101. 精霊魔法は成功……?

「大丈夫だ。魔法は、属性魔法だけではない。精霊魔法にチャレンジしてみようじゃないか」

「よろしく頼む……あ、いや、お願いします」

「任せておきたまえ」


 レステンがトンと自分の胸を叩く。なかなか頼もしいじゃないか。


 精霊魔法は、精霊を介して世界に干渉する魔法だ。使用者は自らのマナ……いわゆる魔法的エネルギーを精霊に譲渡し、それをもとに精霊が力を行使する形となる。


 なるほど。俺が直接魔法を放つわけではないので、額から出ることはない、ということか。


「最初のステップとして、精霊を召喚し、契約を結ぶ必要がある」


 レステンによれば、精霊にはそれぞれ属性があり、その属性に縁のある触媒を用いた儀式を行うことによって契約が結べるらしい。触媒はレステンが用意してくれたので、それを使って早速試してみる。


「ダーリン、頑張るのです!」

「ああ」

「張り切るのも良いが、落ち着いてやりなさい」


 おっと、そうだな。と言っても、儀式はゲームシステムに則って実行されるので難しいことはない。


「火の精霊よ、我が呼び声に応えて、姿を現せ!」


 儀式に使用した簡易祭壇が輝き、手の中の触媒が砂になって消えた。そして――――


「あ痛っ!?」


 空から何かが降ってきた。床に転がったそれはフライパンである。


 見間違いかと思った。フライパンに似た別の何かなんじゃないかと願った。しばらく待ってもソイツはピクリとも動かない。渋々手に取ってみると何故か手に馴染んだ。


 残念ながら、どこからどう見てもフライパンである。


「……レステン?」

「召喚に失敗したようだな。だが、精霊が呼び声に応えないことは珍しいことではない。根気よく何度も繰り返せば――――これは!?」

「な、何だよ……」


 フライパンが降ってきても冷静だったレステンが、解説の途中でいきなり大きな声を上げた。驚愕の表情を浮かべ、それきり固まっている。


 なんなんだよ。不安になるからそういうのやめろよ。


「……ダーリン、落ち着いて聞くのです」


 動かなくなったレステンに代わり、リリィから状況説明があるようだ。絶対にろくな話にならない前置きから入ったので、気が滅入る。


「なんだ?」

「そのフライパンなのですが……ダーリンとの間に精霊契約が結ばれているのです」


 はぁ!?

 このフライパン、実は精霊だったのか? そんなわけあるか!


「なんで!?」

「それはダーリンだからと言うほかないのです」

「おおぅ……」


 それを言ったらおしまいだろうが。改善策が立てられない。


「レステン!」

「ど、どういうことだ。魂を持たない存在との間に契約が……? そもそも儀式において精霊力が……」

「おい、戻ってこい!」


 頼みの綱のレステンは、硬直状態からは脱したようだが、今度はブツブツ何かを呟くだけの存在になっていた。まるで役に立たない。


「そっとしておくのです。リリィにもちょっと気持ちがわかるのです」

「そっち側に立とうとするな!」


 まぁいい。精霊契約は一度きりというわけではない。他の精霊とも契約を結べばいいのだ。


 そう思ったのだが……


「火の精霊はそれ以外と契約が結べなくなったみたいなのです」

「……何故?」

「相性が良すぎて、割り込めないのです」

「……契約解除は?」

「それも相性が良すぎて無理なのです!」

「……おおぅ」


 どうやら、俺はどうあっても火の精霊とは契約を結べないらしい。


 なんなんだよ、このフライパン。装備したら外せない呪いのアイテムか? そういえば、GTBのときも同じようなことを考えた気がするぞ。……まさか、留守番させられているライの怨念とかじゃないだろうな?


「わかった。火の精霊は諦めよう。他の精霊に賭ける……!」

「やってみるのです!」


 リリィに補助してもらい、儀式を再開する。


 水の精霊を召喚すると……


「うがっ!? また頭に!」

「金だらいなのです!」


 土の精霊を召喚すると……


「うぉ!?」

「華麗な回避なのです!」

「スコップは危ないだろ!」

「シャベルかもしれないですよ」

「どっちでもいいわ!」


 風の精霊を召喚すると……


「これは……鉄扇か?」

「風流なのです!」

「いや、そうでもないだろ」


 光の精霊を召喚すると……


「それは……読めていた!」

「さすがダーリンなのです! ナイスキャッチ!」

「鏡は駄目だろ、鏡は……」


 とまあ、見事に無機物のオンパレードだった。一応、属性に関係していそうなものが出現しているが、何の慰めにもならない。


「残るは闇属性だけか……」

「何が出るですかね? 闇に関係ありそうなもの……サングラスとか?」

「ちょっと違わないか? いや、そうじゃないだろ。精霊を呼ぶんだよ」

「はっ! そうだったのです!」


 まったく。いやまぁ、これまでがこれまでだからな。俺にも、また駄目なんじゃないかって思う気持ちがないわけじゃない。


 だが、諦めてたまるものか! ここで何か出てくれないと、困るんだよ! 本当に頼むぞ!


「闇の精霊よ、我が呼び声に応えて、姿を現せ!」


 懇願するような気持ちで、召喚の呪文を唱える。条件反射的にその場を飛び退くが……落下物の存在はなし。


「ダーリン、祭壇が!」

「おお!」


 リリィに言われて簡易祭壇に目をやると、闇が渦巻いていた。今までにない反応だ。


 固唾を飲んで見守る俺たちを前に、闇が弾けた。同時に何か小さな生き物が飛び出してくる。


 これは……まさか成功したのか?


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あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!

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