第十一話「大切なその時」
寮に着いた私は外出用の服から部屋着に着替える。
今日は驚いた。まさかエリナと町中をめぐることになるなんて。
元々歩くのは好きだけど、親友と一緒だとこんなにも楽しいのだと実感する。一人で行くのが当たり前だった私にとって今日の体験は実に新鮮だった。今後はお茶にも誘ってみようかな。
バッグから紙製の小袋を取り出す。中にはエリナと買ったブローチが入っていた。
私はそれをアクセサリーボックスに納める。大切なものだもん。ちゃんと仕舞っておかなくちゃ。
蓋を閉めたと同時にノック音がした。
「私が出ます」
ヴァレッタが申し出る。
「ええ、お願い」
彼女はすぐに戻ってきた。
「ティーナ嬢です。どうしますか?」
「すぐ行くわ」
私が彼女の部屋に行くことは何度かあれど、向こうがこちらの部屋に訪ねてくることは初めてだ。内心首をかしげつつ向かう。
「いらっしゃいティーナさん。どうしたの?」
「早速着けてみたの。似合うでしょ?」
彼女の胸元には金色のブローチが輝いていた。
「うん。すっごく似合ってる」
「でしょう。そういうアンタは――着けてないじゃないの」
「だって大切なものだから、ここぞという時に着けようかと――」
「今がその時!絶対着けて!!」
「わ、わかったからちょっと待ってね」
エリナのものすごい剣幕に押された私はブローチを慌てて着けに行った。
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