけどな、演劇。
けれどもその言葉は心の内に留めておくことにした。
そもそもこの学園に演劇クラブがあるか怪しいし、何より大切なのは彼女自身の気持ちだ。
「そうと決まったら明日はアルバーとルトロルドに話を聞きに行くわよ」
アンタも来なさい、と彼女の目がそう言っている。
「了解」
私は小さく頷いた。
翌日の放課後、私達はアルバー様に天文クラブの話を、ルトロルドさんに歴史研究クラブの話を聞きに行った。
課金アイテムの効果か、二人ともティーナが自分の所属するクラブに加わるのは大歓迎のようで、一から丁寧に教えてくれた。
私の方は興味深いと思って楽しく聞いていたのだけれど、肝心のティーナは退屈そうだった。どうやら知識系の話はあまり好きではないらしい。
自室に戻ってきた彼女は開口一番に言った。
「あー退屈だった。話してるのがあの二人じゃなかったら途中で遮るところだったわ」
「そう?結構面白いと思ったけど」
「アタシにはそう思えなかったのよ」
「そっか……」
これでゲームにおける攻略対象達の所属するクラブは全滅だ。
「このまま所属しないのもありかしら。サラディオみたいに。ユイカはどう思う?」
「エリナがそれで良いなら反対しないよ」
「そう……」
エリナの表情は曇っている。声をかける前に彼女が再び口を開いた。
「ユイカはどうして文芸クラブに入ったの?」
「私は――昔から物語が好きなの。前世からずっと」
前世のことを思い返しながら言葉を紡いでいく。
「人に裏切られても、物語だけは裏切らなかった。中にはどんでん返しや意外な結末もあったけど、私に楽しい一時を与えてくれた」
「へぇ。それがどうして書く方に繋がったの?」
「読んでいる内にね、私が楽しい一時を与える側になりたいって思ったの。だから物語を書き始めたんだ」
「そう……前世からって相当よね」
「エリナは?」
私は彼女に尋ねる。
「エリナは何かしたいこと、無いの?」
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