第十話「イルディオのアイテムショップ」
「ご購入ありがとうございました。またのご来店お待ちしてますね」
メルダさんの言葉に対し、私達は会釈を返しつつ店を出た。
「じゃあ帰ろっか」
私の言葉にエリナは不満げな顔をする。
「えっ、ダメなの?」
「寮の門限までまだ時間あるじゃない。折角だからアタシの行きつけの店教えてあげる」
「本当!?」
驚いて聞き返すと、彼女は眉をひそめた。
「なによ、イヤなの?」
私は大きく首を横に振る。
「ううん。すっごく嬉しい」
「そんなことで喜ぶなんて大げさね。さっさと行くわよ」
「あっ、待ってよー」
早歩きでその場をあとにした彼女を私は慌てて追いかけた。
「ここよ」
案内された店の名前は私も知っているものだった。興奮した私は思わず叫ぶ。
「イルディオのアイテムショップ!こんなところにあったんだね」
「そうよ。アタシも見つけるのちょっと苦労した――」
「じゃあ早速お邪魔しまーす!」
「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」
怒るエリナを尻目に私は扉を開けた。
「おぉ~すごい忠実」
店の中の様子は文章で描写されていた光景そのものだ。
「いらっしゃいませ」
奥から現れたのはこれまた原作の小説を忠実に再現したような特徴を持つ人だった。コミカライズもされてたみたいだしそっちも読んでおけば良かったかなぁ。
「やっほーイルディオ」
「やぁティーナ、この方は?」
「タルコット子爵令嬢ことカルロ様よ。アタシの親友なの」
「はじめまして、カルロ・タルコットと申します」
顔を見られないよう私は頭を下げる。今の私は間違いなくにやけている。不自然な程に。
親友。改めてそう口にされるとなんだか照れ臭い。
「驚いたね、まさかティーナに親友ができるなんて」
「ちょっとそれどういう意味よぉ」
「だって聖女様とはいえ一般庶民なんだから、貴族の方々に馴染めるか心配で」
「失礼な。アタシちゃんとやってるわよ。でしょう?カルロ様」
「そうね。ティーナさんはとてもしっかりしていて皆さんともすぐ打ち解けていて驚きましたわ」
「そうでしょうとも!アタシ凄いんだから!!」
彼女はそう言って胸を張る。まぁ、大半はアイテムの力が関係しているのだけどね……
「そういえば今日は何しに?前回購入した量的にチャームと魔法薬はまだ残ってるはずだけど」
「それは大丈夫よ。っていうか、もう買うつもり無いから」
「「えっ?」」
私とイルディオさんの声が重なった。一方当の本人はあっけらかんとしている。
「何よ、何か問題?」
「いや、まぁボクとしては大丈夫だけど……」
「私もまぁ、ティーナさんが決めたことなら……」
どういう風の吹き回しだろうか。エリナが課金アイテムの購入をやめるだなんて。
私が困惑しているのをよそに彼女は言った。
「それよりアレ、カルロ様にも見せてあげてよ」
「あぁ、アレだね」
イルディオさんは頷くと、店の奥へ消えた。
その間に私は小声で尋ねる。
「ちょっとエリナ、課金アイテムをもう買わないってどういうこと?」
「どういうことって、そのまんまよ。買う必要が無いと思っただけ」
「そっか……」
どんな理由があるかはわからないけど、課金アイテムの使用を止めてくれるのはありがたい。だって無理矢理好意を植え付けさせてるんだもの、あのアイテム達。やっぱり人として良くないと思うの。
「やぁ、待たせたね」
イルディオさんが持ってきたのは箱だった。外にはハンドルが飛び出ている。見覚えのある形に私は目を見開いた。
「これってもしかして――」
「オルゴールよ。本当はミュージックプレイヤーとかが欲しかったんだけどね」
「おいおい、これでも全力は尽くしたんだぞ?」
「わかってるわよ」
興奮を抑えきれない私は心拍数が上がるのを感じながら尋ねる。
「あの、聞かせて貰っても?」
「もちろん」
彼は箱を開き、ハンドルを回し始めた。初めて聞く曲だった。
「……これ、なんの曲?」
「決まってるじゃない。『マジスト』のテーマよ」
「そ、そうなんだ……」
エリナの返答に私は苦笑することしかできなかった。
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