第十三話「忠実に行くならば」
放課後、私はティーナの付き添いで乗馬クラブの活動場所にやって来ていた。
目的はクラブの活動を体験するため。
彼女がランデリック殿下に教わりながら乗馬する様子を見つつここへ来る前の会話を思い出す。
「そういえばゲームでのヒロインはどこに所属するの?」
「ランデリックと同じ乗馬クラブよ。ゲームだとそこでリリアに意地悪されるの」
「リリア様は料理クラブなのにどうやって?」
「ゲームの設定だとアイツも乗馬クラブなのよ」
「あぁ、なるほど……」
ここがゲームと小説の設定で大きく違うところだ。この世界のリリアは料理クラブに所属している。きっと彼女の転生者であるアツミが料理好きなのだろう。
「きゃあぁぁぁぁぁっ!」
突然悲鳴が上がった。ティーナの声だ。
「嘘、でしょ……?」
馬が走り回っている。その背中にはティーナが必死にしがみついていた。
「フレーデ!落ち着くんだ!!」
ランドリック殿下が叫ぶ。それを聞いた馬は我に返った様子で立ち止まった。その衝撃でティーナの身体が宙へ投げ出される。このままじゃ危険だ。
「テレポート!」
私は急いで瞬間移動魔法を発動し、ティーナが落ちてきたところをギリギリのところで受け止めた。
「大丈夫?」
涙目の彼女は私の顔を見るなり怒鳴った。
「このおバカぁ!また危ない助け方して!!」
「ご、ごめん……」
グーにした両手で胸の辺りをポカポカと叩かれる。地味に痛い。
「二人とも怪我はないか?」
ランデリック殿下が駆け寄ってきた。
「はい、見ての通り無事なのでご安心を」
「っていうか、その、下ろしてくださいカルロ様ぁ!」
「あらごめんなさい。忘れてましたわ」
叫んでいても猫を被るのは忘れない。さすがの演技力だ。私はすぐに彼女を下ろす。
「本来は大人しい馬なんだが、まるで幽霊でも見たかのように突然暴れて出してな。すまない、ティーナ嬢」
「いえ!きっと私の乗り方が下手だったんですよぉ」
「そうか?君がそれなら良いんだが……」
言葉を濁す殿下。私は一つの考えに至った。
もしかすると彼はリリアがやったと疑っているのかもしれない。
転落事故が起きる前、リリアはティーナ、というかエリナの策略で様々な嫌がらせの濡れ衣を着せられていた。
エリナを正面から邪魔していた私とてその全部を防いだわけではない。
言ってしまえば、婚約破棄には至らずに済んだもののリリアがティーナに嫌がらせをしているという噂を完全に消すことはできなかった。
正直私は疑っている人物がいる。リリアの親友であるリルカだ。
彼女がティーナのことをよく思っていないのは明らか。黒幕は誰かを考えた時に真っ先に彼女が浮かんだ。
とはいえ、いくらなんでも彼女がそんなことをするだろうか。実際彼女の代わりに嫌がらせをしたところでリリアは喜ばず、むしろ心を痛めるはずだ。少なくとも小説内で描かれているリリアの転生者、アツミはそういう人物だった。
どちらにせよ証拠がない。その状態でリルカ本人に直接尋ねても彼女は容疑を認めないはずだ。
「タルコット子爵令嬢?」
殿下の言葉で我に返る。
「ごめんなさい。今度のクラブのことで少し考え事をしておりましたの」
「そうか。とりあえずフレーデは落ち着かせたが……」
殿下はティーナに視線を向ける。体験を続けるか、否かということだろう。
ティーナは申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい、ランデリック様。私、乗馬は向いてないみたいです」
「こちらこそすまなかった。君に合うクラブが見つかることを願うよ」
「はいっ。ありがとうございます」
こうして私達は別のクラブを探すこととなった。
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